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自殺を誘発する無為

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 と幹部の人にいうと、
「分かりました」
 と言って、離席してから少しして、幹部が連れてきてくれた。
 三人はまるで借りてきたネコのようにおとなしくしていたが、刑事と面と向かうのは初めてなのだろう。何をどうしていいのか分からないと言った様子だった。その気持ちも分からなくもない辰巳刑事は暖かな目を三人に向けていた。
「さっそくだけど、三人はここで被害者を発見したんだよね? その時のことを少し話をしてくれるかな?」
 と辰巳刑事は言った。
「ええ、でも、あまり僕たちは何も知りませんよ」
 と言って、先に伏線を敷いたが、それは刑事というものに対しての警戒心からではないだろうか。
「ええ、構いませんよ。とりあえず、ありのままを教えてください」
 と辰巳刑事は言った。
「僕たちはまだこの教団ではほとんど新参者なんですが、その分、奉仕として、早く起きて道場の掃除をするんです。まだ目が覚めていない人もいて、半分ボーっとして現れる人もいるんですが、僕は比較的目が覚めるのが早いので、道場に入った時には、ほぼ意識はハッキリしていました」
「なるほど、それで?」
「はい、私は皆がまだボーっとしている分、まずは道場内を見渡すようにしているんですが、あそこの道場には、横に小さな部屋があって、その部屋は普段は扉が閉まっているんですが、その時は開いているのにすぐに気付いたんですよ」
「どうしてすぐに気付いたんですか?」
「普段扉が閉まっている時は、壁と同化しているように感じるので、意識しないんですが、電気が消えていると、そこだけが暗いんですよ。そのために、違和感を感じたので、せっかくだから、普段はしないんですが、今日は隣の部屋も掃除しようと思ったんですよ。それで電気をつけに行った時中に入ったんですが、その時、電気がついたのかを確認しようと後ろを見ると、その中央に倒れている何かがあるのに気付いたんです。最初は黒い塊にしか見えませんでした」
「誰かが倒れているとすぐには分からなかったんですか?」
「分かっていたのかも知れませんが、信じられないという思いが働いたのか、にわかには人間だとは信じられませんでした。そのうちに、他の連中が僕の様子がおかしいのに気付いて声を掛けてくれたんです。それで我に返ったというところでしょうか」
「じゃあ、その時に、そこに誰かがいるということを分かったわけですね?」
「ええ、そうです。声を掛けられて我に返ると、背筋に寒気を感じて、それに伴って、姿勢がよくなった気がしたんです。まるで棒を飲み込んだような感じですね。そのせいか、足も棒のようになって動けないんです。僕が動けない分、他の人は動けるようで、実際に確認してくれたのは、彼だったんですよ」
 と言って、ちょうど隣にいた一人の小僧を指差した。
 彼の方が一回りほど体格はいいが、最初に話をした彼の方が、この中では一番しっかりしているようだった。彼が最初に口を開いたのは第一発見者だというよりも、彼がこの中でのリーダー的存在だということを示していた。
 だからといって、長のようなものではない。さりげなく醸し出される雰囲気が、彼をまわりが無意識にリーダーのようにしてしまうオーラを感じさせるのだろう。
 これは、本人が望んでいようが望んでいないことであろうが、まわりの誰もが認めるそんな雰囲気に、不自然さはまったくなかったのである。
 指差された彼は、自分から話し始めた。
「ええ、私は。彼の後ろから見えたんですが、自分の身体は見ての通り、人よりも少々大きいので、彼の後ろから、彼の視線の延長線上という形で見ることができるんですよ。だから彼が見た視線と同じで見てみたんですが、なるほど、最初に彼が思ったように、何かがあるが、それが何かすぐには分かりませんでした。でも。私は彼が最初に見つけてくれたので、ワンクッションあり、そのおかげで、すぐに人間だって分かったんです。そしてすぐに駆け寄って、眺めてみたんですが、私は医学の知識が皆無だったので、少し医学の知識のあるもう一人に委ねたんです」
 と彼がいうと、もう一人が手を挙げた。
「はい、今度は自分が引き受けます。自分はそこに転がっているのが人間だと聞かされて、初めてあの部屋に入りました。救急救命士の勉強をしたことがあったので、彼らに比べれば医学の知識はあるつもりです。でも専門家ではないので、自分なりに見てみましたが、自分が分かったことは、大したことではありません。胸を刺されているということと、すでに死亡しているということくらいで、死後数時間が経過していることは分かりましたが、時間までは見当がつきません。だから、警察への連絡を指示したんですよ」
「その後、教団幹部の方を呼びに行かれたんですか?」
 と辰巳刑事がいうと、
「いいえ、呼びに行ったわけではなく、この部屋の異変に気が付いたのが、幹部の人がやってきたんですよ」
 と最初のリーダー格の人が言った。
「じゃあ、最初に発見した時に大声を出したんですか?」
「いいえ、大声を出したというわけではありません。三人が三人とも息を呑んだように、低く呻いた程度です。それだけで異変を感じたとは思えません」
「だとしたら、どうして幹部の人はすぐに来られたんでしょうね?」
「私たちには分かりません。ただ、私たちがどうしようかと思案していた時、気が付けば後ろにいたのが、幹部の一人でした。その人も声を挙げなかったので、同じように立ち竦んでいるような感じでしたが、僕が振り返った瞬間、その幹部の人も我に返って、すぐに僕たちを残して他の幹部を呼びにいったという感じですね」
「事情はよく分かりました。ちなみに、この倒れている人が誰なのか、誰も知らなかったんですか?」
 と訊かれて。
「最初は俯せだったので、分からなかっただけど、それは警察の人が来るまでは、むやみに動かしてはいけないと思ったからなんですが、仰向けにされてからも、最初は分かりませんでした。でも今は見覚えがある人だということは分かっています」
「それは一体誰だったんですか?」
「我々の教団は、自給自足を行いながら、農産物を育てて、それを街の八百屋さんにおすそ分けしたり、お安く提供したりしているんですが。そんな知り合いの八百屋さんの中の一つのお店の奥さんだと思います」
 というと、他の二人も頷いた。
 そのうちの一人はどうも今気付いたかのように、閃いたような表情になったが、もう一人は最初から分かっていたようだった。
「その人は信者の方なんですか?」
「いいえ、違います。八百屋の奥さんとしてしか、お付き合いはないはずです。だから、教団の人も奥さんのことは知らないんじゃないでしょうか? 僕たちも野菜を持っていく時に話をするくらいで、それ以外では面識がないくらいです」
「なるほど、教団とは関係のない人なんですね?」
「ええ、そういっていいと思います」
「そんな教団に関係のない人が、どうしてこの部屋で殺されて発見されなければいけないんでしょうか? 何か心当たりありますか?」
「いいえ、僕たちのような新参者には分かりかねます。ほとんど、顔を知っているという程度でしかないですからね」
 と彼らが話してくれた。
作品名:自殺を誘発する無為 作家名:森本晃次