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自殺を誘発する無為

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 という、夢の世界での可能性について考えてしまうのだった。
 夢の世界では、
「夢なんだから、何でもできるはずだ」
 と、考えている人もいるだろうが、実は反対だと思っている。
 夢だからこそ、人間としてできること以外はできないという感覚なのだ。
「夢というのは潜在意識が見せるもの」
 とよく言われるが。潜在意識というのは、意識ではなく、無意識に感じるものであり、つまりは、
「普段から意識せずに持っている意識が、夢というものを通して、自分に見せるものである」
 と言えるのではないだろうか。
 つまり、夢というのは、自分の意識という世界の中にいて、その中で無意識に見るものだと考えると、辻褄が合うのではないかと考えられる。
 夢を見るということは、潜在意識とかかわりがあるということを知っている人でも、その潜在意識というのが、
「意識の中の世界」
 であるということに気付く人は少ないかも知れない。
 ただ、潜在意識というのが無意識の中の意識であるとすれば、意識の中の世界という理屈は容易に分かるというものであろう。
 しかし、その発想を自分の中で組み立てるというのは、少々無理があるのではないだろうか?
 そもそも、意識というものが、自分の中に何かの世界を形成するなどという発想に至ることは難しいからだろう。むしろ、意識というのは自分の中にあるものではなく、どこか共通の意識を司る世界があって、そこで考えたことが脳に伝わって、まるでその場で自分が考えたことのように思うのではないかと思っていた。だから、その人が何を考えているのかということが、他人から見て、なかなか分かるものではないのだろうと思う。その理屈を考えた時、意識というのが、その人の中に存在していないからではないかと思ったのは、無理もないことではないだろうか。
 ただ、この発想の方がむしろ難しい発想である。自分の中に意識という者がある方がスムーズに考えられる。しかし、そこには矛盾があり、言葉では説明できないものが潜んでいる。そう思うと、人間の感覚や発想、そして想像する意識というものは、自分の中にすべてあると考えず、どれかが別の場所にあって、他人と共有するスペースにあるのではないかと考える方が、理屈に合っているように思うのだった。
 そんなことを考えながら、隣の部屋に赴いた二人が見たものは、こちらに背中を向けて立ち竦んでいるもう一人が、わなわなと震えている姿だった。彼の今持っている意識を声を聞いた彼は想像できる気がした。やはり、想像できる意識の場所は、どこか共通した場所にあるのかも知れないと感じたのだ。

                  教団の意義

 二人が今度は一緒になって死体を見た。もし、それが少しでもずれていれば、二人も同じように、息をのみ込み、声にならない声を発していて、そのまま金縛りに遭っていたかも知れない。
 しかし、発見したタイミングがあまりにも同じだったことで、二人は思わず相手を感じてしまい、相手が息をのんだ印象を感じなかったことで、一気に感情が爆発した。
 それは相手が自分に構いなく大越を出すと思ったからで、それなら自分も遠慮の必要なないと感じてしまったので、二人して大きな弧を挙げた。ハモるようなその声は、広くて何もない部屋に共鳴した。しかも、その部屋が乾燥していたからたまらない。声の響きは一気に建物内に響き渡り、我に返った二人は顔を見合わせて、相手に対して。
「しまった」
 と言っているが、声にならない後悔に襲われていることを感じた。
 ドタドタと、本当であれば、静かに移動しなければならない教団建物の中を、初めてと言っていいほど、足音を気にしない響きを立てた喧騒が、一気に建物を襲い、いかにも緊急事態であることを示していた。
「おいおい、一体何があったんだ?」
 と、幹部の一人が声部とで入ってきた。
 その人がこんなに大きな声を出す人だったと初めて知ったほど、建物内が緊張に包まれてしまったことを知った。
 実際に死体を発見した三人は、これからやってくる大群の喧騒に果たして耐えられるであろうか?
 いや、それまでの静寂を打ち破ったのは自分たちである。こじ開けた静寂なので、その後の喧騒にも耐えられるのは当たり前ではないだろうか。
 ドヤドヤという音がどんどん近づいては来るが、まだ誰も入ってくる気配がない。それはまるで三人が精神的に落ち着くのを待っているかのような様子だった。三人は元々自分たちが最初に入ってきたこの部屋の入り口に神経を集中させ、誰かが扉を開けるのを、今か今かと待っていた。
「ガラガラ」
 と、横スライドの扉を開けて入ってきたのは、まず五人の幹部連中であった。五人のうちの二人までは、すでに教練の服に着かえていた。幹部の教練服は、一つではない。その時々で適した服装に着かえるのだが、朝一番は、ほとんどが柔道の黒帯と決まっていた。
 幹部になるには、精神的にも肉体的にも鍛錬の賜物でなければいけない。精神的には知識を備えている必要があり、学力、および判断力、さらには洞察力を必要とする。学力は一般常識の試験、さらには、他の二つに対しては。教団が過去から受け継がれている秘密の試験方法があるのだ。
 実際に登録している教団としての歴史はまだまだ浅いが、その前身となる団体は。まるでインディーズのように、地下で生きていたのだ。その時から脈々と受け継がれてきた伝統があった。
 まだまだマイナーな団体だったとはいえ、歴史の重みは結構なものがある。それだけに受け継がれてきた伝統を守るというのは、彼らにとって大切なことであった。
 精神の鍛練だけではなく、それ以上に肉体の鍛練は大切だった。頭の機能も、身体の健康がなければ成り立たない。これは幹部とは言わず、皆武道などを奨励していて、強制ではないが、武道をしていなかれば、幹部への道は絶望と言ってもよかった。何しろ、幹部になるには、精神面と肉体面の鍛練である武道による、
「昇進試験」
 が存在するからだった。
 だからこそ、幹部にはそれだけに権限もあれば、教祖の代理としての権限もある。そこが他の団体とは違うところであろう。
 そういう意味で、二人までは、まだまだ朝の鍛練を怠ることなくやっていて。あとの三人も同じように鍛練はしているが、少し気合が抜けかかっている三人だということが、この時に露呈したのであった。
 もっとも、これが悲鳴でなければ、速やかに着かえを行って、少しだけ遅れた状態で現れたのかも知れないが、何しろ聞こえたのが悲鳴だったことで、着替えなどをする暇は毛頭なかった。それほど、この教団で、このような悲鳴が聞こえるようなことはなかったということである。
 五人の幹部も死体を見て、一瞬たじろいだようだったが、すぐに段取りを決め始めた。さすがに、昇進試験をパスしてなっただけの幹部としての、微動だにしない堂々たる態度であった。
作品名:自殺を誘発する無為 作家名:森本晃次