短編集110(過去作品)
自分の生活環境とはそんなものではないだろうか。自分中心に考えると、自分の気持ちの大きさには限度がある。考えれば考えるほど、同じ気持ちを繰り返す頻度が高まるが、考えることが楽しくなるはずであることも分かってきた。
初めて見る光景なのに、前にも見たような気持ちになるのは、そんな考えの裏返しのように思えてならなかった。
数日して自分の世界に帰ると、また人を好きになるだろう。同じことを繰り返すかも知れない。そして、最後はゼロになるかも知れない。
――いや、ゼロにしてしまうのもいいのかも知れない――
いくらゼロになったとしても、記憶から消えてしまうことはありえない。いい思い出として残るだけである。
そのたびに気持ちに余裕が生まれてくる。
いつになっても繰り返す感情が、余裕を生み出し、さらなる新鮮さを植え付けるために、一度ゼロにしてリセットするのであろう。
いつまでも変わらぬ光景を見ていて、絵に残す気持ちになるのは、新鮮な気持ちを植え付けたくなるからに違いない。
旅行から戻って描いた絵を壁に飾ると、隣にはまったく同じ光景の絵が飾られていたのだった……。
( 完 )
作品名:短編集110(過去作品) 作家名:森本晃次