小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

自殺と事故の明暗

INDEX|9ページ/28ページ|

次のページ前のページ
 

 普通の人が否定だと言っているのは、みゆきにとって一度は受け入れ、受け入れたものを吟味する中での否定であった。それをまわりに意識させないというのは、それだけみゆきの考えが高速で回転しているため、一周して戻ってきても、最初から動いていないようにしか見えないのだ。
 みゆきは、頭が足りないのではなく、早すぎてまわりがついてこれないだけなのだ。だからみゆきの言葉を聞いて、皆が彼女の言葉をとんでもない方向に発想していると思っているのだが。実際には、誰もみゆきの見ているものすら見たことがない。そういう意味での先見の明は、みゆきの特徴ということになるであろう。
 だから子供に戻っているように見えるのは、それだけ、成長することで、さらに回転が早くなっていることを示しているのかも知れない。一度人生をやり切ったような感覚になっているのかも知れない。
 そういえば、
「歳を取ると子供に戻る」
 というではないか。
 子供というのが、どの時点の子供なのか分からないが、一生を生き抜いて、さらに次の人生の予行演習でもしているのではないかと考えるのは、
「まるで子供の考えだ」
 と言われそうだが、これも一生を生き抜いたからこそ感じることができるものなのかも知れない。
 みゆきにそこまでの考えがあるとは思えないが、なつみが妹を見守っている中で、少なくとも、子供に戻っているように見えるのは、一周してから戻ってくるのを感じさせるからに違いない。
 なつみが歴史や法律について学ぼうと思ったのは、清水刑事と話をするようになってからであろうか。
 なつみの中では、
「清水さんは刑事さんなので、きっといろいろ法律のお話とか聞かせてくれるんじゃないかしら?」
 と思っていたが、意外とあまり法律関係の話をすることはなかった。
 たまに事件の話をしてくれることはあったが、その話が法律的な話になることはなく、どちらかというと、事実関係と、その登場人物の因果関係などの話が多かったような気がする。
 事件の中には、歴史を感じさせるものもあり、歴史上の人物を当て嵌めて、清水刑事は話してくれる。清水刑事の話は戦国時代が多いのだが、それは清水刑事が歴史が好きだからだろう。
 特に相手が女性であれば、戦国時代の話が一番興味が湧くということを知っていて、それなりに勉強もしているのだろう。なつみが歴史を勉強してみようかと思ったのは、そんな清水刑事の心遣いにほだされて。自分も最低限の知識は身に着けておきたいという思いが強かったからだ。
 もっとも、何が最低限なのか、分かるはずもない。
「織田信長は本能寺の変で殺された」
「関ヶ原の戦いで徳川家康が勝ったので、徳川時代が到来した」
 まどというのは、誰でも知っていることであるが、
「水戸黄門で有名な水戸光圀は、徳川家康の孫である」
 などという話は、歴史通の人には常識であるが、誰でも知っているというほどではない。
 そうやって勉強していけば、面白い話や、歴史上の裏話などいろいろ出てきておもしろい。
 本であったり、ネットであったり、いろいろと媒体はあるのだ。今のような情報が溢れている時代に、好きなことを勉強しないというのは、考えてみればもったいないことではないだろうか。
 それは受験のための詰め込み教育ではない、
「教科書では教えてくれない歴史の本」
 などという表題の本が、実際に売られているのだ。
 教科書に書いていないことどころか、教科書に載っている事実とされていることを、いとも簡単に否定するその本が、ベストセラーになり、学会で問題にならないどころか、その本の執筆者が歴史研究の第一人者だったりするから、そういう意味でも歴史というのは面白い。
 中学生の頃、歴史を授業で受けていて、
「これは面白くない」
 と思ってしまうと、なかなか自分で勉強もしないものだ。
 だが、勉強していないと、大学に入学してから、友達に歴史好きの人でもいれば、少々のことは常識だと思っているから、何かのキーワードを言われ、キョトンとしてしまうと、相手の視線は明らかに冷めてくるのが分かってくる。
 清水刑事も、実は中学高校と歴史が嫌いで、本当に常識的なことも知らなかった。
 大学時代の友達から、当たり前のように、
「南京大虐殺」
 という言葉を聞かされて、キョトンとしてしまったのを思い出した。
 本当に言葉すら聞いたことがなく、相手もそれが分かったのだろう。これ以上その話題に触れることは、お互いに決まづくなると思い、話題を変えた。
 さすがにその友達にも、他の人にも恥ずかしくて聞けなかったので、ネットで調べてみた。
「なるほど、これだけのことであれば、知らないというのは恥ずかしいものだ」
 と感じた。
 実際にあった真実なのかは別にして、問題として歴史上残っているのだから、知らないというのは、やはり恥ずかしいことだった。この時のことがきっかけで清水刑事は歴史を勉強するようになった。まずが、南京大虐殺のあった日華事変(支那事変ともいう)、およびその後に継続された日中戦争、さらには大東亜戦争から第二次世界大戦、そこから時代をどんどん遡って歴史を勉強してきた。歴史認識が一番問われる時代でもあり、呼び方もたくさんある。本来は大東亜戦争のはずの言葉を太平洋戦争と言ってみたり、八年に及ぶ挑戦との紛争は、途中までは事変であり、途中から戦争になったにも関わらず、すべてを通して日中戦争と言ってみたりと、どこまでが連合奥に対しての忖度なのか、あるいは本来の命名の意味を戦勝国が嫌ったというだけではないだろうか、アジアにおける日本も、歴史認識が狂ってしまえば、平和が崩されないとも限らなくなってしまうことであろう。
 清水刑事は、他の人と歴史の見どころが少し違うと自分で思っていた。そこが人それぞれであってもいいという清水刑事の考え方とリンクするのだ。
「もし、自分と似ている歴史感覚を持っているとすれば、なつみちゃんかも知れないな」
 と思った。
 しかも、清水にとっての歴史認識は、人間の性格を考える時と似ている気がするのだ。例えば、
作品名:自殺と事故の明暗 作家名:森本晃次