自殺と事故の明暗
「人間の性格を考える時、いつもまずその人の顔から雰囲気を感じ取って、そこからまず大まかに三段階の性格に分ける。つまりは、怒りっぽい、普通、冷静という風にである。もちろん人間の性格を図る上での指標は無限にあるのだろうが、それを敢えてこの三つに分けるのだ。統計に近いカモ知れないが、一種の血液型で性格を判断するのと似ている。どちらが信憑性があるのかはよく分からないが。まずこの三つに分けることを考える。それができないと先に進まないわけだが、できてしまうとここから、自分に合う性格なのかどうかの判断に入る。いきなり三つからでも難しいのかも知れないが、一度どこかに分類してしまうと、見ているうちに自分に遭うかどうかはわかってくる。自分に合うと思ってるのに、怒りっぽいと思った時は、再度顔を見て考え直す。こういうことを繰り返して、相手の性格を図るのだ。だが、ここで難しいのは、自分の性格を分かっていないと、自分と遭うかどうかなど分かるはずがない。あくまでも、すべてを分かっている必要はない。自分と合うかどうかの判断だけでいいのだ。そこまでくれば相手を捉えたようなもの。後はゆっくりと吟味していけばいいだけだ」
と、簡単に分析はできるが、やってみると、そう簡単にはいかないものだ・
特に刑事のような仕事をしていると、人の性格など分かるはずもない。それも歴史を勉強するとこで、ある程度克服できるような気がしてくるから不思議だった。
今度は歴史の話になるが、歴史というものは、まるで、
「金太郎飴のようなもの」
と言えるのではないだろうか。
どこを切ったとしても、前があり痕がある。今現在だけは後はないのだが、時間は刻々と過ぎているので、今この瞬間も次の瞬間には、先があることになる。まるで心臓が絶えず動いているように、歴史も決して立ち止まることはないのだ。
そういえば、昔テレビ番組で、
「血を吐きながら続けるマラソン」
という表現を見たことがあった。
それは、冷戦当時の核開発競争を皮肉った言葉であったが、なるほどと思わせる。
しかも、その映像は、ハツカネズミが小屋の中で、永遠に回り続ける丸い檻を先を知るとも知れず、走っている。ハツカネズミに意志があるわけもないのだが、走らされていることをいかに感じているだろうか。そもそも、
「やらされている」
という意識があるのだろうか。
いくら前を向いて追いつこうと走ってみても絶対に追いつけるわけがないのが、世の中である。
時間の流れ、歴史の流れ、それは果たして一緒なのだろうか。歴史の流れ、時間の流れ、自分と相手を比較してみれば、よく分かるのかも知れない。相手のことを考えようとすれば、まるで自分のことを見失っていくようで怖いのだ。
時間の流れは、落ち着いて自分たちを冷静な場所に置いてはくれない。絶えず動いている中で判断させたり、考えさせる。しかも相手も動いているのだ。まるで慣性の法則を見ているかのように、飛び上がった場合、どこに着地するかが当たり前のように分かっている自分たちは、時間に支配されることはないだろう。
それが人間というものだ。
歴史を勉強していると、前と後ろの関係を嫌というほど思い知らされる。歴史は新しい人が出てきたかと思うと、すぐに違う人に変わっている。人間というのは寿命があるから当たり前のことなのだが、よく言われる話で、
「私は歴史に選ばれたものだ」
などというセリフをよく聞くが、果たしてそうなのだろうか?
時代がその人を欲したのだとすれば、歴史に選ばれたという表現とは少し違っているように思う。時代はその時々に存在している者であり、歴史は後から作られるものだ。
歴史に学ぶことはできるが時代に学ぶことはできない。逆に時代は追いかけることができるが、歴史は追いかけることはできない。あくまでも受動的なものだからだ。
小説にも歴史と時代があるが、史実に忠実なものが歴史小説。時代小説は少々歴史が違っていても、フィクションとして読めるものを差すというが、考え方としては同じようなものではないだろうか。歴史小説と、時代小説、どちらが好きかは人それぞれだが、清水はどちらかというと歴史小説である。ただ、基本的に歴史ものを小説で読むことは少なかった。
飛び降り自殺
二人と知り合ってから、かなりの日が経ったが、もう気が付けばみゆきは高校二年生、なつみは大学の二年生になっていた。清水刑事と辰巳刑事は自分たちのことを、
「相変わらずだ」
と言っていたが、刑事経験も十分で、清水刑事は上司の門倉刑事の右腕として、辰巳刑事も新人だったことと違って、後輩を指導する目でになっていた。
しかし、二人の仲の良さとコンビの良さは抜群であり、
「相変わらずだ」
というのは、そのことを差しているのかも知れない。
そんな冬のある日、マンションからの飛び降り自殺が発見された。通報を受けた辰巳刑事は、清水刑事に報告してから、すぐに現場に向かった。場所はK市の中でもマンションが多い地区で、事件のあったマンションは、その中でも高い部類の場所であった。
「ご苦労様です」
と、近くの交番から巡査が来ていて、辰巳刑事の現れるのを今か今かと待っている様子だった。
五十嵐というこの巡査はまだ若く、辰巳刑事と同じくらいの年ではないだろうか。
――友達になれそうだな――
と、辰巳刑事は思っていたが、五十嵐巡査の方は、
――刑事と友達なんて、恐れ多い――
と、謙虚なところがあった。
それでも、彼には刑事への意欲はあるようで、昇進試験の勉強をコツコツしているという話を聞いたことがあった。
「勉強、頑張っているかい?」
と、辰巳が声を掛けると、
「あ、はい。ありがとうございます」
と、照れ臭そうに顔を真っ赤にして答えた。
そんな五十嵐巡査が可愛くて、思わず吹き出してしまいそうだった。
しかし、すぐに事件のことを確認しなければならない。
「五十嵐君、状況はどうなっているのかね?」
と聞かれた五十嵐巡査は、
「ええっと、今から十五分ほど前に通報がありまして、ここに駆け付けたんですが、対象の方はここのマンションの屋上から飛び降りたようで、すでにひどい状態で、即死のようでした。飛び降りたのは、ちょうど通報がある五分前くらいだったということでしたので、時間にして、昼の一時半くらいではないでしょうか? ちょうどこのあたりは人通りも少ない場所でもありますので、人が飛び降りるまで誰も気づかなかったようですね。第一発見者の方にしても、ドカンという音が聞こえて行ってみると、人が俯せになって地面から真っ赤な血が流れ出ていたということでした。マンションの中庭になりそうなところですから音が反響したんでしょうが、それにしても、影になっているところから音が聞こえてきたのですから、結構な音だったということが分かりそうです」
と説明してくれた。
この場合、被害者でもなければ、犠牲者でもない。何と表現していいのか難しいところであろう。
「もう息がないというのは、君が確認したのかね?」
と訊かれた五十嵐巡査は、