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自殺と事故の明暗

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「これを機に改心しよう」
 と思うのだろうが、病的な犯罪者にはその理屈は通用しない。
 つまり、
「同じことをしても、また弁護士が助けてくれる」
 と思うのだ。
 特にその人間が、裕福な家庭、特権階級的な位置にいる父親を持っているとすれば、余計にそう考えるだろう。弁護費用がどれほど掛かったなどということも分かるはずもない。自分がどれほどまわりに迷惑を掛けているのかということを知りもせずに、まわりはそれに翻弄されて後追いで動くしかない。
 ただ、それも自分の利益を守るためであり、その思いが教育という形で息子に影響したのか、それともそんな精神を持った親から生まれたことで、持って生まれた性格が最初からそうさせたのか分からないが、まわりに罪がないというわけでもない。
 全体として一つの大きな罪を作り出しているのだ。何が罪だと言って、
「罪を罪とも思わない」
 という感情ではないだろうか。
 こんな犯人にとって、世の中の常識など通るわけはない。さらに何が悪いといって、自分が罪を犯しているという自覚がないことと、何かは感じているのだろうが、それをスリルのように思い、楽しいなどと感じているとすれば、もう病気と言ってもいいだろう。
「救いようのないバカ」
 というべきこんな人間は、きっといつまでも犯罪を繰り返すに違いない。
 確かに一度犯罪を犯したからと言って、その人がすべて悪いと言い切るのは、怖いことだ。
 しかし、それはその人や、その犯罪の起きた背景をすべて知っての上であれば、いくらでもそんな論争をしてもいいのだろうが、何も分からず、しかも知ろうと最初からしないのであれば、それこそが罪というべきではないだろうか。理由や背景も知らずに、状況だけでいい悪いを判断する方が、よほど罪深いと言えるのではないだろうか。
 なつみは、最近そんな風に考えるようになった。
 なつみは専攻を刑事訴訟法に置いていた。将来何になりたいかということまではハッキリと頭の中に描いているわけではないが、三年生になれば、ゼミに入ることになり、入ろうと思っているゼミは、結構裁判の傍聴など積極的に出かけていくゼミであった。
 なつみととっては願ってもない講義であった。
 大学内で教材を元に皆で研究するのもいいが、生の裁判風景を見るのはこれほど勉強になることはない。
 実際の被告、原告、そして検察側、弁護側。さらに裁判官に裁判員などを目の当たりにすると、
「きっと、生の迫力に圧倒されるかも知れないわ」
 と感じるのだった。
 裁判の起訴事実にもよるであろうが、刃傷沙汰の事件なども結構あるに違いない。人道的には許されないことであっても、被告の財産を守ろうとして必死に戦う弁護士も見てみたいという思いもあった。
「しょせん、万民のすべてが納得するような裁きが、この複雑化した世の中で、そう簡単にできるわけはないんだ。遠山の金さんじゃあるまいし」
 となつみは考えていた。
 まだ、実際に見たことのない裁判風景なので、どんなものなのか、大いに脅威があった。同じ学生の中でも自分は、他の人と少し違った目で裁判を見ることになると思っている。
 なつみがいつも自分のことを顧みた時考えるのは、
「私は他人と同じでは嫌だ」
 という感覚であった。
 もし、誰かと一人と一緒であると言われたのであれば、その一人が妹のみゆきであってほしいとなつみは思っていた。
 自分たち姉妹は、他の人たちとは違っている。みゆきは明らかに違っているのが分かるのだが、そんなみゆきが自分のことを、
「頭が足りない」
 と言っているのを、なつみは否定しようとは思わない。
 ただ、頭が足りないのではなく、他の人と違っているから、他の人から見ればそう見えるだけであって、逆に、
――他の人の頭が皆足りないだけで、足りているのはみゆきだけなのではないか――
 と思うようになっていた。
 法律に結構明るくなったなつみを見て、清水刑事は、
「大人になって頼もしくなった」
 と思っているようだが、辰巳刑事は少し違っている。
「子供びたところがまったくなくなってしまったようで、少し寂しいな」
 と感じるようになっていた。
 最初から大人びてはいたが、子供のようなところを残しながらの大人だったのが、辰巳刑事のなつみのいいところだと思っていたのだ。
 そういう意味では妹のみゆきは、実に子供っぽい、姉が大人に見えてくるにつれて、妹はどんどん子供に帰っていくようだ。
―ーひょっとして、妹は子供に帰っていってくることで、姉がしっかりしなければいけないという思いに目覚めて、大人びて見えるのかも知れない――
 辰巳刑事は、なつみの側から二人の姉妹の関係性を考えるとそう思出た。
 しかし、逆にみゆきの側から二人を考えると、
――姉がしっかりしてきているのを見て、妹はどんどんあどけなくなっていき、しかもS自分の頭が足りないという意識が余計に子供に帰らせるのかも知れない――
 と感じた。
 もしそうであるとすれば、みゆきの頭が足りないと考えている部分は、たぶんに姉のせいと言えなくもない。もちろん、姉にそんな意識があるわけではないのだろうが、妹を見ていて、同情的になってしまったのだとすれば、勘の鋭い妹であれば、姉が考えていることくらい分かるのではないだろうか。
 少しでも自分に対して同情的に考えてしまったとすれば、それはみゆきにとって、
「ありがた迷惑」
 と言えるのではないだろうか。
 まだ若い二人の姉妹なので、しょうがない部分はあるのだろうが、大人になってからの修正はまず利かないだろうから、本当は子供のうちに分かっているなら修正したい。
――まさかとは思うが、なつみには分かっていて、それをどうにもできない自分に苛立ちがあるのかも知れない――
 とも思えてきた。
 なつみが時々見せる大人の感情は、自分への戒めであり、妹に対しての哀れみを含んでいるとすれば、その苛立ちを誰にも解消させてあげることはできないだろう。
 だが、辰巳刑事にはなつみの考えがどうにも分からない。性格的にそれ以上超えることができない結界のようなものがあるような気がしてきた。ただ、それはある意味、なつみにとってのみゆきとの間に何か結界があるのではないかと感じたからだった。
 だが、みゆきの側にはなつみに対して結界など何もない。みゆきには結界なるものすら分かっていないのだ。人をシャットアウトする感覚がみゆきにはない。それだけに、
「私は頭が足りないんだわ」
 ということに違和感がなく、本当に受け入れているのかどうか分からないが、否定できない自分がいるのだった。
「何事も否定から入るのが自分の性格だ」
 と、なつみは思っている。
 人と話をする時でも、決して自分に心を開いているわけではないので、全面的に信用しないなどと言った考えも、そのあたりから来ているのではないだろうか。
 だが、そこに例外もあった。言うまでもなく、みゆきである。
 みゆきに対しては何事も肯定から入る。否定という言葉はみゆきの中にはないのだ。
作品名:自殺と事故の明暗 作家名:森本晃次