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自殺と事故の明暗

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 という意見は多い。
 彼女を好きになれない、いわゆる敵と目されている人が見ても、天才という言葉を否定できるだけの力はない。
 ただ一つ、彼女にはどこか頭が足りないようなところがあった。それは小学生の頃から叙実に現れていたが、最近ではあまりの天才ぶりにそのことを皆忘れてしまっているかのようだった。
 彼女に敵が多いのも、そういう意識されない中での直感が、彼女に対して敵視する気持ちを育んでいたのかも知れない。

              影にて助演の姉

 そんな彼女には大学二年生になる姉がいた。名前をなつみという。
 なつみはみゆきと違い、平均的に何でもこなせる女の子だった。子供の頃から大人びて見え、小学五年生の頃には、母親と街を歩いていて、スカウトされたことがあったくらいだ。
 もちろん、断ったが、本人はまんざらでもなかった。彼女の場合は興味がないことでも、何かをきっかけに勉強してみようという感覚があった。妹には欠如している好奇心であった。
 だが、妹は好奇心があまりなかったが、それを補って余りある想像力があった。一つの小さなことからどんどん大きく広がっていく想像力は、みゆきのもっとも得意とすることである。
なつみには、その想像力はなかったが、好奇心はあった。さすがに芸能界への興味は、勉強しても持つことができなかった。却って、知れば知るほど、深入りしたくないと思える世界に見えたのだ。
 なつみとみゆき、どちらが冷静かと言われると、意見が分かれるところだった。
「なつみちゃんじゃない?」
 という人には、大人が多かった。
 学校の先生であったり、ご近所さんであったり、何よりも彼女の両親が見ても、明らかになつみだと思っていた。
 みゆきを推す人には、同年代が多かった。
 同学年であったり、先輩でも一年上くらいであろうか、敵も多いが味方もちゃんといる彼女には、味方にはなれなくても、彼女の冷静さを評価している人はたくさんいたのだ。
 大人の人であっても、別にみゆきが冷静ではないと思っているわけではない。あくまでも、
「姉のなつみに比べれば」
 という程度のことであった。
 なつみにとってみゆきは、自分の妹でありながら、反面教師のようなイメージで、小学生の頃を過ごしてきた。なつみは自分が妹とはまったく違う性格であることを最初から看破していて、その違いがどこにあるのかをずっと考えていた。
 しかし、その答えは一向に見つからない。似ていないと思っているはずなのに、その根拠を見つけることができないという思いは苛立ちを覚えさせた。その苛立ちが次第に妹との距離を一定に置いてしまうことになり、中学時代には、妹を無視する時期があった。
 みゆきはみゆきで、姉がどうして自分を無視するのか分からなかったが、
――まあいいわ、お姉ちゃんにはお姉ちゃんの考えがあるんだわ――
 と考えることで、姉の視線を感じないようにしていた。
 無視はしていたが、姉からの視線は相変わらずだった。
 二人はお互いに意識しあっていないようだったが、実際には意識していて、その期間があったから、お互いがお互いを補っているのだということに気付くことができたのだろう。
 クラスで万引きがあった時、みゆきが真犯人に辿り着けたのは、その時の姉のアドバイスがあったからだと思っている。
「みゆきちゃんは直感が鋭い」
 という一言を聞いて、半分それを信用して直感を思い出してみたが、そこからいろいろ想像して、結局どこにも隙がなかったことから、犯人を指摘することができた。
 あくまでもきっかけでしかなかったことだが、そのきっかけが二人を結び付けたことは間違いない。姉の一言がどれほど重要なことだったのかということを感じたみゆきは、次第に姉の話に傾倒するようになっていった。
 なつみは高校時代、法律に興味を持っていた、。それだけに、
「大学に入るなら、受験は法学部に一択だわ」
 と決めていた。
 いや、実はもう一つ考えることがあったのだが、そちらは早々に切り上げた。そちらも好きな学問であり、今でも本などを読んで自分なりに勉強している。これも法律とは切っても切り離せない関係ということで、独学でも全然よかったのだ。いずれどの学問が好きなのかは後述することになるだろうが、今は法学部一択ということにしておこう。
 地元の私立大学の法学部に現役で入学できたのはよかったのだろう。実際に同じ高校から一緒に受けた人たちのほとんどは合格できなかったからだ。
 本当は地元の国立大学が本命だったのだが、合格できなかった人の手前、あからさまに悔しがることもできず、気まずい思いながらも、入学できたことを喜ぶできだと思うようになっていた。
 この入学を一番喜んでくれたのが、中学三年生のみゆきだった。みゆきも第一志望の県立高校に入学できたので、
「ダブルでのお祝い」
 となった。
 入試に関しては、妹のみゆきの方が心配だっただけに、二人とも無事に合格出来て、両親ともホッとしている。特にみゆきに関しては、中学校の担任からも、
「五分五分かも知れない」
 と言われていただけに、よかったと感じた。
 だが、問題は入学してからだった。無理に一ランク上の学校を志望したのと同じなので、入学してからついていけなくて挫折してしまうようでは、本末転倒というものだ。
 それでも何とかついていくことができているのは、みゆきの天性の天真爛漫さと細かいことを気にしない性格が幸いしていたからなのかも知れない。
 むしろ、余裕で入学できた中学時代のトップクラスの生徒の方が、中学時代まわりに敵がいなかったはずが、今はまわりにはたくさんいるどころか、上を見ればたくさん人がいる。同じレベルの人たちが受験して、さらにその中から選ばれた人間の集まりなのだから、今までの自分がどれほどのレベルだったのかということを思い知らされるだけであった。
 勉強をしてもしても、成績のいい連中には追い付けない。彼らには天性から持って生まれたものを持っていることで、最初から勝負にならなかったに違いない。それを認めたくないという思いから勉強に身が入らず、気が付けば成績はあっという間に最下位に近いところまで落ち込んでいる。完全に競争に負けていたのだ。
 さすがにみゆきはそんな連中とは違って、最初から自分のレベルを分かっていた。まわりが見えていたとも言えるだろうが、別に成績が上位にいなくてもいいという気持ちがあったのは大きかった。
 挫折した連中は、今まで挫折ということを知らずに、競争の輪の中にいたのだ。だから一度挫折を味わうと、立ち直るには時間が掛かるのだろうが、立ち直るより以前にグレてしまうのだから、思春期というのは、恐ろしいものだ。
作品名:自殺と事故の明暗 作家名:森本晃次