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自殺と事故の明暗

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 二人のことを同時に知っている人は実は少ない。そういう意味ではまったく似ても似つかぬ二人だったのかも知れない。その二人がくっつくなど、果たして誰が考えたことだろう。まわりがまったく似ていないと思っているのに、二人だけが、自分たちは似ていると思い込んでいたというのも、実に滑稽な話である。二人は不幸にも事故に遭い、そして自殺を遂げた。こんな結末を迎えるのではないかと思っていた人も少なくなかったというのが、二人の今を訊いて感じる思いだったのではないだろうか。

                 みゆきの助言

 凛子さんを毎日のように見舞っているみゆきだったが、最近、看護師さんと仲良くなったので、いろいろな話が訊けるようになった。凛子さんの話もその時に一緒に訊けるのだが、みゆきは看護師の仕事に興味を持っていた。
 まず、凛子さんについての質問が先だった。
「最近の凛子さんはどうですか? 落ち着いていますか?」
 と、聞いてみると、
「ええ、だいぶ落ち着いているようなんですが、どうも夜があまり眠れないようなんです。不眠症のような感じなのか、夢遊病の気でもあるのか、でも不思議なことに眠ってはいるんです。どうやら眠ってはいながら、眠れないかのような夢を見ているのではないかと思うほどなんですよ」
「じゃあ、負のスパイラルに陥っているような感じなのかな?」
 と聞くと、
「というよりも、うなされているのは間違いないようなんですね。よほど怖い夢を見ているんでしょうね」
 と言われて、
「でも、おかしいですよね。記憶がないのに、夢を見るんですか?」
 とみゆきが、至極当然のような質問をした。
「それは見ますよ。記憶喪失になるということは、忘れたい何かがあるから記憶を閉ざしてしまっているだけで、本当に忘れているわけではないと私は思っているんです。だから記憶喪失の人が夢を見てうなされているということは、思い出したくない記憶を夢の中で引っ張り出そうとしている証拠なんじゃないかって思うんですよ。だから、それはそれで当然のことのように思います」
 と、その看護師さんは言った。
「やっぱり、事故のショックなんでしょうかね?」
 と訊いてみると、
「そうとは限らないかも知れませんよ。何しろ、記憶喪失と一口にいっても、パターンも違えば、その深さも違う。パターンというのは、記憶喪失になるきっかけとでもいうんですか。事故で外部からの圧力によるもの、逆に内部で自分が整理できなくなってしまって、そこから逃れようとするギリギリの西晋状態が招く記憶喪失などもあると思っているんですよ」
 と、看護師は話してくれた。
「私も以前、、交通事故に遭ったことがあったんですが、その時の記憶はものすごく鮮明で、今でもその時のことを想い出すくらいなんですよ。それこそ、夢に見るくらいにと言ってもいいくらいですよ」
 とみゆきがいうと、
「そうなんですよ。みゆきちゃんが今言ったように、鮮明に覚えている人は夢の中でそれを見ても鮮明に覚えていると感じるだけで、あまり深くは印象に残りませんけど、記憶を失うくらいにショックなことに直面していると、思い出すことすら怖い。それでも夢に出てくるということは、忘れたくないという意識の裏返しなのではないかとも思うんです。だから、あまり深入りしてはいけないのではないかとも思うんですが、目の前で苦しんでいるのを見ると、何とかしてあげたいという意識になるのも、当然のことだと感じるんですよ」
 と看護師がいう。
「看護師さんは、今までにたくさんの記憶喪失の方を見られてきたんですか?」
 とみゆきが聞くと、
「私は外科ですので、基本的には外傷に対しての治療なので、基本的にはあまり記憶喪失に陥った人を見ることはありません。そういう意味では今回は例外的ですね。それだけ事故も大きかったんじゃないでしょうか?」
 という話を聞くと、
――凛子さんは命が助かっただけでも、よかったというべきなのかしらね――
 と思ったが、せっかく命が助かったのだから、記憶もなるべく早く取り戻せればいいと思った。
 しかし、本当に記憶を取り戻すことが凛子さんにとっていいことなのかどうか、誰が分かるというのか、そのあたりは、医者も分かっていて、決して無理をしようとはしない。無理に記憶を呼び戻そうとすればできなくもないのかも知れないが、肉体的にも精神的にも痛みを感じるようなことは、なるべくしない方がいいに決まっている。
「私は、怖い夢ほど覚えていたりするものだけど、それはきっと忘れることが怖いからなんだろうなって、いつも思っていました。だから、凛子さんが夢を見ながらうなされて居たというのは、怖い夢を見ているからだと思うんですが、その夢すら覚えていないということになると、逆にその夢が引っかかっていて、思い出せないのかも知れませんね」
 と、みゆきが言った。
「それはあるかも知れないですね。私も夢を見てうなされた自分に気付いて目を覚ますことがあるんだけど、怖いくせに、もう一度同じ夢を見てみたいって思うんです。でも、絶対に見ることはできないんですよね」
「夢ってそういうものじゃないですか? 夢を見せるのは潜在意識だって言われているそうですけど、潜在意識というのは、意識という言葉がついているので、意識的なことなのかなって思っていたんですけど、本当は無意識ということを意味しているようなんですね」
 とみゆきがいうと、
「ええ、そうですね。だけど、潜在という言葉がついているから、普段から身についていることで、意識もせずにできていることを潜在意識というのだと思います。どこかで意識をしているんでしょうけど、意識していないように見せないのが潜在意識なのか、それとも本当に意識の外で身体が覚えていることが潜在意識なのかって思いますね」
 という看護師に対して、みゆきも負けていなかった。
「私は、そのどっちも正しいんじゃないかって思うんですよ。世の中にあるものすべてを、有無という考えで縛り付けるのは、どうも嫌いなんですよね。いくつもの考えがあっていいのではないかと思うし、そう思う方が気持ちに余裕ができるようで、楽しい気もしてくるんですよね」
 という話を聞いた看護師さんも、
「みゆきちゃんって、まだ高校生なんでしょう? それなのに、よくそんなしっかりした考えが持てるわね」
 と言われたみゆきは、
「考えることに年齢は関係ないような気がするんだけど、問題はそこに繋がる経験をどれだけしているかということなんじゃないでしょうか? きっと私は、他の人がしていないような経験をしているんでしょうね。そう思うのが一番しっくりくるんですよ」
 と言った。
「夢を見ていると、時々怖くなることがあるんです」
  と看護師が言った。
「どういうことですか?」
作品名:自殺と事故の明暗 作家名:森本晃次