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自殺と事故の明暗

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 他の県でも同じように大規模な市町村合併が行われていたが、どこまで真剣に県政に介入できるかを考えているか、よく分からなかった。
 K市はまだまだ小さい市ではあったが、県での発言力は強かった。小さい町ではあったが、それはあくまでも人が住める場所という意味で、山林を開拓することで、工場の誘致なども行われ、いよいよ本格的な経営に乗り出していった。
 とはいえ、やはり工場を建設するとしても限界がある。そのあたりは隣接する市との協力は不可欠であり、誘致をしてくれたことで、K市が介入できるように、いくらかの工場建設の費用補填も行っていた。あくまでも別の市にある工場であるが、その支配権はK市にあるという歪んだ構図を生みだしていた。
 ただ、それが軋轢になっていくことはいなけなかった。それでも最初から軋轢は覚悟の上であったので、それほど気にはしていない。
 そもそもそれくらいの覚悟がなければ、二つの市に挟まれるのを分かっていても市に昇格した意味がないと言えるからだ。
 一気に死を目指した突き進んだ時、法の目をかいくぐるような手はいくらでも考えていた。
 有名大学の法律の教授や、名弁護士と言われるような法曹界に大きな権力を持っている人を味方につけることも忘れていなかった。
 水面下では、かなりの構想を練ってきて、少々のことには簡単に対応できる体制はできあがっている。
「K市は策士の集まりだ」
 といずれは言われるようになるのだが、そのことにまわりがまだ気づいていないのも計算済み、
「いかにまわりを欺くか」
 それが信条だった。
 そんなK市に片隅に一つのマンション群があった。そこは、新たにできた巨大シティ、つまり同じ郡を形成していた町の一つとの境界線に当たるのだが、同じ市とはいえ、やはり相手は五つの町が重なり、面積も人口も桁違いに大きな都市であることから、十問の誇りも半端ではなかった。単独で市を目指していた小さな町と違い、
「いつでも合併さえすれば市にだってなんだってなれるんだ」
 という思いがあるだけで、後はどのような市政を築くかというだけのことで、それはあくまでもトップの考えであった。
 住民からすれば、市になることに対して最初は誇りも抵抗もなく、ただ受け入れただけだが、市になったことで、町役場という言葉が市役所という言葉になっただけで、まるで都会人になったような気がするから不思議だった。
 元から住んでいる人には特にその思いがあるだろう。ぞっと町役場で手続きをしていて、県庁所在地の隣に位置しているにも関わらず、自分の住まいが田舎だと思っていただけに、その思いも強い。
 特に昔から近代化するたびに、県庁所在地は早くから整備されてきたが、隣なのに、なかなか整備されないのは、慣れてはいたが、あまり気持ちのいいものではなかった。
 昔を知っている人は道路の整備はもちろん、前面水洗トイレ化も、かなり遅れたのは事実だった。
 昔からの団地も結構たくさんあり、下手に県庁所在地に近いことで、町でありながら、中途半端なベッドタウンとしての様相を呈していた。
 それは、K市でも同じこと、まだ団地の名残が残っている。さすがに今では老朽化から問題になり、最初に取り壊されて今では新たなマンションとして開発されているか、駐車場になっているかのどちらかであった。
 そんなK市に、企業誘致の話があった。
 そもそも小さな市なので、進出してくる企業も山林を切り開くしかないので、企業側も足踏みするのだが、市が少し補助をするということなので、社宅と本社ビルを建てるというころで、K市と契約した。
 元々は県庁所在地の一等地に会社はあったが、さすがに維持が難しく、いろいろ物色していて、K市にいきついた。最初は隣の巨大都市に誘致しようとも思っていたようだったが、市になってすぐだというのに、家賃その他を比較して、引っ越してするまでの価値が見いだせなかったことで、早々に交渉は決裂していた。
 そんな時、K市が誘致を募っていたのを発見し、最初はダメ元で交渉を始めたが、最初に一度別のところで断られているので、その考えは余裕があるものだった。交渉はとんとん拍子に決まり、さっそく本社ビル移転けーかくがスタートした。計画がスタートした時はまだ町だったので、どれだけ企業の方も早い段階で動いていたかということである。姿勢がスタートしてすぐに本社ビルが移転してきて、そのおかげで、市をアピールする材料はそれだけでも十分なくらいだった。
 その計画は思ったよりも市政に有利に働いた。市にとって宣伝は大きな問題でもあった、そのための宣伝費も予算として盛り込まれ、その計画は順調に進んでいた中で、今回の誘致成功によって、かなり宣伝費も浮いた。その分で山林の開発への資金に充てたとしても、十分に元が取れるというものだ。
 そういう意味で、こちらに来る前に隣の街に相談に行ってくれたことが一石二鳥の効果を表してくれた。まさしく、
「残り物には福がある」
 とでもいうべきであろうか。
 そんな街は次第に発展していき、地元大手ナンバーワンという触れ込みの企業がK市に本社を置いてくれたおかげで、その社宅の近くに住宅街が計画され、それに先立って、学校、郵便局、その他、大型商業施設が参入を申し込んできた。誘致計画部にとっては、これほどありがたいことはなかったのだ。
「これでこの市も活性化される」
 と感じたことだろう。
 自分たちの住んでいる市がどんどん大きくなっていくことは、他の市に住んでいる人よりも誇らしく思えているに違いない。ずっと市というものに住んでいると、すでに開発されるところを見続けてきたので、感覚もマヒしている。今では工事の音がうるさいだの、子供の声が大きすぎるなどと、ウンザリしている人がおおいのだろうが、K市ではそんな思いの人はまだいないだろうと思われていることで、どんどん開発が進められるに違いない。
 さあ、そんな市に一体どんな人たちが住んでいるのだろうか?
 市役所は町役場を一応そのまま使用しているが、住宅地の開発が一段落すれば、市役所の建て直しも計画予定だ。そのあたりまでは青写真が出来上がっている。出来上がった青写真の元、進められている計画を、市では「ビッグバン」と呼んでいる。
 きっとどこでも呼ばれている名前なのだろうが、新しい市には新鮮でいい名前なのである。
 そんな大規模な計画ではあったが、交渉その他もうまく行ったのであろう。市ができてから三年もしないうちに、本社ビルが完成し、社宅にも人が引っ越してきて、いよいよ本格稼働が始まった。すでにまわりには恰好、郵便局、大型商業施設がオープンしていて、まるで、
「かなり前からの賑わいだったのではないか」
 と思えるほどの違和感のなさであった。
 そんな地元大手企業の営業部課長に、有原という人がいる。彼は四十代後半のバリバリの年齢であるが、こちらに引っ越してきてからも、今までと変わりなく仕事をこなしていた。
 奥さんの方も、近所づきあいと言っても、皆同じ会社の人なので、今のところ気遣いをすることもなかった。社交的な性格なので、近所づきあいも悪くはなかったのだ。
作品名:自殺と事故の明暗 作家名:森本晃次