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自殺と事故の明暗

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。政治批判もあるかも知れませんが、あくまでも、歴史に照らした話なので、現状の世界情勢と混乱しないようにお願いします。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。ご了承願います。

             天才少女あらわる

 K市は県庁所在地であるF市に隣接しながら、最近までは人口も少なく、まだ市に昇格することもできなかった。町役場や一部の住民、それも昔から住んでいた人たちにとっては、市への昇格は長年の夢であったが、新たに転居してきた人にとっては、
「ここが町だから移住してきた」
 という人も多かった。
 企業の社宅は借り上げも含めて、この町には多かった。それだけ金銭面を含めていろいろな面で都合がよかったのだろう。ここが町であるというのは、面積が他に比べて相当狭いことが挙げられる。人口密度的には十分なのに、町の狭さが邪魔をしていた。
 今までには何度か、県庁所在地であるF市に合併されかかったこともあったが、住民の反対と役場全員の反対により実現しなかった。またまわりの市町村。同じ郡を形成する町との合併案もあったが、それこそ問題外だった。
「この町が市になることがあるとすれば、人口が市を形成できるだけの人数に達した時、今一度、住民に賛否を問うことになるだろう」
 と思っていた。
 ただ、その道のりは楽ではなかった。人口が昇格ラインに達したとしても、いきなり市への昇格を行うことは危険だった。
 下手をすると、せっかく市ではない場所だと思って転入してきた人が去ってしまう可能性があるからだった。だが、逆に言えば、市になったことで、この街に転入してこようとする人もいるかも知れない。要するに、人口の増減はどうしても避けられない問題だからである。
 それでも、数十年前くらいと今とでは、市になることを願う人が増えてきていた。その理由はハッキリとした分析が出ていないので分からないが、数十年前までは三割も賛成はがいればいいくらいだったのに、市に昇格する少し前のアンケートでは、五割を超えていた。
 役所の方でも、
「住民の意見としては、十分なところまで来ましたね」
 という意見が聞かれ、一番の課題だと思われた住人問題が解決したことで、一気に市への昇格ムードは高まった。
 アンケートに自信を得た役場は、
「ここが攻め時」
 ということで、一気に住民を煽りながら、水面下では徐々に市政に繋がるような裏工作を行っていた。
 表に出せないものもあったであろうが、ここで一気に市に昇格していまうことが、長年の夢であった人たちの信条である。ここまで頑張ってきた人たちもすでに高齢になってきていて、いつ定年を迎えるとも知れない人が多くなっていた。
「我々の目の黒いうちに、市政を敷けるくらいにまでしておきたい」
 というのが、個人的なところでの目指すところである。
 これを誰が悪いと言って責めることができるであろう。彼らにとっての信念が実を結んで、いよいよ念願が叶おうというのだ。
「長年の夢、積年の思いを一気に爆発させよう。K町を皆さんの手で、K市にしようではないか」
 というキャンペーンが催され、マンション契約など、今、建てられている新築マンションに入居希望の方は、市に昇格してから値上げがあった場合、一定期間、市が補助いたしますというような宣伝文句もあり、契約は順調に伸びていた。
 もちろん、市に昇格してから値上げまでの期間も決まっているし、一定期間もある程度決まっていたが、それがどれほどの期間なのかは、借主には公表していない。貸主もそれを知っていても、公表は許されなかった。実際に施行される時にはハッキリと判明するのだろうが、今は伏せられていた。
 そもそも、値上げ分の補填はしなくてもいい部分なので、それを明らかにされないとしても、借主はあまり問題にしない。
「これはラッキーだ」
 という程度の思いであろう。
 それが、役場のやり方の一つであった。
 紆余曲折やキャンペーンの効果があったおかげで、キャンペーンが催されてから実際に市に昇格するまでに、五年も経っていなかった。昭和の時代から市への思いが深かったことを思えば、五年はさほど長い月日ではなかった。
 しかし、この市に昇格してから思い返したこの五年は、前を向いて猪突猛進だった頃から見た先の五年をどのように想像したであろうか。それを思い起こすと五年という期間がどれほど長いもので、そしてあっという間であったのか、幅広く感じられ、その分、人によってさまざまな長さであったことは否めなかった。
 市に昇格したことで、まわりの同じ郡を形成していた五つの町も合併を果たした。それにより、五つの町が合併したことで出来上がった人口は、県では県庁所在地に注ぐ、第二位となった。もしK市が合併していれば、県庁所在地をしのぐほどになっていたのであった。
 この大都市が二つ出来上がったのも、K町が市に昇格を目指したことで、郡を形成する他の町が危機感を覚え、一気に市への昇格が加速したと言えよう。元々市構想はあったのだが、慌てる必要はなかった。本当はK町も巻き込みたかったのだが、それを断念せざるおえず、しかもK町単独での市形成を目論んでいるという真剣さが伝わってくると、さすがにゆっくりと構えているわけにはいかなくなったのだった。
 県庁所在地としても、いきなり隣に巨大な市ができたのだからビックリだった。市の方でも、実は郡の中にあったどこか一つの隣接している町との合併を考えていた。本当はK町が一番の候補だったのだが、もちろん承知するはずもなく、そのうえで、もう一つの町にターゲットを置いた。町だけの経営では先ゆかないところで、郡の市構想に入るか、F市に市町村合併されてしまうかのどちらかしか生き残ることはできなかった。
 ただ、これも水面下であったが、K町の市構想の中で、その町との合併で人口を増やすという方法も模索された。
 しかし、その町の財政逼迫を考えると、選択肢の中でも相当低いものであった。構想があったというだけで、実現不可能であることは、どちらの町にも分かっていることであった。
 だが、今回こういう形で、元々の県庁所在地、そして新たに出来上がった巨大都市、そして市に昇格したK市の三つが、一大経済圏を握っているのは確かだった。
 市町村合併の問題では、いろいろとあった三つの市であるが、一旦こういう形で落ち着いたことで、新たに経営合同などのプロジェクトがいくつも立ち上がり、それぞれの立場から、この一大巨大経済圏を活性化させようという考えで進んで行くことになった。今度は、いよいよ県下での、覇権争いに最大勢力として君臨することができるところまで来ていた。
 一つの市町村が争っている場合ではなく、県での発言録を強めたことで、予算の獲得も用意になり、いよいよプロジェクトの始まりであった。
作品名:自殺と事故の明暗 作家名:森本晃次