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自殺と事故の明暗

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 そんな服部刑事は、その日、もう一人女の子を連れていたのだが、その人を見た時、彼女は何かを思い出したような目に輝きがあった。その女の子というのは、有原みゆきだったのだが、彼女はそれを分かっていたのだろうか?
 みゆきは彼女を見るなり、
「凛子さん、松枝凛子さんですよね?」
 と言った。
 服部刑事はビックリして、凛子を見た。凛子の表情にはまったく変化がなかったのを見て、みゆきが落胆しているのは分かったが、ショックを受けているという感じではなかった。すでに情報は入っていたのだろう。
「みゆきちゃんは、松枝さんと面識があったんですね?」
 と言われたみゆきは、
「ええ、私が小学生の時、近くに住んでいたんです。でも、引っ越していったんで、少し寂しかったんですが、こうやって再会できて、正直嬉しいです」
 と言った。
 みゆきは、清水刑事や辰巳刑事と仲良くなったことから、K警察署の他の刑事さんとも懇意になっていた。そんな中で服部刑事とは結構仲が良かった。服部刑事は辰巳刑事の一年先輩にあたり、辰巳刑事が清水刑事の次に仲良くしている刑事であった。
 冷静な判断力を持っていて、どちらかというと清水刑事のようなタイプの刑事だが、清水刑事よりも勧善懲悪に近く、辰巳刑事に違いところもあった。
 要するに二人は、
「お互いの足りない部分を補って余りある」
 というようなそんな関係であった。
 そんなみゆきが今日病院についてきたのは、みゆきが入院しているのを凛子だと知っていたわけではなく、みゆきの友達がちょうどあの時の事故を目撃していて、そのことで何か思い出したから、K警察署を訪れたからだった。最初その友達は、
「警察なんて、私怖いわ。行かなきゃいけない?」
 と言われて、みゆきに相談すると、
「大丈夫よ。私が一緒についていってあげる」
 と言ってくれたので、友達はその言葉に背中を押されて警察に来たのだが。まさかこんなにみゆきが警察に昵懇だったとは知らなかったので、ビックリしたようだ。
 ため口で話すみゆきに頼もしさを感じ、彼女も安心して事情聴取に応じていた。彼女の情報では、ちょうど彼女がいた場所から運転席が確認できたそうなのだが、ひき逃げしたその車に乗っていたのは、どうも一人ではなかったようで、一緒に女性が乗っていたという情報だった。
 もちろん、一瞬だったので、女性ということは分かったが、人相まではもちろん分からない。ただ髪の毛が長かったということだけだったが、警察の方でどれだけの信憑性を持ってくれるか分からなかったが、みゆきにとってみれば、友達が話をしてくれることで、彼女自身のわだかまりが消えたようで、それがよかった気がした。
――せっかく目撃したのに――
 という思いをずっと引きずっていくことになると、警察に対しての確執のようなものが生まれてきて、彼女にとっていいことではないことは分かっていたからだった。
 だが、この証言は、実は重要であった。この時には分からなかったが、いずれ重要になってくるが、まだここでは、
「そういう目撃報告があった」
 というだけのことに言及しておく。
 ここで重要なことは、被害者の松枝凛子とみゆきが以前から知り合いだったということで、みゆきがこの事件に入ってくるきっかけを掴んだということであろう。
 もちろん、みゆきの存在が今後どのようにこの事件に関わってくるのか分からなかったが、服部刑事はみゆきの発想や着目点のよさに敬意を表していただけに、みゆきの友達が目撃者だったというのを聞いて、百人の味方を得たかのように感じたのだった。
「凛子さん、大丈夫なんですか?」
 と服部刑事に訊いてみたが、
「うん、詳しいことは訊いていないんだけど、どうやら、記憶をほとんど失っているらしいんだ。もちろん、命に別状はないんだけど、でも、三日間意識不明だったこともあったので、今のところ、病院に治療を任せるしかないということでしかないとは聞いているんだ」
 という話だった。
「ああ、記憶を失っているなですね。だからさっきはあんなボッとしたような表情をしていたんだ」
 と、みゆきは言った。
「そうだね、せっかく再会できたのに、こんな形でというのは、僕も気の毒に思うよ。でも、記憶が消えたわけではないから、きっと思い出せると思うんだ。特に彼女の過去を知っているみゆきちゃんがそばにいれば、みゆきちゃんとの思い出から記憶がよみがえってくるかも知れないよね」
 と服部刑事は言ってくれた。
――やっぱり服部さんは優しいな――
 とみゆきは感じた。
 K署の刑事課の人は結構知っているけど、概ねよく話す人として、門倉刑事は貫禄があって、いかにも課長タイプで、清水刑事は、辰巳刑事の扱い方が非常にうまく、冷静さでは刑事課一番であろう。服部刑事は、清水刑事に勝るとも劣らないほどの冷静さを持っていて、それでいて優しさでは、きっと刑事課一番だろう。そして辰巳刑事は猪突猛進的なところがあり、飛び出していくと、危なかしくって仕方のないが、彼の持っている勧善懲悪の正義感は、まさに辰巳刑事を象徴している。いろいろな刑事がいるが、みゆきは辰巳刑事が一番好きだった。自分と似たところがあると思っているからで、清水刑事の言うことはどんなことでも聞くという充実さは、自分が姉のなつみに感じているのと同じものを感じた。
 今日は、服部刑事と一緒だが、いつもは辰巳刑事や清水刑事と一緒の時が多い。たまには服部刑事もいいものだ。
 服部刑事には、父親のような感じも受けていた。清水圭や門倉敬意にも頼りがいを感じているが、父親とは少し違う。
 やはり二人は刑事なのだ。一緒にいて世間話をしている時でも、刑事を感じさせられる。きっとそれだけオーラが強いからではあるまいか。
 服部刑事にも十分に刑事としての意識があるのだが、父親を感じてしまうと、刑事であることを忘れがちになってしまう自分を感じていた。服部刑事は独身なので、
「お父さんのようだ」
 とはさすがに言えなかった。
 でも、明らかに他の二人の刑事を見る目とは違っている。
――もっと服部刑事と一緒にいたいな――
 という感情が強い時は、えてして、自分がまるで服部刑事を好きではないかとまわりに見られるのではないかとみゆきは考えていた。
 だが、清水刑事と服部刑事は冷静にみゆきを見ていたので、それが父親を見る目だと分かっていたが、辰巳刑事だけはそうではなかった、
 やはり猪突猛進な雰囲気からも読み取れるように、やはり、
「恋人を見ているような憧れの目だ」
 と感じていたようだ。
 辰巳刑事は嫉妬していた。
 自分がみゆきのことを妹のように思っているとそれまでは感じていたのに、服部刑事を見ている目を感じることで、自分が嫉妬していることに気付いた。
――何をしているんだ。これじゃあ、俺がまるでみゆきちゃんのことを好きみたいじゃないか――
 と自分に問うてみたが、結果はやはりそうだった。
――それならそれで受け入れるしかないか――
 と、小娘だと思っている相手に自分が惹かれていることを否定する気にはならなかった。
作品名:自殺と事故の明暗 作家名:森本晃次