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短編集109(過去作品

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 想像以上に相手の身体が熱くなっていることを知ると、我に返ったように思えた。初めて女性と身体を重ねる時は、さぞや夢心地になるだろうと思っていただけに、我に返った瞬間は驚いてしまった。
――最初はあれだけ時間がゆっくり流れているように思えたのに、最後はあっという間だったな――
 張り詰めた糸が途切れると、それまでのプロセスもあっという間だったように思える経験はそれまでにもあったが、まさしくその通りだった。身体を包み込む心地よさが、身体の一点に集中し、最後は朦朧とした意識の中で、お互いに欲望を爆発させる。後に残った気だるさが却って心地よく感じるのは、しばらく経ってからのことだった。
 ぐっしょりと掻いた汗が次第に乾いてくる。気持ち悪さを感じないのは、身体がいつまでも火照っているからに違いない。
――なんだ、こんなものか――
 果てた瞬間に感じたことだった。
 しかし、荒れていた呼吸が整うにしたがって、いとおしさが戻ってくる。熱かった身体がお互いに暑さを感じなくなると、身体の一部のように思えてくる。
 身体は正直だというが、果たしてそうだろうか?
 呼吸が整うことで、時間の感覚も次第にゆっくりと感じられる。ただ、本当に相手を愛しているという感情から一緒にいるのかが疑問に思えてくる。我に返ると、急に真面目に考えるようになるのか、それとも、興奮がクライマックスに差し掛かるにしたがって、自分の中の人間臭い部分を一番感じることになるのか分からない。だからこそ、果てた瞬間に、
――なんだ、こんなものか――
 と思えてくるに違いない。
 藤堂は佐和子の助言どおりにしなかった。そのせいか、まわりから、特に女性からは、
「藤堂さんって、人に助言するのは上手なんだけど、自分が受けた助言は、なかなかいうことを聞かない人のようね。自分勝手な人なのかしら?」
 と思われるようになっていた。
 しかし佐和子には分かっていた。
「藤堂さんって、人に相談する時は、すでに自分の中で考えが決まっている時なのよ。でもその考えが、きっと皆の考えと微妙に違うんでしょうね。天邪鬼というより、個性的ということかも知れないわ。だから、人にも的確に助言できるんでしょうね。彼の助言が一見無責任に見えるのもそんなところね。それが彼の魅力なのね」
 そう言って、佐和子は藤堂をフォローしている。
 実は佐和子にも藤堂と同じで、個性を大切にしたいという思いがあるのだ。藤堂が佐和子に相談を持ちかけるのもそのためだろう。
「藤堂さんは、分かりやすい性格なんだけど、誤解もされやすいんだわ」
 佐和子はそう感じながら、ベレー帽をかぶり、パイプを口にした藤堂が歩いている後ろからいつも追いかけている自分を想像するのであった。

                (  完  )


作品名:短編集109(過去作品 作家名:森本晃次