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見えている事実と見えない真実

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 というのも、本人から聞いたというだけのことで、信憑性が薄いというわけではないが、どこまでが自殺の原因だったのか分からない。
 二人の刑事が現場の事情を聴いている間に、鑑識の捜査も行われていた。まだ完全に終わったわけではないので、とりあえず、近所の人の話が聴けるかどうか、当たってみることにした。二人とも、
――さっきの様子を伺っている様子があるんだけど、表に出てくることはなかったということで、きっと警察には非協力的なのだろうな――
 と考えていた。
 それでも、事情を聴かないわけにはいかないので、まずは、隣の三〇六号室の人に当たってみた。
 呼び鈴を鳴らすと、奥から、
「はい」
 という声が聞こえた。先ほど目が合ってしまったので、居留守を使うことは難しいと思ったのか、観念したかのように、玄関先まで出てきた。
 この女性は、男性と二人暮らしのようで、表札には、男女の名前が列挙されていた。その表札はいかにも現代風の模様なんかも書かれたもので、一筋縄ではないかもと思わせた。そこまで情報が得られるかが何とも言えないという感じで、二人の刑事は目を合わせた。
「どうも、お忙しいところを申し訳ありません。お隣の三〇五号室にお住いの方についてお伺いしたのですが」
 と、言って警察手帳を提示しながら若い方の刑事が言った。
「どうかしたんですか?」
 と聞かれて、
「ええ、どうやら自殺を試みたようで、そのままお亡くなりになったんですが、何かお隣の方のことでお気づきの点がありましたら、お伺いできればと思いましてね」
 というと、
「さあ、お隣と言っても、マンション住まいなどをしていますと、ほぼ近所付き合いなどありませんからね。それでも何度か、彼女の部屋に男性が入っていくのを見たことはあります」
 という、意外な発言があった。
「ほう、男性ですか。お付き合いされている方だったんでしょうかね?」
 と聞いても、たぶんそんな二人の関係まで分かるはずもなく、分かっても簡単には答えてくれないと思っていた二人だったが、彼女の回答は意外だった。
「それが、その相手が毎回違っているんです」
 というと、
「毎回違う? 着ている服装が違っているから、別人だと思われたとかではなくですか?」
 と聞かれて、彼女は、
「ええ、まったく別人です。その証拠に男性の年齢幅がかなりありましたからね。二十歳前後のまだあどけなさの残る男の子であったり、白髪が目立つのではないかと思うような中年から初老の男性であったりですね」
 というのを聞いて。
「ご家族の方という可能性はありませんか?」
 と聞かれて、
「そうではないと思います。それぞれと接する時、腕を組んで甘えるような雰囲気でした。もちろん、普段の彼女からは想像もできないような雰囲気です。普段は、笑ったり甘えたり、怒ったりというような表情をまったく示すような雰囲気を感じさせない人でしたからね」
 と、彼女が答えた、
 なかなか口を割ってくれないと思っていた彼女から聞かれた情報をどこまで信用していいものなのか分からないと感じたが、いきなり警察がやってきて、ウソをつく必要もないない場面で、積極的に話してくれた内容は、無視できないものだということは分かっているようだった。
 だが、彼女についての情報が聴けたのは、これくらいのもので、後は、
「よく分かりません」
 という返事が返ってくるだけだった。
 そもそも、近所づきあいというもに期待もしていなかったので、一つでも有力と思える情報があったのは、よかったと思った。二人の刑事は、署に戻って主任に報告をすることにした。
 署に戻るとそこには、主任の門倉刑事が待っていた。
「清水君、どうだった?」
 と聞かれた上司の方の清水刑事は、今日聴取してきた内容の話を門倉刑事に話した。
「そうか、彼女の自殺についての事情もよく分かっていないわけだな」
「ええ、近所の人が言っていた。複数の男性が彼女の部屋から彼女と一緒に出てくるのを見たということくらいでしょうか? それと気になるのは、彼女のような場末のスナックに勤めているだけの女性にしては、住んでいるところがかなり高級なのは気になりましたね」
 と清水刑事は言うと、
「そうなんですよ、でも、これは私が別の事件で聴いた話なんですが、その人はストーカーが怖くて、少々無理をしてオートロックのマンションを借りていたという話でした。でも、生活が苦しくなって、結局知り合いの人の口車に乗って、犯罪に手を染めそうになったことがあったのを、我々が止めたことがあったんです」
 と、部下の刑事が言った。
「辰巳君が前にいた警察署で起こった事件のことだね。あれは、集団窃盗事件だったかな?」
 と清水刑事がいうと、辰巳刑事が、
「ええ、その通りです。その人は窃盗の腕はなかったので、見張りだったり、運転手の薬だったりと、脇役を演じていました。時には証人となってみたりと、結構いろいろなことをさせられていましたが。結局彼女も両親の呵責があったのか、自首してきたんです。取り調べをしていて、気の毒なくらいでしたね」
 と言った。
「となると、あのマンションで自殺をした水島かおりという女性も、かなり苦労をしていたのかも知れませんね。付き合っていた男性からだいぶ援助されていたのかも知れませんが、相手が違っているというのも、二股や三股くらいかけていたということかも知れませんね」
 と、清水刑事は門倉刑事に話した。
「ちなみに、その隣の主婦と思しき女性の話には信憑性はあるのかい?」
 と聞かれた清水刑事は、
「ええ、私はまんざらウソではないと思います。彼女にウソをつく理由も考えられませんし、高級マンションに住んでいる理由も分からなくもないからですね」
 と言った。
「ところで、鑑識の方からは報告が入ったのかな?」
 と門倉刑事が聞くと、
「ええ、入ってきているようですね。我々もまだ帰ってきたばかりで見てはいないんですよ。よかったら、ご一緒に確認しませんか?」
 と、清水刑事に言われて。
「そうだな、そうしよう」
 と、三人は、刑事課の奥の応接室に入り込んだ。
 まず、死因は、
「手首を切ったことによる、出血多量でのショック死」
 ということであった。
 これは、自殺が成功したということの証でもあり、どこもおかしいところがないように見える。
 そして死亡推定時刻であるが、どうやら二日前のようで、時間が少し経っていることからその幅は少し広いようだ。
「死体が発見される前々日の夕方から、深夜にかけての、午後六時から、十二時くらいまでの間」
 ということであった。
 当然それだけ時間が経っていて、水道の栓が開きっぱなしで水が垂れ流し状態だったことから、血液はほとんど全部流れ出ているとのことでもあった。二日前に死んでいたのであれば、ママからの連絡に出られないのも当たり前ということ。気が付いた時にはすでに遅かったということである。
「みた感じでは自殺のでほぼ間違いないと思われるんだよな?」
 と言われて、清水刑事は、
「ええ、そうですね。でも」
 と言いかけた。
「でも?」