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見えている事実と見えない真実

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「なるほど、その発想はすごいと思います。では、ママさんはこの犯人を素晴らしく頭のいい人間だと思っておられるようですね?」
「そうですね、下手をすると、犯罪捜査というもので、常識と思われていることをいくつか覆す何かがあるのかも知れないと私は思っています。それがどこから来るのかを考えてみたいと思うんですが、今感じている一つの間隔は、『この事件には、共犯者がいなければ、成立しない』ということですね。少なくとも、彼女をどこかから運び込んだかのような映像が防犯カメラに残っていて、そこに三人が映っている。それが殺人を立証したのだから、ここにも何か作為があると思いませんか?」
「そうですね。どうしてそんな厄介なことをしたかということですよね。そんな小細工をするからバレるんですよね」
 と清水刑事がいうと、辰巳刑事が何かを言いたげだったが、それを制したのがママだった。
「私が言いたかったのは、そこじゃないんです。あの映像に写っていたのは、何も作為が感じられない行為だとすれば、これほど計画性のない犯罪もない。しかし共犯者が存在するということは、それだけたくさんの人の意見があったということですよね。複数いれば、全員が全員こんなひどい計画に加担するとは思えない。一人くらいは、頭のいい人だっているでしょう。それなのに、ここまでひどいというのは、私には解せないんですよ。少なくとも主犯がいるはずです。その人がどこまで考えていたかということなんですが、少なくとも犯罪事件において、共犯者を一人でも多く持つということは、犯人にとっては、大きなリスクを背負うことになるんですよ。そもそも共犯者の存在は、一人では実現できない犯罪を行う場合と、もう一つは、実行犯を別に立てることで、真犯人のアリバイを作ることにあるんですよ。前者はこの事件に当て嵌まる気がしますが、後者は考えにくいですよね。なぜならアリバイ工作というのは、自分が疑われている場合にアリバイを作っておくためのものですから、今の時点で容疑者が絞り切れていないことから、それも考えにくいですよね」
 とママがいうと、今度は辰巳刑事が付け加えた。
「その通りだと思います。そもそも自殺に見せかけようとしての行動であれば、そちらに一番の注意を払うはずなのに、自分たちのミスなのかどうなのか、怪しいことが多いため、犯罪事件だということが判明した。きっとそこで、この共犯者の存在が本当であればリスクに繋がるであろうことを、いかにして彼らに有利に展開させるか、つまりは、こちらを欺けるかということが考えられますね。ママさんの言う通り、彼らが実は頭がよくて、ちゃんとした殺人計画を元に進めたのだとすれば、すごいです。私が網一つ考えたのは、『時間稼ぎ』です。彼らにとって、犯行のすべてはその日に終わっているのではないかと思うです。最初は自殺と思わせておいても、最終的にはバレる。それを見越したのは、少しでも殺人であるということが後ろにずれればずれるほど、彼らにとって何か都合がいいのかも知れませんね。たとえば、共犯者を高跳びさせるとか、まったく別のこの事件には関係のない人として、彼らに対しても、すべてが終わったことだということで、安心感を与えるという目的もあったかも知れません」
 と言った。
「確かにそうだね。犯罪事件において共犯者の存在は犯人にとってあまり得なものではない。先ほど言ったアリバイや、犯行のためにやむ負えないという理由以外には、共犯を持つ意味はないわけです。しかし、共犯を作ってしまうと、事件に巻き込んだ手前、口を封じる必要がある。まさか、全員殺してしまうわけにもいかないでしょうが、ずっと気になってこれから先も生きて行かなければいけない。そんな状態に耐えられるかということですよね」
 と清水刑事は言った。
「これは私の突飛でしかない発想なんですが、かおりちゃんが殺されたというのは、本当に犯人にとっての最終目的だったのでしょうか? あまりにもずさんすぎるように見えるのは、本当の目的ではなく、何か突発的な事故でも起こって、それをごまかすために行われたのだとすれば、分かる気がするんです。それが何なのかはよく分かりませんが、やはりかおりちゃんが事件の中心にいるのは間違いのないことではないかと思うんですよね」
 と、ママがいうと、清水刑事と辰巳刑事は顔を見合わせた。
 清水刑事はまったく予期していなかった発想だったので、純粋に驚いている。しかし、辰巳刑事は、かなり薄いところではあるが、自分の考え方の中にいたのは確かだった。
「ママさんは、本当に奇抜なことを思い浮かべるのが得意なようですね。私もそれは少し考えていました。ただ、いかにも探偵小説の読みすぎのような発想を口にするのは刑事としてというか、どうも確証がないだけにできなかったんです。それをママさんの口から聞けたことは、私にとっても目からウロコが落ちたような感覚なんですよ。そういう意味で私はママさんに脱帽もしますし、尊敬の念も抱きます。だけど、肝心の真実には、まだ遠い気がするんです、それでも、的は捉えているのは間違いないと思うんですよ。でも、的を射るまでには至っていない。そのためには証拠、いわゆる確証が必要なんです。何と言ってもまだ、犯人の検討すらついてはいない状況での推理にすぎませんからね」
 と辰巳刑事は言った。
「とにかく今のママのお話を大いなる参考とさせていただいて、こちらももう少し考えてみるようにします。今日は貴重なお話ありがとうございました」
 と言って、清水刑事がママからの話を宿題のような気持ちで話をここで引き取ると、いよいよママの方もそろそろお店の開店時間が迫ってきたことで、現実に引き戻されたような感じだった。
 二人の刑事は、そのまま署に戻って、さっきの話を門倉刑事に話した。それを聞いた門倉刑事は、
「おもしろいね。実におもしろい。まるで私が鎌倉探偵と話をしている時のあの感覚を君たちも味わったということだね?」
 というではないか。
 鎌倉探偵というのは、門倉刑事がもっとも尊敬する探偵さんで、元は作家をしていたという変わり種だが、門倉刑事とは旧知の中で、今までにも数々の難事件を解決してこられたという署では伝説的な探偵となっていた。