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見えている事実と見えない真実

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 彼らはシートを畳んで、普通の服装に着替えてからバラバラに帰ったのだと思っていた。入る時は皆で、顔を隠す必要があるが、帰りは別に変装する必要などなく、普通の姿で、人相も隠さず、自分であるということが分かったとしても、映像を見る限り、このマンションの住人なのか、それともどこかの部屋への訪問客なのか、別に怪しくなければ、誰も変には思わない。それに、三人で出てくる必要もないのだ。一人一人、時間の間隔をあけてしまえば、怪しまれることもないはずだった。
 それなのに、何をわざわざ変装をしたままの三人の姿がそこにあるのか、それも三人が手に持っているシートが、まるで三十分前にエレベータの中に消えたその時の姿そのままに見えた。まるでエレベーターの中で、三十分ずっと潜んでいたのではないかと思えるほどで、シートの膨らみも、それほど大きさが違うわけではなかった。
「ということは、これも人間が入っていたということか?」
 と思えた。
 それにしても、三十分という時間は中途半端な感じがした。
 殺されてから、偽装工作をするとしても、少しでも早くやらないと、誰に見られるか分からないというリスクがある。三人という人間がいるのだから、三人がかりであれば、偽装工作も半分以下の時間で済むだろう。
 普通に考えれば、十分ほどで出てこれるのではないかと思った。実際にほとんど偽装工作を行われた形跡はない。何しろ、現場を自殺の後にしてしまえばいいだけだからである。
 しかも睡眠薬を飲ませているのだから、抵抗されることもない。血が出たとしても、普通に自殺をした方が、出てくる血をどうすることもできない。せめて、洗面所か風呂場で水を流しっぱなしにして、噴き出す血を水道で流れ落とすしかないのだ。
 実際に、水道の栓は開いていて、血液を十分に流し出してくれていた。
 深沢が、
「犯行は他で行われた」
 と言ったのも、水道が流れていたという事実を知っていたからだろう。
「だが、どうして知ったんだ? やつはその場にいたのか?」
 と思ったが、ママに訊いたのかも知れない。
 もし、それであれば、ママと深沢は、前から知り合いだったのだろうか? 二人の話からは、お互いの名前はほとんど出てこない。深沢の口から、水島かおりが、今では深沢のかわりに、ママが相談に乗ってくれていると聞かされただけのことであった。
 それも、あくまでも他人事のような話しぶりだった。かおりから聞いたという事実だけを強調したかったのかも知れない。
 そういう意味で、深沢とママの関係がどこかで繋がっているのではないかと辰巳は考えた。
 だが、そこまで考えてくると、またもう一つおかしなことに気付き始めた。
「そういうことになると、大久保泰三という男も微妙な存在になるな。何しろ、ママさんからは、かおりと仲が良かった相手として紹介され、深沢からは、こともあろうに犯人ではないかという指摘さえあったくらいだ。ママと深沢が繋がっているとすれば、それぞれ対照的な証言をしたことに何かの意味があるというのだろうか?」
 と辰巳刑事は考えた。
 大久保という男は、少し背は低くて全体的に小さな感じがしたが、身体は引き締まっていることに辰巳刑事は気付いていた。筋肉の発達は、筋トレをしている人が発達する位置が、明らかに盛り上がっていた。筋トレが大久保という男の趣味なのかも知れない。
 髪の毛はあまり長くはなく、五分刈りよりもさらに短く、
「いかにもスポーツマン」
 という雰囲気の男性だった。
 体操選手にでもいそうな雰囲気であったが、性格は見た目からは想像できないほどの小心者に思えたのだ。
 もっとも、見た目が筋肉質なので、余計に小心者と感じた性格が目立つのかも知れない。この事件が殺人事件の可能性が急浮上してきたことで、彼が重要容疑者の一人であることに違いはない。
 どちらにしても、何度も彼に会うことになるだろう。辰巳刑事本人がいかなくても、他の刑事が事情を聴いたり、あるいは、出頭要請をすることも十分に考えられる。もっと言えば、逮捕拘留も十分に考えられるのだ。
 大久保泰三のことはさておき、この映像をよく見ていると、中には誰か人が入っているような感じだった。
 玄関からエレベータまでの入場の際には、中に人の気配は感じなかったが、表に出される時、つまりエレベータを出てから、玄関の自動ドアを抜けるまでの間には、人が潜んでいる感じが受け取れたのだ。
「どうしてなんだろう?」
 と、この違いがどこから来るのかを考えてみた。
 すると、分かったのは、入る時に気配を感じなかったのは、そのシートがまったく動く感じはなく、ただ、振動で揺れているだけだった。しかし、出ていく時には明らかに振動に逆らった動きが散見され、その様子が中に生き物がいるような気がしたからだ。
 そうなると、中にいるのは人間でしかない。縛られているのか、動こうとするが、限界があるため、違和感だけを残して、持ち運びには支障がないようだった。
「誰かが入っているんだ」
 と思い、時間的にも、そこに入っているのは水島かおりであるわけはない。
 しかも、表に出ている運び手の三人は、雰囲気もすべてが最初の三人にしか思えなかった。そうなると、中に入っているのは、まったく未知の人物、しかも、かおりを部屋に返しているので、元から、その部屋にいた人物だということになる。
 もちろん、それが事件に関係のある人物だということを前提に考えてのことであるのだふぁ、ここで、被害者は殺された状態で部屋に戻されたのか、それとも眠った状態で返されて、自殺を装うような状況にしたのかであるが、これはあまり迷うことはない。当然後者が考えられる。
 まず一番の証拠としては、例のシートの中で、かおりの髪の毛はたくさん発見されたが、血液反応はなかったという。水道を流しっぱなしにしているのも、血液の噴き出しに備えるためなので、違和感はない。
 だが、他で殺されたということになると、なぜわざわざ他で殺す必要がある。眠らせて無抵抗の人間の手首を切るだけで事は足りるであろう。
 もう一つの疑問は、この三人と、深沢はどういう関係なのかということだ。
 深沢は敢えて、これを殺しだといい、他で殺された可能性があると言及した。どうして彼がそのことを知っていたのか、まさかとは思うが、殺しだということを言いたくて、苦肉の策に、殺害現場が他ではないかなどという、捜査を混乱させる発言をしたのだとすれば、当てずっぽうに振り回されそうになったが、たまたまその通りだったということだっただけなのかも知れない。
 しかも、自分の当てずっぽうをいかに正当性を与えるかということで、犯人があたかも大久保であるというような、確信めいた言い方をするしかなかったのではないだろうか。
 だが、そうなると、彼がこの事件の犯人ではないとすれば、一体どこまで知っていて、どこまで関わっているというのだろう。あくまでも犯人ではないという仮説からの判断であるが、大久保を名指ししたのは、思いついた名前が大久保しかいなかったからではないだろうか。
 考えてみればこの事件で犯人らしいと言える人間は大久保しかいない。あくまでも、
「犯人らしい」