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見えている事実と見えない真実

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「それは言えると思いますが、どうもそれだけではないようなんです。詳しいことはまわりにもよく分からないようですが、彼女は時々、性格的に自分が似ている相手だと思うと、たまに頭の中で混乱してしまうことがあるようなんです。具体的なこととしては、まわりの人もどういえばいいのか分からないようでしたが、これも本人が自己分析の中で話したということです。私が聞いた人でそれに関しての経験をしたことがある人はいなかったので、何とも言えませんが、昔からの知り合いだったりすれば、分かるんじゃないかということでした」
 と辰巳刑事がいうと、
「じゃあ、深沢なんかには、分かる範囲の水島かおりの性格なのかも知れないな。今度深沢に遭った時に訊いてみることにしよう」
 と、清水が言った。
 この事件は、今までずっと自殺だと思われてきたが、さすがにトラックの一件から髪の毛が採取され、それが自殺をした水島かおりの髪の毛であり、しかも水島かおりの髪の毛が付着していたシートが、彼女のマンション、つまり死体発見現場の踊り場にある防犯カメラの撮影した映像に残っていたシートと酷似しているという事実だけで、すでに警察内では大きな問題になりつつあった。
 何しろ、殺人事件をもう少しで自殺として片づけようとしていたからだ。門倉刑事、清水刑事。辰巳刑事の三人の疑念と、努力がなければ、きっと自殺で処理されていただろう。もし、深沢の供述があったとしても、真剣には聞いていないだろうし、トラックが見つかって、その中に髪の毛が残っていたとしても、その一件とこちらの一件を結び付けるカギは防犯カメラの映像を見なければ分からない。
 それも、見た映像が、
「自殺を裏付ける証拠」
 として見ていたものであるとすれば、怪しい三人組を発見したとして、果たしてそれを殺人として今回の事件と結び付けようとするだろうか。
 それを考えると、偶然とまではいかないが、どこか綱渡り的な何かが存在していることは確かだろう。この感覚が先ほど辰巳刑事が感じたという、
「犯人が誘導している」
 という意識に繋がったとしても無理もないことだ。
 清水刑事も、反論はしたが、否定をしたわけではない。ただ自分の中で納得できないものがあったことが、違和感となって存在しているということであった。
「彼女が結構たくさんの人に何かを相談していたのだとすれば、大久保泰三なんかどうなんだろうね?」
 少し沈黙があった中で大久保泰三の話題を口にしたのは、清水刑事であった。
「大久保泰三というのは、ママさんからは、水島かおりと仲が良かったと言って、名前を出された人であり、深沢からは、それこそ犯人呼ばわりされた人のことだよな?」
 と門倉刑事は言った。
「ええ、そうです。あれからまだ話は聞けていませんが、この事件が殺人事件だということになると話は別です。こうなってくると、重要参考人としてのレベルに達している人ではないでしょうか?」
 と清水刑事がいうと、
「そうですね。今までは自殺だと思われていたので、犯人捜しという観点ではなかったので、聞いた内容もそれほど深入りしたものではなかったですが、今度はそうもいかないですよね。今も名前が出た、勤めていたスナックのママさん、それからわざわざ証言しにきた深沢と、疑えば怪しく思える人が出てきますからね」
 と辰巳刑事は言った。
「そういう意味でいくと、深沢という男は微妙ですよね。彼がいなければ、まず間違いなく自殺で処理されていたはず。一番自殺を怪しいと感じていた関係者は深沢ですからね。犯人だとすると、どこかおかしな感じがしてみますよね」
「そういうことなんだ。考えてみれば一番怪しいはずの彼が、殺人事件になったとたん、犯人として疑えないかのような状態に陥る。これも一種の矛盾のようなものではないかな?」
 清水刑事はそう言ったが、辰巳刑事は違うようだ。
「いえ、それでもやっぱりやつは怪しいです。その怪しさが私は誘導されているような感覚に陥ったんですよ。犯人であるかどうかよりも、やつには何かの作為を感じます。しかも、その作為はきっと事件の全貌が明らかにならないと分からないことではないかと思えるんですけどね」
 というのが、今の時点での辰巳刑事の考えだった。
 彼の考えは、いつも抽象的だが、それは直感的なものであり、他の人の抽象的な意見も直感によるものが多いのかも知れないが。彼の直感は前を向いている。前を向いた直感なだけに後ろや横には気づかない。そのあたりを、
「猪突猛進」
 という言葉で表されるのが、辰巳刑事なのだろうが、それは彼が表に勧善懲悪な精神を曝け出してるからだった。
 そんな猪突猛進な辰巳刑事も、時々その直感のまま突っ走ったことで、見事に事実に最短距離で行き着いて、あっという間に真実を見抜いてしまったという離れ業を演じたこともあった。
「まるで神業だな」
 と清水刑事に言わしめたこともあり、それが辰巳刑事の誇りでもあった。
 清水刑事は清水刑事で、そんな後輩を持ったことに誇りを持っていて、お互い認め合っているところが、
「いいコンビ」
 としてまわりに写り、門倉刑事の信認の厚さというものに繋がっているのではないだろうか。
 三人はそこで一度解散したが、翌日になり、この事件が本格的な殺人事件だとして、正式に捜査本部が置かれ、実際の現場の責任者として門倉刑事がつくことになった。
 最初から殺人を疑っていたということも、彼が適任者だという話になり、他の捜査に加わっていた人員も捜査本部に加えられたことで、いよいよ捜査はやりやすくなった。
 捜査の中心は清水刑事と辰巳刑事の二人であることは間違いない。さっそくこれまで捜査された部分の話を二人の口から捜査本部という正式な場所で報告された。
 後は、犯人を突き止めて、追及するだけである。ただ、そのためには捜査本部を納得させる必要があり、いよいよ本格的な事件捜査に入ったことを自覚した二人は、さらに気を引き締めるのであった。

                ステルス事件

 辰巳刑事は、事件の捜査に行き詰ると、いつも考えるのが、
「現場百回」
 という言葉であった。
 実際に今までにも何度か現場に足を踏み入れ、自殺だということである程度までは整理された部屋に赴いたが、新しい発見はできなかった。
 そこで、だからと言って、藁をもすがるような気持ちであったわけではないが、不審に感じていた犯行当時の映像を確認してみることにした。
 例の三人組が入っていくところは確認したが、考えてみると、出ていくところを確認まではしていなかった。そもそもこの映像解析は、被害者が本当は殺されたのだということを確認するために見たのであって、その後誰も見たものはいなかった。
 映像はマンションから借りてきているので、本当は返す必要があるのだろうが、ことが殺人事件に発展したことで、これも証拠物件として、押収されることになったのだ。
 例の三人が、エレベーターの中に消えてから、どれくらいの時間が経ったであろうか、ちょうど二十分くらいではないだろうか、またしてもエレベーターが開き、中から例の三人が出てきた。
「おや?」