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見えている事実と見えない真実

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「どうなんでしょうね。もしこれが同一のものだとすれば、我々は考えを急激に変えなければいけない感じになりますね。私などは、基本的には自殺だと思って捜査し、自殺ではないと思われる証拠を一つずつ潰していくくらいの気持ちでいましたので、あの髪の毛が水島かおりのものだと断定されれば、今度は自殺という線を打ち消して考えていくことになる。いや、逆に自殺の線を打ち消すのは難しいので、殺人の線を何とか暴き出さなければいけなくなってしまいます。となると、最初から捜査のやり直しということになりかねませんね」
 と、辰巳刑事は苛立っていた。
 辰巳刑事でなくとも、ここにきてまったく捜査方針を変えなければいけないというのはかなり精神的に無理を要してしまう。ベテラン刑事でも。ここにきての方向転換はかなり厳しいものがあると思えた。
 だが、事実であれば、それを無視するわけにはいかない。事実の積み重ねが真実なのだからである。
 それから少しして、鑑識が報告にやってきた。
「どうでしたか?」
 緊張の一瞬である。
「あの髪の毛は、十中八九、水島かおりさんのものに間違いありません。ただ、あの袋からは血液反応は出ませんでしたので、他で殺されて運ばれてきたということではないと思います。たぶん、睡眠薬で眠らされて、あの袋で運ばれたんでしょう。そう考えると、あの映像も彼女が睡眠薬を服用していたというのも合点がいきます。ただ、そうなると、誰かが彼女を彼女の部屋に運んで、自殺に見せかけた殺人という線が濃くなったということではないでしょうか?」
 と、鑑識は言った。
 睡眠薬から目を覚ましてから、自殺を試みるというのもおかしな話なので、やはり彼女は運ばれてきてから、この部屋で殺されたと見るのが一番だろう。そうなると、またしても、おかしな状況がいくつか出てきたことは否めないだろう。
 鑑識から調査報告を貰い、鑑識主任が戻ってから、三人はまた応接室に入り込んだ。
「これはどういう風に考えればいいんでしょうね。彼女が自殺ではなく、殺されたのだとすれば、被害者であり、加害者と言う名の容疑者が必ずいるということになりますよね。それにしても、不思議なことが多すぎる」
 と辰巳刑事がいうと、
「そうだね。気になるのは、こうも簡単に被害者が殺されたということが分かるということなんだ。確かに深沢の証言がなければ、防犯カメラをそんなに注意して見ることもなかっただろう。シートを運ぶ三人組は怪しいと思うかも知れないが、直接事件と結びつけたかどうかだよね。自殺であらかた固まっていた頭の中で、不審点が若干あるというだけで、実際にはその不審点を覆す裏付けさえ取れれば、それで我々も納得したはずなんだ。だから、あの映像を見ただけで、本当にこの事件に結び付けたかどうか、分からないよね。すべてのきっかけは深沢の証言からであり。やつの証言があったから、シートのことを気にするようになり、さらに、今回の駐車違反のトラックに積まれたシートから髪の毛が見つかったということであっても、普通なら、自殺したと思っている人の髪の毛だなどと思いはしない。これもあの防犯カメラの映像が、証拠として歴然と存在しているからなんだよね」
 と、清水刑事が言った。
「そうなんですよ。そう考えると、あのトラックの違法駐車というのも、わざと警察に不審に思わせて、あのシートを発見させ、そこに、これ見よがしに被害者の髪の毛をつけておいた。ただ抜けただけというには、かなりの本数だったということなので、どこかに作為があったんだろうな。だから、あのトラックは我々に遅かれ早かれ見つけさせ、不信感を抱かせることで、事件とを結びつける。そうなると、俄然深沢という男が犯人であるか、犯人でなくとも、何か大きな役割をこの事件に負っていると思ってもいいのではないでしょうか?」
 と、辰巳刑事は言った。
「この事件では、なぜかということが多いが、そのほとんどは、我々警察に何かを気付かせて、そっちに誘導するような作為が感じられるような気がするんだ」
 と清水刑事がいうと、
「でも、こちらの意図している事件の進み方と違う動きを事件が見せた時、私はまるで犯人に翻弄されているような気分になることが往々にしてありますが、それと理屈的には違うんですか?」
 と辰巳刑事は聞いてくる。
「それは私も考えたことがあるが、それとは少し違う。犯罪は生き物のようなもので、犯人という相手のあるものなので、こちらの思っているような形で進まないことも多いだろう。でも、それは相手も同じで、相手が思っているように進む時というのは、こちらもどこか犯罪としての流れに納得して進んでいるように思うんだ。今回の事件にも何か作為的なものは感じるのだけど、どこもこれも、あからさまな気がして、そこに納得できるものがないんだよ。もし、辰巳君のいうように、誘導されていると感じるのであれば、もう少し流れに納得が行くような気がするんだよ。言葉ではハッキリというのは難しいことなんだけどね」
 と、清水刑事は言った。
「確かにそうですね。今回のトラックの件でも、あたかも、警察に取り締まってほしいと言わんばかりに車を放置しています。まるで子供の頃に読んだ探偵小説の冒頭のような流れに何か怪しさを感じはしますが、ここまであからさまなのは、今までには経験がないですね。実際に捜査してみると、こちらの思っていた通り、この事件と関係があった。でもそれは、後から考えると最初から分かっていたかのように思わせられる。何か癪に障る感じがするんですよ」
 という辰巳刑事に対して、
「でもね、相手が捜査を誘導しようとしているとは思うんだ。だが、その誘導された先に何があるか、それを見き分けなければいけないということを最初から感じていないと、今辰巳君が言ったように、最初からそう思っていたかのような錯覚を植え付けられてしまって、真実を見失ってしまうのではないかと思うんだ」
 と、清水刑事が返した。
「そういえば、この事件で被害者である水島かおりの友達に意見を聞いたんですが、彼女はストーカーに狙われているということを、結構いろいろな人に話して、怯えていたことがあるというんです。その時期というのが、深沢が言っていた時期と重なるので、彼女が結構いろいろな人に相談していたらしいんです。もっとも相談と言っても、親身になってもらえる相手は、深沢かママさんくらいのものだったようですが、彼女は性格的に、本当に怯えていると、誰彼構わず、話をしてしまう性格のようです」
 と、辰巳刑事が報告した。
 実はこのこともこの事件に大きなかかわりを持つ話でもあるのだが、これも後述することになるだろう。
「それだけ、水島かおりが臆病な性格だったということなんじゃないのかな?」