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見えている事実と見えない真実

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 エレベーターを降りるところまでは確認されているこの映像、この後どうなったのか分からないのだが、水島かおりの死体を運んだとも考えられなくもない。中身が見えないだけに何とも言えなかった。
「門倉刑事は、この映像をどう、思われますか?」
 と清水刑事に言われて、
「うーん、何とも言えないが、こんな映像が残っているということは無視はできないということにはなるだろうね。でも、私の中では、正直、ほぼ自殺に固まりかけていただけに、そういう意味でこの映像には衝撃というのが、本音かも知れないな」
 と門倉刑事が答えた。
 門倉刑事は、鑑識から聞かされた話を清水刑事に聴かせたが。清水刑事も門倉刑事以上にその話に興味を持ったようだ。おそらく清水刑事という人も、この鑑識のような性格であり、その考えを抱いている刑事の一人なのだと思えた。

                   二つの真実

「この内容をどう解釈すればいいんだろうか?」
 と清水刑事は少し混乱しているようだった。
 その間に、聞き込みから辰巳刑事が帰ってきた。辰巳刑事は第一発見者であるママのところに行っていたようだ。ママの方では、
「私が分かっていることは皆清水刑事に話したわよ」
 というだけであったが、それでも、もし何かを思い出したのであればという半分は一縷の望みで、辰巳刑事は訪れていた。
 その一つには、
「犯行現場があの場所ではなかった」
 などという突飛な証言が出てきたことで、ママにはその証言のことを伏せたうえで、聞いてみたのだ。
 本当は証言について話をした方がいいのか迷ったのだが、敢えて言わないことにした。
 もし話していれば、何か細かいところに気付いてくれたかも知れないが、話してしまったことで、余計な先入観を相手に与え、証言が思い込みによる錯覚になってしまうことを恐れたのだ。
 辰巳刑事は、若いがゆえに、猪突猛進的なところがあるが、結構自分を抑えることもできる。何か行動を起こす前に、一度立ち止まって考えることのできる刑事であった。そこが彼のいいところなのだろうが、最大のいいところはやはり、
「若さに任せた積極性だ」
 と、清水刑事などは思っていた。
 それでも、自分を抑えることができるのは素晴らしいことで、部下として扱うには、実に理想的だと言ってもいいだろう。
 清水刑事もそんな辰巳刑事から教わる部分もあるようで、これほどいい先輩後輩のコンビもないだろうと、上司の門倉刑事も思っていた。
 清水刑事と辰巳刑事のコンビは、刑事課の一つの名物のようなものだと思っていたのだった。
 聞き込みから帰ってきた辰巳刑事は、一通りの、と言っても、あまり収穫がなかったということを報告したうえで、二人が見ている監視カメラの映像を見た。
 その映像は何度も繰り返して見てみて、何か納得できるか、気になるところを発見するまで見られた。
 その中で一番熱心に見ていたのは門倉刑事で、あまり綺麗ではない映像で、三人の男たちに視線を絞って見ているようだった。
「確かにこんなに怪しい映像もないですよね」
 と辰巳刑事がいうと、
「防犯カメラの映像など、よほどの何かがない限り、見直したりはしませんからね。それにマンションのような場所の防犯カメラは、それほど映像が綺麗なものでなかったりするので、それを考えると、これだけ大胆なことをしてはいるが、誰か他の人に出会いさえしなければ、あまり防犯カメラを気にする必要などないとでも思っているんでしょうかね」
 と清水刑事も言った。
「そう考えると、確かに怪しいんだけど、よく見てみると、この三人が三人とも、防犯カメラを意識しているように思えるんだ。これだけの大胆なことをするので、防犯カメラの位置は把握しているのだと思う。だから防犯カメラを意識しているのは分かるんだけど、意識しすぎに感じるんだ。顔をここまで隠しているんだから、もっと堂々としていてもいいような気がするんだが、これは私の考えすぎだろうか?」
 と門倉刑事が言った。
「門倉刑事の言う通りだと思います。この映像を見て疑わしいと思える部分はいくつか考えられますが、彼らが防犯カメラを意識しているという感覚はすぐには発見できません。でも、何か違和感があると思った時、この視線に違和感があると気付いた時、もっとたくさんあると思った違和感が少しずつ氷解してくるような気がしたんです。門倉刑事の目の付け所は間違っていないんじゃないかって、私は思いますね」
 と、辰巳刑事は言った。
 実は辰巳刑事も、三人の行動を中心にこの映像を見ていた。ある意味目の付け所という意味では門倉刑事と同じであった。
 だが、清水刑事だけは違った目で見ていた。全体から徐々に焦点を狭めていくという見方をしていた。そういう見方をしていると、門倉刑事が指摘したような、三人の防犯カメラに対しての視線への疑問は、永久に感じることができなのではないかと思えた。しかし、清水刑事のような見方は実は大切で、完全に映像としての矛盾を、登場人物が何を考えているかということを度返しした発想を見抜くのに特化しているのだった。このやり方は学生時代からのもので、他の人とは違った見方をすることで、発見できない部分を発見しようというのが特徴だった。
「もし、この映像だけが発見されて、他に材料がなければ、この映像だけで死体が他から運ばれてきたなどという発想が思い浮かんだりするわけはないですよね。昨日の深沢氏の証言がなかったら、元々こんな映像を見ようなどという発想もなかったでしょうしね。もし、何かのウラを取るためにこの映像を見ていたとしても、これを見て、今回の自殺と思える事件に結び付けることはないわけですよね。となると、この映像は今回の事件と本当に関係のあるものだと言えるんでしょうか? ひょっとすると、事件には何も関係のないものを運び込んだだけなのかも知れない。それも犯罪とは結び付かないものかも知れないともいえますよね」
 と清水刑事は言った。
 これが清水刑事の「目」であった。全体からのバランスや違和感、矛盾などを考えながら見ていると、自然と他の人のようにピンポイントで見ているよりも、公正で冷静な見方ができるのだろう。
 門倉刑事と辰巳刑事の間では、
「深沢証言ありき」
 で見ているので、どうしても、事件と結びつけてしまう。
 これが一種の減算法であって、後の二人のように、ピンポイントな部分から次第にまわりを気にするように見る加算法のような考え方との違いなのではないだろうか。
「深沢証言を裏付けるような形で、この映像が発見されたことで、普通に考えれば、何も矛盾がないように思えるのですが、私には逆にそこに欺瞞があるような気がします。何が欺瞞なのかはまだ分かりませんが、あまりにも都合がよすぎるというか、この映像を見るように深沢が誘導したようにも思えるし、この映像の中にこそ、何かの欺瞞があるのだとすれば、深沢は何かを知っているということになる。これが殺人で、犯人ではなかったとしても、深沢には疑念が残ってくるんです。もっとも、その疑念も疑えばキリがないんですが」
 と清水刑事が言った。