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見えている事実と見えない真実

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「ええ、知っていましたよ。彼女が打ち明けてくれました。時々誰かにつけられているような気がするってですね」
「それを聞いてあなたはどうしました?」
「僕は臆病者なので、さすがに彼女のボディガードができるわけもないし、何よりも交際を断られた男だという意識もありますので、自分が彼女のためにそこまでする義務もありませんからね。誰もがするようなアドバイスとして、警察に相談することを進めたくらいです」
 というと、
「それで彼女は納得しましたか?」
「納得したかどうかは分かりません。相談してくれたのは嬉しかったんですが、こっちも余計なことに関わりたくはないですからね」
 というではないか。
 勧善懲悪の考えが強い辰巳刑事は大久保の話を聞いていて、少しイライラしていたが、考えてみれば、これが普通なのだ。ただの知り合いとしての応対であれば、彼の示した回答が、
「模範解答だ」
 と言ってもいいのではないだろうか。
 それも、彼の話し方を聞いていると、すでに彼女と自分は関係ないとでも言いたげで、自殺したことを気の毒だとも感じていないのだろう。その証拠にこの男は、質問されたことに答えるだけで、ただの知り合いだとしても、彼女の自殺を機にしているのであれば、当然知りたいはずの、
「自殺の原因は何ですか?」
 ということを聞くはずなのに、一言も聴こうとはしない。
 それを考えると、
――この男がストーカーだったのではないか?
 と思っていた疑念も会ってみると、
――この男にはそんなことはできないだろう――
 と思えた。
 ストーカーをするような人間は、小心者で、相手に近づけないが近づきたいと思っている気持ちと、何よりも相手を愛しているという気持ちが少なくとも自分の中では疑うことのできない事実として持たれているはずだった。
 だが、この男は一番肝心な、
「彼女を愛している」
 という感情がすでに失せているように思える。
 こんな男にストーカーの真似事ができるはずもないと思えた。確かに自分が疑われたくないという気持ちから、彼女への無関心を装っているのではないかという気持ちもあるのかも知れないが、すでに彼女は亡くなっているのだ。いまさらストーカー行為がバレたとしても、警察がどうこうできることではない。それよりも、警察がどうして今頃事情を聴きに来たのかということを考えると、死について何かの疑問を抱いているからではないかと考えられる。それが、自殺への疑念だとすると、ストーカー疑惑どころの話ではなくなってしまう。余計なことに関わりたくないと思っている大久保は小心者であるがゆえに、結構頭の回転が早く、切れる頭を持っているようだ、その回転の早さと、何か自分への危険度に対して察するものがあったのか、刑事に対しては堂々と渡り合えるという自信のようなものがあったのかも知れない。
「今日はこれくらいにしておきます。またお伺いすることがあるかも知れませんが、その時は、また一つよろしくお願いします」
 と言って、大久保の聴取を終え、この日は署に戻った。
 署では、辰巳刑事の知らないところで、清水刑事と門倉刑事がいきなり深沢という男から、新たな話が聴けたということで、そのことについて話が行われていた。そこへちょうど辰巳刑事が帰ってきて、今日の報告を行った。
「なるほど、君は大久保泰三の話も聞いてきたんだな? 君は大久保という男をどう思ったかね?」
 と清水刑事に訊かれて、
「どうもこうも、彼がストーカーを行っていたということは考えにくいような気がしました。ママさんもきっとそれは同じだったのではないでしょうか? それにあの男を見ている限り、どうも彼女の自殺に彼が関わっているということもないような気がします。小心者というイメージが強いので、そう感じるだけなんですけどね」
 という報告に対して、納得したのかしないのかを言明しなかった清水刑事だったが、その代わり、今日署の方に訪ねてきた深沢の話をされた。
「なるほど、興味深いお話ですね。特に死体を動かしたなどという発想、どこから出てきたんでしょう。よほどの確証がなければ、わざわざ警察までは来ないでしょうし、もしそれがウソだとすると、どこからそんな発想が出てきたのかと思うほど、そう簡単に思いつくような話ではないですよね」
 と言った。
「そうなんだ。そういう意味では、あまりにも唐突すぎるので、笑い話のように聞き捨ててしまう人もいるかも知れないが、少なくとも私と門倉刑事の間では、そんなことはできなかった。逆に、その言葉が頭から離れなくなったくらいだ」
 と清水刑事は言った。
 それを聞いて、今度は門倉刑事が口を開いた。
「ところで、この深沢という男が帰る前に一言衝撃的な話をしていったのだけど、その内容というのが、この事件に大きく関わっている人間がいるというのだ。それがこの大久保泰三だというのだよ。深沢に訊くと、大久保とは面識がないということで、大久保の方はおそらく、自分のことは知らないだろうと言っていた。もし知っているとすれば、水島かおりが話さない限り知るはずはないのだが、それはありえないという。だから、大久保が自分のことを知っていることもありえないだろうというんだ。その前提となる話があったうえで、彼は衝撃的なことを口にしたんだ。もしこれが殺人だということになるのであれば、一番の容疑者は大久保になるんじゃないだろうかっていうんだ。深沢の口から大久保についての人間性を語られることはなかったので、ひょっとすると面識がないと言っていたので、それこそ彼のことを知っているとしても、ウワサの類くらいしかないのでないだろうか? そう思うと、信憑性は薄い気がするのだが、何とも言えないよね」
 というのが、門倉刑事の話だった。
 そこで清水刑事が、
「私も、この突飛すぎる話に信憑性をなかなか感じることはできなかったんですが、それよりも気になったのは、どうして深沢という男が、大久保という男を名指しできたかということですよ。今回の深沢の話の中で信じがたい話は多かった。死亡した場所が別だったなどと、どこに根拠があるのかと思ったんですよね。私が思ったのは、まず彼にとって水島かおりが自殺をしたということをどうしても認めたく無かったんじゃないかということなんです。つまり、自殺をしたのではないとすれば、誰かに殺されたことになる。あの状態で事故ということはありえませんからね。だとすると、まず必要なのが犯人ということになる、その必要な犯人役として考えたのが、大久保ではないかという考えですね。そして、今度は殺害されたのだとすれば、そこに自殺に見せかける理由がいる。もちろん、犯人などいないということが一番の理由なんでしょうが、それでも何かの伏線が必要だと考えた時、物理的なこととして、他で殺されたのではないか考えたとすれば、彼の言っていることも分からなくもないです」
 と言った、
 それを聞いた門倉刑事は、