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見えている事実と見えない真実

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「もちろん、今あなたがおっしゃった、感覚にすぎないことなんですが、自殺常習者が自殺をすることを病気のようになっているのだとすると、今回に限って、自殺を成就したということは、それなりに覚悟があってのことだと思うんですよね。逆に常習者であればあるほど、自殺を日課のように考えて、死にきれないということに理不尽さを感じながら、ひょっとしたら、生き残ったことにホッとしているかも知れないという発想ですね。だから死ぬにはそれなりの覚悟が必要だと思うんです。それなのに、今回彼女は遺書というものを残していない。もし死にきれなかったとすれば、その遺書はその時点で処分すればいいだけで、書いたからと言って、損をするわけではない。そう思えば自殺常習者の彼女が自殺を遂げたのだとすれば、そこに遺書の存在がないことに違和感と矛盾を感じたのです」
 と、門倉刑事が自論を言った。
 それを聞いていて、隣の清水刑事もしきりに頷いている。この二人の意見はここまでは完全に一致していることに間違いはない。
 ここまで話したうえで、門倉刑事は深沢に訊いた。
「深沢さんは、水島さんが何度も自殺を繰り返していたということをご存じでしたか?」
 と訊かれて、深沢は、
「ええ、全部が全部知っているわけではないかも知れませんが、数回自殺未遂を行ったという話を聞いたことがあります。一度自殺を試みた人は、その後も自殺を試みることがあるという話を聞いたことがあったので、私なりに気を付けていたというのも事実になります、だから、知らなかったということはありません。そういう意味では確かに彼女が自殺をしたということを信じられないともいえると、私も思ってはいました」
 と、答えた。
「ちなみに、先ほどあなたは彼女が自殺ではないという根拠をお話くださいましたが、あなたが彼女の自殺に完全な疑念を抱いたのは、彼女が精神的に、つまり今私が言った、自殺常習者の感覚と、実際にあなたが持っておられる、死体が他から運び込まれたという考えとどちらが、最初に彼女を自殺ではないと考えられたのでしょうか?」
 と門倉刑事が訊ねると、
「最初に気付いたという意味では、自殺常習者としての精神的な矛盾ですね。そしてその思いがあったからこそ、死体が他から運ばれたのではないかと思ったんです。もし他に犯人がいるとすれば、犯人にとってそれが都合がいいのではないかと感じたからですね」
 と深沢が言った。
「でもですよ、死体を移動させるということはそれなりのリスクがあります。移動させるには何かの根拠がないと成り立たないと思うのです。例えば犯人にとってのアリバイ工作のためだったり、本当の犯行現場を知られては困る、つまり犯人を特定できる場所であったりすれば、計画が水の泡ですからね。そういう意味では、それなりの根拠がなければ、今の深沢さんの話を鵜呑みにはできないということですよ」
 と門倉刑事が言った。
「そうだとすれば、今門倉さんがおっしゃられたような理由が犯人にはあったのかも知れませんね。私が最初に死体を動かしたのではないかと考えたのは、まずは単純に、彼女が自殺ではないという疑念を抱いたことからです。もし彼女が自殺ではないのだとすれば、あの場所で自殺として簡単に処理されるだけの証拠しか出てこなければ、明らかにあの場所が犯行現場ではないと思ったからです。だって、少しでも争った跡があれば、警察は他殺を疑うでしょう? それを疑わなかったということは、被害者は何ら争った跡がない。普通に殺されたということになる」
 と深沢は言った。
「なるほど、あなたの理論は理路整然としていて、推理としては、完璧なように感じますね。実際に私も感嘆しました。でも、本当の根拠、いわゆる物証としてのものではないということが分かると、あなたのいうように、他から運び込まれたということを、これから操作で立証しなければいけません。あくまでも今のあなたの証言は、虚空の空論であり、根拠ではない。参考意見として伺っておくことにするとしか言いようがありません。ただ、今も言ったように、参考意見が出てきた以上、その裏付けは必ず取ります。そこはご安心いただきたい」
 と、門倉刑事は、警察側としての建前を言いながら、本音もしっかりと相手に伝えていた。
「よろしくお願いします。私としては、彼女が殺されたと思っていますので、門倉刑事さんと清水刑事さんを信じてお願いするしかありません。どうか、かおりの無念を晴らしてあげてください」
 と言って、深沢は深々と頭を下げた。
 二人の刑事も恐縮し、深沢に敬意を表するように頭を下げた。いろいろと意見を戦わせもしたが、相手は重要参考にであったり容疑者なのではない、善意の第三者として(この場合の深沢を第三者と言えるかどうか分からないが、この時点では第三者だったと言えるだろう)扱わなければならないが、少し余計なことを言ってしまったのではないかと門倉刑事は少し考えていた。
 この後、深沢は帰る前に、もう一つ衝撃的な内容の話をしたのだが、それは後述に回すことにしよう。
 捜査自体はほとんど進んでいなかったので、相手に話したことはほぼ、門倉刑事の頭の中にある推理であったり、下手をすれば空想のようなものだった。深沢が帰った後で、清水刑事との話の中で、
「門倉刑事、彼にあれだけの話をしてしまってよかったのでしょうか?」
 と言われたが、正直そう言われて初めて、
――言い過ぎたかも知れない――
 と感じた。
「あくまでも、まだ立証されたことというのは、自殺の裏付けばかりで、自殺を全面的に信じるとすれば、少し矛盾がそこにはあるという程度のことなので、別に問題はないと思うのだが、清水刑事は、私が言いすぎたと思っているかね?」
 と聞くと、
「正直話をされている時は、ドキドキしました。彼に変な先入観を与えることを怖いと思いましたからね。でもそのうちにお互いに根拠のない話に辻褄を合わせているように思えたんですよ、だから、捜査の話を少しはしないと、門倉さん側に立って考えると、話が続かないように思えたんです」
 と、清水刑事は答えた。
「そうか、そのあたりは私も気を付けるようにしよう。ところで清水君は彼の話を聞いてどう感じた」
 と、本題に入った。
「そうですね。正直驚きました。まさか、死体を移動させたなどということはまったく発想もしていませんでした。ただ、これは他殺を意識に置いているというよりも、現状じさつの方が圧倒的に強いということを念頭に入れているから思いつかなかったのですが、彼のように、最初から他殺しか考えていないのであれば、思い浮かぶことだったのかも知れませんね。その根拠につぃいてはかなり薄いものでしたが、ちゃんとこちらの質問には答えていましたからね」
 と清水刑事がいうと、
「そうなんだ。こちらも他殺を疑ってみてはいるが、その根拠はかなり薄いもので、その薄いものの積み重ねが自殺を否定するだけの根拠を持っていない中で、やつの根拠は一つしかないが、その一つでも我々のいくつかの状況から判断した意見よりも信憑性がある。やはり水島かおりを以前からずっと知っているという強みが我々よりもあるという証拠なんだろうね」
 と、門倉刑事は言った。