予知夢の正体
「なるほど、そう来るよね。でも、それって犯罪という言葉を一括りにして、全体から見て、殺人未遂以下を考えた時、何を除外するかということを先に考えた結論だよね。それはきっとアカリが減算法というか、消去法で物事を考える性格だから、そう思ったのかも知れないけど、実際には加算法で考える人が多いんじゃないだろうか? そういう人間であれば、今回のような『殺人未遂まで』という書き方を見ると、自分でそれをどう解釈していいか分からないんだよね。そうなると果たして犯罪に大小であったり、甲乙などをつけられるかという問題になってくる。確かに刑法上の罪状と刑罰の関係からいけば、重い罪軽い罪というのはあるのだろうけど、それはあくまでも一部の人間が決めた法律というものだよね。しかも、それは一般市民にはあまり詳しくは馴染みのないもので、法曹関係者でもない限り、詳しい犯罪についての刑罰など、ほとんど知らないよね? それなのに、殺人未遂までって言われて、どう考えればいいのか、文字通り受け止めれば、殺人未遂も含むわけなので、今アカリが言ったように、殺人以外ということになるんだろう。でもね、罪状という意味でいえば、殺人よりも放火の方が罪が深かったりするんだ。それともう一つ、この中で罪状を考えた場合、犯罪を犯す人間の立場や、被害者がどのような立場の人間かが判明していないので、罪状も何もないんだよね。そう考えると、この『殺人未遂まで』という言葉は、大いなる矛盾を孕んでいると言っても過言ではないんじゃないかな?」
と、コウイチは自論と言ってのけていた。
「でも、コウイチ君がそのサイトを気にしたということは、何か犯罪を依頼したいことでもあるということになるのかしら? そもそも、普通の人は気持ち悪くてそんなサイトを見たりはしないわ」
とアカリが言った。
「そうよね、ひょっとしたら、ウイルスサイトかも知れないし、私だったら怖くてそんなサイト見に行けないわ」
とミズキがいうと、
「大丈夫だよ、最強のウイルス対策ソフトを入れているから、そんなウイルスに引っかかることはない」
というコウイチに対し、
「そんなことを言ってるんじゃないの。こういうサイトに目が行くというのは、そのつもりがあって検索しないと、出てこないでしょう? って話なの」
とアカリが少し苛立ったように言った。
どうやら、このコウイチという男、自論は立派なものを持っているようだが、人との話の中になると、どこかネジが一本足りないのか、急にトンチンカンな話をしているように見えてくる。そんなコウイチを見ていると、自分の知り合いにも似たような人がいることに気が付いた。
その人は玲子と幼馴染の女の子で、名前を三枝恵子という。
恵子は玲子のように大学には進まず、高校を卒業してから、市内のスーパーに就職した。今ではフロアマネージャーをしているということだが、それなりに忙しい毎日を過ごしていて、本人としては、
「忙しいけど、充実しているから、これでいいの」
と言っていた。
彼女とは、結構二人きりでよく話をしていたのだが、二人で話をする時は、玲子が何も言えなくなるほどまくし立てるように話すことがある。それは話題云々というよりも、彼女自身のテンションにあるようだ。言いたいことがある時はどんなに言いたくてもテンションがそこまでに達していなければ、口から出てこない。
かといって、それほど大した内奥でなくとも、テンションが高くなった時は。思ったことを言ってしまわなければ気が済まないという状態になるようだった。
要するに、恵子は躁鬱症と言ってもいいのだろう。
しかも、躁状態と鬱状態の周期が図ったように同じ時間で繰り返されているような気がする。もちろん、毎回同じ長さというわけではなく、躁状態とその後にやってくる鬱状態が同じ長さということだ。そういう意味で考えれば、彼女の場合、最初に躁鬱症に入った最初の状態は躁状態からだったのではないかと思えたのだ。
他の人も同じなのかどうかなど分からない。医学的、心理学的にどちらが先なのかということが実証されているのかどうかも分からない。分からないだけに、玲子は気になっていたのだ。
そんな恵子は、玲子と一緒にいる時、話を合わせるのが非常にうまく、それでいて、すかさず自分の考えていることを、さりげなく自論として言い切ることができるのだから、玲子が彼女のそんな性格を素晴らしいと思うのも無理のないことだった。
しかし、なぜかそんな恵子も、団体の中に入ってしまうと、まったくその能力が発揮できないどころか、実にトンチンカンな状態に陥ってしまう。
一人で先に進もうとするのをまわりも分かっているので、先にいく彼女に追いついていこうとは誰も考えないのだ。
「行きたければ、どうぞ」
と言わんばかりである。
目の前のコウイチと呼ばれた男を見ていると、恵子をどうしても思い出してしまうことで、コウイチの話に信憑性が感じられた。
玲子の中で、恵子という人物を無視できないほど素晴らしいと思うのは、彼女と二人で話をしていることの内容が、ほとんどと言っていいほどに信憑性があることだった。それは彼女が、怪しいと思うようなグレーな話を最初からしようとしないからなのか分からないが、少しでもフレーではないかと感じたことであっても、その信憑性は疑いようのないものだったりする。後になってそのことが証明されることがほとんどだったが。逆にそういう意味で、彼女が他人から受け入れられない立場にあるのかも知れない。玲子のようにいつも恵子のことを見ているわけではない人たちには、彼女の言っていることの信憑性の本質が分かるわけがないからである。
そういう意味で、自分だけが分かっている恵子という女の子の存在に、玲子は満足していた。友達としてというだけではない、何かがそこには潜んでいるのではないかと思うのだった。
「想像」と「創造」
その日の朝、目が覚めた時の玲子は普段と若干違っていた。
普段よりも身体がだるく、まるで熱でもあるかのような感じだった。その日は珍しく夢を見た。その夢が怖い夢であったので、その内容は断片的にであるが覚えている。
ただ、断片的にとはいえ、その記憶は結構しっかりとしたものであり、夢の中で感じたことはまるで夢ではなかったようなリアルさを感じさせるものだった、
ひょっとすると、その日の夢は、
「何度か目を覚ましたのではないか?」
と感じる夢で、なぜかというと、別々の夢が一つになったかのような気がしたからである。
それこそ、映画でいえば、短編集が重なったオムニバス形式とでもいうかのような夢であった。それでも一つの夢のような感じがするのは、シチュエーションの違いこそあれ、内容的には共通性のあるものに感じられたからだ、
最初に感じた夢であるが、夢の最初はどの夢も共通していて、まっくらな状態から始まる。まるで部隊の幕が上がり、そこにスポットライトが徐々に当たっていくように、まわりが分かってくるまでに少し時間が掛かるのだ、
最初の夢は分かっていると、感じたことは、
「自分が果てしなくたくさんいる」
というシチュエーションだった。