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予知夢の正体

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 大正時代には、モガ、モボと呼ばれていた人がいるという。いわゆる、
「モダンガール」、「モダンボーイ」
 の略であるが、玲子のイメージは、白目のスーツにステッキを持って、ハットをかぶった口髭を生やした紳士が店の客としている雰囲気と、給仕をしている女性は、今でいうメイド服を着ているか、羽織袴姿の和風の雰囲気かというイメージが強い。
 洋食を嗜み、ステーキやハンバーグなどがテーブルの上を賑わせているというイメージが元々あったのだが、ほとんど初めてと言ってもいい夕方に来ると、そのイメージがシンクロしてくるのを感じたのだ。
 店の中はほとんどお客さんはいなかった。
「いらっしゃい」
 とカウンターの中からマスターの声が聞こえた。
 普段他の客さんがいる時は、そんな声を掛けることはない。お冷を出した時に、
「いらっしゃいませ」
 と静かにいうだけだった。
 考えてみれば、このお店に客がいない時入ったことはなかった。朝であれば、どんなに少なくとも常連と思しき客が数人はいたからである。
 大学生もこの時間はすでに講義もほとんどなく、皆帰宅したか、街に遊びに行っていることだろう。わざわざ大学の近くで夕飯を食べようと思ったとして、喫茶店に入ることはない。近くには中華料理の店やファミレスもあり、わざわざ喫茶店で食事を摂ろうという人もいないのだろう。
「夕方というのは、こんなものなんですか?」
 と玲子が聞くと、
「ええ、そうですね。日が暮れてから数人の常連さんが来ることはありますが、それもサラリーマンの人ですね。大学生の人が来ることは、ほとんどないですね」
 と言った。
 玲子は先ほどせっかく大正ロマンの洋食屋を思い浮かべたのだから、イメージしたものにしようと思い、ハンバーグセットを注文したが、友達も同じものを注文した。
 客がいないので、マスターが奥に入り、手際よく料理を作っているようで、すぐに注文した料理が出来上がってきた。
「これはおいしい」
 とお世辞抜き緒おいしさに舌鼓を打っていたが、満足したマスターはニコニコしていたが、さっそく本題に触れてきた。
「教授の方はどうでした? お二人が家に帰らずわざわざ寄ってくれたということは、私に報告してくれようという思いがあったからなんでしょうね」
 と察しのいいマスターには分かっているようだった。
「ええ、昨日のお話があったものだから、マスタにはちゃんと報告しないといけないと思いましてね」
 と友達が言った。
「それはあわざわざありがとう。僕も気になっていてね。何しろ殺人未遂までだって話だったからね。もっとも、本当に彼らの犯罪だとすればの話なんだけど」
 とマスタは言った。
 ここで玲子は違和感を覚えた。
「教授はそんなにあの時の話と、教授の今回の事故を結び付けたいようですね」
 と思い切っていってみた。
「だって、あんな話を聞いたあとだからね、もし教授が助かったのであれば、その連中が何らかの関与をしたと考えてもいいのかなって思ったんだ」
 とマスターは言った。
「マスターの気持ちも分かるけど、でもあの時の話を聞いて、私はそんなに怪しい人たちではなかったような気がするんですよ」
 と玲子がいうと、
「確かにそうかも知れないね、私の思い過ごしであるなら、それはそれでもいいんだ。じゃあ、教授は誰かが殺そうとして突き飛ばしたということになるんだろうね」
「そうなのかも知れないし、そうじゃないかも知れない。教授は自分が突き飛ばされたと言っているようだけど、それも怪しいしね」
 と、今度は友達が言った。
「どういうことなんだい?」
 とマスターが聞き返す。
「教授は記憶がかなり欠落しているらしいの、すべてを忘れているわけではないらしいんだけど、相当過去のことが曖昧なんだって」
 と友達が言うと、その時マスターは何とも言えない不思議な表情をした。
 まっすぐに前を直視し、その先は虚空であることを確認しての直視に感じた。その表情には険しさがあり、次第に目が泳いでいるように思えた。明らかに何かに動揺しているかのようだった。
 玲子も友達も、マスターに話しかけることはできなかった。マスターが正気に戻るのを待つしかなかったが、いつ果てるとも知らぬマスターのこの表情は、いきなり元に戻ってきた。
 その間、数十秒くらいのものだったはずだが、玲子には十分近くに感じられた。それだけこの空間だけ違う空気が流れていたのではないだろうか。
「どうしたのマスター?」
 と、顔色が真っ青、いや、真っ白にすら感じられるマスターの顔を見るとまるで、
「心ここにあらず」
 と言ったイメージだった。
 実際に、見つめていた虚空の先に、誰かをイメージしていたように感じたのは、玲子だけだっただろうか。友達も同じことを考えていたとしたら、そこにいるのは一体誰だったのだろう。
 マスターは、だいぶ白くなりかかった髪の毛はさらに真っ白になったかのように見えて、昔、映画で見た狂気の博士の形相を思い出していた。
 映画の中の博士は、自分を失脚させた世間や学会連中への復讐のために、鬼となり、復讐兵器を製作するという映画であったが、博士の開発シーンが生々しく描かれているシーンでは、白衣を着た博士が、研究室で科学実験を行っていたが、その白髪はすべての毛は逆立っていて、顔はまるで能面の鬼のような形相であった。
 映画の演出で、薄暗い中、下から当てているライトに照らし出され、見るにも無残な思いを感じさせる形相は、見るに耐えられるものではなかった。
 さすがにそこまでひどい形相をしているわけではないマスターだったが、その表情の先に見えるものが何なのかを想像しないわけにはいかないと思わせるほどのものであった。
 そういえば、マスターの年齢はいくつくらいなんだろう? いつも無意識に考えていたのだが、聞いてみたことはなかった。ずっと、
「三十代後半くらいじゃないか?」
 と思っていたが、これだけ白髪が目立ってくると、ひょっとすると、もう五十歳近かったりするのではないかとも思えていた。
 考えてみれば、玲子の父親もまだ四十歳代だ。まだ前半だったかも知れない。そう思ってマスターを見ると、同年代くらいにも見えてきた。喫茶店のマスターというイメージで見ていたからか、父親ほどの年だと感じたくないという意識があるのか、どうしてもひいき目に見て、まだ三十代だなどという思いに駆られていたのかも知れない。
 マスターが、時々、大学生の女の子を見る目が遠い目であるのを感じたことがあった。厭らしいという目ではなかったが、まるで父親が子供を見るようなそんな目だった。
 大学の近くで喫茶店を経営し、ずっと女子大生を見てきたことで、まるで親になったような気持ちになるという感情移入があったとしても、それは無理もないことだったのではないだろうか。
「ああ、ごめんごめん。記憶を失っているという話を聞いたことで、ちょっと考えることがあってね」
 とマスターが言い出した。
「どういうことなの?」
 と友達が言うと、
作品名:予知夢の正体 作家名:森本晃次