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予知夢の正体

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 それは、過去のことを想像するのも同じことで、想像は結果、記憶の呼び起こしと同じことになると考えたからだ。
「ちなみに、教授は誰かに突き飛ばされたとして、その心当たりはあるんですか?」
 と、友達がまたしても、核心を突いた聞き方をした。
 その都度、ドキッとしてしまい、胸の鼓動がハンパでなくなる玲子だったが、教授はそのことに怒りを示すこともなく、
「それがまったくないんだ」
 と答えるだけだった。
――本当にこの人は、運がいいというべきなのか、今まで誰かに怒られたことなんか、なかったんじゃないか?
 と感じるほどだった。
「でも、誰かに呼び出されたと考えるということは、何かそういう意識がないと出てこないですよね。煙のないところに火は起きませんからね」
 とまたしてもズケズケという。
「呼び出されたというのは確かに君のいうとおり、普通なら感じないことなんだろうけど、今は記憶の方が曖昧な状態ではあるんだけど、不思議と意識はしっかりしているんだ。そのせいもあってか、冴えているというか、頭が回転してくれるようなんだ。だからきっと、誰かに呼び出されたのではないかと思い、その意識を頭の中で再現できるような気がしたんだね。そして、その意識に矛盾がなかったことから、呼び出されたというのも、かなり信憑性の高い発想ではないかと思ったんだ。そうじゃないと、私は確信に近いことでないと、そう簡単に口にはしない性格だったと思うので、自分の中にしまい込んでしまうのではないかと思うんだ」
 と教授は言った。
 確かに教授は、講義の最中でも、今のような話をよくしていた。
「私は、自分で確証を得たことでなければ、口にすることはないんだ。それが大学教授の性のようなものじゃないかと思っているんだけどね」
 と言っていたものだ。
 玲子が、佐藤教授の単位を貰えるか貰えないかの瀬戸際の時、できる限り講義には出ていたので、そのあたりのことは分かっているつもりでいた。
 友達は教授の話を聞いて、どう思ったのだろう?
 玲子の方では、これ以上教授からは新しい情報を得ることはできないと思っている。まさかいくらズケズケと質問する友達でも、マスターが聴いたというそんな怪しい話をいきなり病人にぶつけるようなことはしないだろう。
 ただ、教授の記憶が欠落しているというのは、少し痛かった。だが、玲子もそのあたりに一抹の不信感は抱いていた。
――何かの理由があって、突き飛ばされたことには間違いないのだろうが、教授はその犯人を知っていて、庇っているという考えも成り立つ。そのために、記憶が曖昧なふりをしているとも考えられなくもないだろう――
 と考えたのだ。
 玲子と友達は、そこで目を合わせて、お互いにもう何も聞くことはないということを感じると、
「じゃあ、お大事になさってくださいね」
 と言って、席を立ち、二人は病室を出て行った。
 一人になった教授はまた表を見ているようだ。やはり記憶を失っているというのは、虚偽ではないのだろう。
 ちょっと、医者に聴いていようか?
 と言って、友達が医局に行って、主治医の先生に話を聞いてみることにした。
 先生はちょうど患者を見まわった後だったらしく、面談を申し込むと、すぐに案内してもらえた。
「私たち、大学で教授のゼミで一緒に研究をさせていただいている学生なんですが、教授がけがをされたということでお見舞いに来たんです。先ほど、お見舞いを済ませたんですが、どうもいつもの教授とは雰囲気が違っているし、話をしていても、要領を得ないところが多いんです。この後、教授とどう接していいのかというのも含めて、教授が今どんな状態なのかというのを、お教えいただけませんか?」
 と友達は言った。
 こういう時の友達は実に頼もしい、このような理由であれば、教授の方も少しでも話しやすくなると思ったのだろう。
――彼女は人に気を遣っていないように見えて、ちゃんと捉えるところは捉えているんだな――
 と思わせる瞬間だった。
「教授の怪我の方は、全治一か月くらいなんじゃないかと思います。最初はもう少し早いかと思ったんですが、頭の打ちどころが微妙だったので、大事を取って、二週間は入院が必要だと思います。ただ、その頭の打ちどころのせいなのかも知れませんが、記憶が欠落している部分があるようです。その欠落は繋がった部分の欠落ではなく、ところどころに穴が開いたような欠落の仕方なんですね。そういう意味では、重症ということではないと思います。記憶はいずれ戻ってくるものだと思いますし、そこまでは心配していませんが、警察の方は困っているようでした。肝心に被害者の記憶が曖昧だということは、そういうことなんでしょうね」
 と言っていた。
「ところどころの記憶が曖昧だというのは、昨日のことだけではなく、その前の記憶からということでしょうか?」
「ええ、そうだと思います。ただ、昨日起こった事故が原因で記憶を失ったわけですから、昨日のことはトラウマになっていることは間違いないと思います。だから、あまりまわりの人もそのことで教授を責めたりはしないでいただきたい。もし記憶が自然と戻ってきているとしても、変な刺激を与えると、せっかく戻ってきた記憶が元に戻るかも知れないからですね。そしてもっと危惧するのは、元に戻るだけではなく、もう二度と思い出せないような結界を作ってしまわないかという懸念です。まるで病原菌に一度侵されると、次からは侵入されないように、身体の中に抗体を作っているというあんな感じでですね」
 と医者は言った。
「なるほど、その可能性があるわけですね。私もそんな気がしていたので、そのあたりを先生にお聞きしたかったんです。先ほどは教授もよく分かっていなかったようなので、責められているという意識がなかったんでしょうね。私も気を付けるようにします。でも、警察の方はどうなんでしょうか? また事情聴取に来られるのでは?」
 と友達が聞くと、
「それはちゃんと警察の人にも説明をしています。私は主治医として、事情聴取の許可も内容の検閲も前もってしていたつもりですからね」
 と、先生は自分の立場を強調した。
「よく分かりました。私たちも気を付けるようにいたします。他に教授について何かありますか?」
 と聞くと、
「患者さんの家族が誰も来ないんですが、あの患者さんはおひとりなんですかね?」
 と聞かれて、
「ええ、確か独身で一人暮らしだと思いますけど」
 というと、先生は少し怪訝な表情をした。
「どうしたんですか?」
 と聞くと、
「いえね。時々ですね、急に寂しそうな表情になるんですよ。しかも唐突に、誰かを思い出しているんじゃないかと思ったんですが、家族ではないということですね?」
「ええ、そうだと思います」
作品名:予知夢の正体 作家名:森本晃次