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予知夢の正体

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 玲子も聴きたかったが、自分から聴くのが怖かったと言ってもいい。なぜなら、何となくその答えが分かったような気がしたからだった。果たしてマスターの口から出てきた話は、まさしく玲子が思っていた通りの話であり、初めて聞いた話ではないということを友達には悟られないようにしないといけないと思うのだった。
「内容としては、何とも雲を掴むような変な話だったんです。話のすべてが聞こえたわけでもなかったからですね。でも、ハッキリと聞こえたのは『殺人未遂までなら』という言葉だったのは確かですね」
 というではないか。
「殺人未遂までって、それってどういうこと? まるで殺人未遂未満の犯罪を引き受けるとでも言いたいのかしら?」
 と言った友達を、玲子はビックリして見つめた。
 玲子の考えとしては、
「殺人未遂まで」
 という言葉だけで、犯罪請負を連想するというのは、よほど礼装能力が強いか、自分もかつて似たような経験をしたことで、無意識に連想したことでもない限り、浮かんでくる発想ではないような気がした。
「そういうことなんじゃないですかね? ただ、どうして教授ともあろう人がそんな言葉を気にしていたのかがよく分からないんですが、何かピンとくるものがあったんですかね?」
 とマスターがいった。
「ということは、教授は自分が彼らに何か殺人未遂未満のことを依頼したいという思いでもあったということなのかしら?」
 と友達がいうと、
「そうだったのかも知れないよ。人というのは、何を考えているか分からない時があるからね。特に佐藤教授は、よくここに一人で来て、本を読むでもなし、新聞を読むでもなし、ただボーっとしていることが結構あるからね。そんな時は一体何を考えているのか、私には分かりかねますね。やっぱり大学のお偉い先生なんだって思ってしまう」
 今まで大学生や教授連中を相手にずっと商売してきたくせに、どうもこのマスターは、大学生や教授たちを見ていて、羨ましく感じているようだ。
――大学進学もできずに、高卒でどこかに就職して、そして脱サラしたのかな?
 と思った。
 そして、大学に行けなかった思いを、ささやかに大学の近くで店を開くことで叶えようという考えだったのかも知れない。
 最初はそれでもよかったのだが、そのうちに気が付けば、学生たちに嫉妬してしまっている自分がいたというのが、現状なのかも知れない。
 なるほど、こうやって毎日のように学生を見ていれば。自分の過去と照らし合わせて、まったく違う人生であることから、恨めしい気持ちが出てきたとしても無理もないだろう。出してはいけないという気持ちと、ストレスを抱えたくないという矛盾した気持ちをいかに発散させられるかが、マスターの悩みなのではないだろうか。
 そういう意味で、玲子などのように一人で来る学生に話しかけたりするのも一つなのかも知れない。そんな時マスターは、自分が学生にでもなったような気分になるのだろうか?
 ただ、マスターの前職について一度聞いてみたことがあった。
「マスターは前どこで働いていたんですか?」
 と聞くと、
「ああ、地方銀行だったんだけどね。途中で脱サラして喫茶店経営を始めたのさ。でもね、最初から喫茶店をしようという思いがあったわけではないんだ。ずっと銀行員で終わるつもりもなかったんだけど、仕事をしていると、急に虚しきなってきてね。自分がいくら頑張っても出世は頭打ちだし、給料も仕事に見合うだけのものはない。しかも取引先や上司からはいろいろ言われて、その板挟みには、いい加減息苦しさで窒息しそうな気分になったものだったよ。だからと言って、喫茶店を初めてから順風満帆だったというわけでもない。何しろサラリーマンのように、毎月決まった月給が貰えるわけではないからね。冊皿して一番の不安は、その不安定さだったんだ。目に見えない不安ほど怖いものはないからね。でも、実際にやってみると、やりがいはあった。会社のように、成果を上げても、結局は会社の利益が出るだけで、こっちにはほとんど何もないからね。やる気はなくなるというものだよ」
 と言っていた。
 結構、生々しい話だったことで、ほぼその話にウソはないだろう。少しは盛った部分はあるかも知れないが、必要以上なものではない。そう思うと、マスターの気持ちが分からなくもないということと、これから迎える就職活動に、今までになかったリアルな不安感が押し寄せてくるような気がして、
――聞かなきゃよかった――
 と感じたのも事実である。
 他の学生たちに対してはどうか分からないが、玲子に対しては、最近かなり打ち解けているように思えた。玲子の方からも結構話しかけることもあるし、この店に通うのは、マスターと話したいからだと感じているのも事実だった。
「でも、殺人未遂までということは、絶対に殺したりはしないということよね? でも、謝って殺してしまうということもないわけじゃない、その場合どうなるのかしら?」
 と友達が言った、
「そうよね、そうなると殺人罪になるわけだけど、報酬どころの問題じゃないわよね、前もってそういう話は依頼主と引き受ける方とでなされているのかしら?」
 と玲子がいうと、
「いや、それよりも、最初からそれなりに何か規則のようなものが決まっていて、その規則を依頼主に提示したうえで、それでも依頼するかどうかを、再度聞くんじゃないのかな?」
 とマスターはそう言った。
「そうね。それが一般的かも知れないわね。いえ、そうじゃないと、こんなバカげた死具とは成立しないわよ。要するに寸止めがどの時点まで通用するかというゲームをやっているようなものですものね」
 と友達がいうと、
「それって、いわゆるチキンレースのようなものなんだろうね。アメリカの若者などは、よく度胸試しにやったと聞くよ。日本でも映画やドラマでたまに昔の番組をやっていたりするけど、港から、海に向かって車を競争させて、どっちが海に落ちるギリギリまでブレーキを踏まないかというレースよね。もちろん、海に落ちればそれは負けになるんだけど、実際に始めると、勝ち負けよりも恐ろしさの方が先に立って、怖くてブレーキを踏んでしまう者でしょうからね」
 とマスターが詳しく補足した。
 玲子も、チキンレースという言葉は聞いたことがある。
 ここでいうチキンというのは、
「臆病者」
 という意味で、
「どちらが臆病なのかを競う競技であり、決して度胸のあるのがどちらなのかという競技ではないことは、チキンという名前が示しているんでしょうね」
 と、玲子は言った。
「でも、やっている本人たちは、飼った方に対して度胸があるという称号を与えることでしょうね。もっとも、そんな称号を貰ったとしても、もう二度とやりたくはないと思うんでしょうけど」
 と友達がいうと、
「そういう意味では、彼らの言っていた殺人未遂まで引き受けるというのは、もう遊びやゲームの世界ではないよ。犯罪が絡んできているのだから。もっとも犯罪をゲーム感覚でする人たちもいるから、そういう類のグループなのかも知れない」
 というマスターに対し、
作品名:予知夢の正体 作家名:森本晃次