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予知夢の正体

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「私、教授の狭義を選択しているんですが、卒業には、教授の単位が必要なんです。でも、お店のお仕事があるので、教授の単位取得が難しくなっているんです」
 と言った。
「何が言いたいのかな?」
 教授も分かっていて聞いた。
「私に単位の取得を約束してほしいんです」
「そんな確約はできないが」
 というと、
「そうですか。教授はそれでいいんですね?」
「私を脅迫するつもりかね?」
 と言いながら完全に教授の目は泳いでいた。
 こういう駆け引きに関しては、若くても彼女の方が何枚も上手であった。ここまでくればあとはズルズル、敢えてここでいちいち説明することもあるまい。
 だが、彼女の目的は本当は他にあった。この教授の性格を把握させることで、いくらでも絞り取れるというのが、彼女の裏にいる連中の腹積もりだった。
 実際に、後ろにいるのは暴力団でも何でもない学生グループだったのだが、彼らのやり口は、大学教授への狙い撃ちだった。佐藤教授だけが狙われているわけではなく、誰もがターゲットにされているのは自分だけだと思い込まされたところが彼らのやり口だった。しょせん大学生の考えること、お金が絡むとはいえ、そう大したものではない。
 そんな中に、法律の穴を抜けるために利用する権利の売買などがあった。車庫証明を貰うための駐車場の場所としての権利を売買するのはまだかわいい方で、今回のように、外人の不法就労のための切れたビザを何とかするための偽装結婚などは、結構扱っていた。
 よくこんなことをして、その筋の人たちからクレームがこないのか不思議であったが、教授はそんな学生連中に引っかかったようだ。
 元々は教授がネットに書かれている記事を軽い気持ちで見たことが原因だったのだが、そのために教授は結婚を迫られているのだった。
 もちろん、そんなことが簡単に通るはずもない。この女がいくら教授を脅迫したとしても、自分の立場が悪くなるだけだ。
 実際に、教授はこの女が自分から出てきたことで、自分が安泰であることが分かったようだ。
――あの連中の結束なんて、しょせんこんなものなんだ――
 と思ったのだろう。
 女に対して毅然とした態度を取っていた。そして最後に、
「お前たちのバックにいる連中がこのことを知ったらどうなるんだろうな。お前だって、自分から表に出るなと言われているんじゃないか?」
 というと、相手の女はぐうの音も出ないという感じで、言い返すことができなくなった。
 完全に形勢逆転だった。
 女は教授室から逃げるように出ていくのを、
「じゃあ、これは破棄させてもらう」
 と言って、教授はオンナの目の前に婚姻届けを翳し、ライターを取り出すと、火をつけた。
 テーブルの上にある灰皿に婚姻届けが焼却されていく。それを見ながら女は恨めしそうに教授の顔を睨むと、教授の方もしてやったりとばかりに女を睨み返すと、踵を返して逃げていく女に対して、胸を張り、いかにも、
「勝者の凱歌」
 でも、歌い始めそうな感じであった。
 玲子はそんな状況を見て、自分のSん強がどんどん変わってくるのを感じた。
 最初は、
「大事にならなくてよかった」
 と思った。
 そして次には、
「こんな教授の顔を見たくはなかった」
 と感じた。
 その次に感じたのは、一種の矛盾だった。
「何かがおかしい」
 と感じたのだ。
 何がおかしいのかと思った時、自分がタバコを吸わないのですぐにピンとこなかっただけだが、もしタバコを吸う人であればすぐにピンと来たのかも知れない。それは、
「テーブルの上に灰皿が置いてあった」
 ということである。
 今では、室内での喫煙は原則禁止になっている。したがって、研究室の応接室の机の上に、灰皿が置いてあるというのは、普通であればありえないことであった。それを思った時、
「これは夢なんじゃないか?」
 と感じたのだ。
 そう思うと、実際に夢であったということが一気に露呈するかのように、自分の部屋で普通に目を覚ました玲子がいたのだ。
「どこからが夢だったのかしら?」
 と思ったが、夢のすべてがまったくのウソだったような気はしない。
 外人の怪しい女の出現は夢だったのだろうと思ってはいるが、すべてがウソではなかったという理屈の根拠は、玲子の中にある、教授への怒りが原因だった。
 とにかく怪しい女だった。最初は気付かなかったが、ケバイ化粧に騙されそうになったが、外人の女というだけで、十分に怪しいではないか。特に、外人を毛嫌いしている玲子にとって、どうしてよりよって、外人の怪しい女の夢を見なければいけなかったのか。そして教授の態度が、最初はそんな女にヘコヘコしているように見えたのが、玲子には許せない理由だった。
 夢から目を覚ました玲子は、外人というものを改めて毛嫌いすることをいまさらながらに感じさせられたことと、そんな外人を相手にへりくだった様子の教授を見てしまったことが玲子にそれまでの教授に対しての意識を変えざる負えない感覚に襲われてしまっていたのだ。
 布団の中で目を覚ました時、真っ暗だったことで、それが夢だったとすぐに感じたのだが、その感覚が夢の中で味わったことであることに、少ししてから気が付いた。
 どうして気付いたのかというと、自分の部屋の空気がいつもに比べて生暖かく、湿気を帯びていたからだ。湿気の中で額から汗が滲み出てくるのを感じると、
「そうだ、あの時、教授の部屋で教授と怪しい女が入ってくるのを息をひそめて待っているあの時の官学ではなかったか」
 と思った。
 そう思って、女の顔を思い出そうとするが、その顔を思い出すことができなかった。なぜ思い出すことができなかったのかと考えた時、すぐに浮かんできた思いは、自分でも認めたくないものだった。それは、夢の中に出ていた女の顔が、自分だったというオチになったからだ。
 これだけは許せなかった。
 夢を見て、その夢の中に自分が出てくるというシチュエーションは今までにも何度となくあった。むしろそれが普通だと思えるほどだったのに、今回のこの情景は、明らかにそうではなかったということが言えるのだ。
「なんで、毛嫌いしている外人の女の顔が自分とダブらなければいけないのか?」
 それが自分で自分を許せない理由であり、これ以上でもこれ以下でもなかった。
 教授を許せないのも、そこにあった。
 いくら夢とはいえ、教授は自分をその腕に抱きながら、外人女とそれを取り巻く学生ごとき団体にまんまと嵌められて、もう少しで結婚させられるところまで行っていたではないか。
 しょせん、相手の女が外人だったことで、意志の疎通がうまく行っていないことで事なきを得た教授だったが、
「しょせん、教授も同じ穴のムジナ」
 と考えたところが玲子の怒りに繋がった。
 だからと言って、自分が裏サイトを見て、教授に制裁を咥えようなどという考えは、本末転倒に思える。
 元々は教授が裏サイトを見たことから始まったはずだったのに、自分もそこに嵌ってしまうというのは愚の骨頂ではないか。
 しかし、これによがしに、いくら偶然とはいえ、喫茶店で裏サイトの話をしている連中に出くわすというのは、いかがなものか。
作品名:予知夢の正体 作家名:森本晃次