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心理の共鳴

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 この男の攻撃的な感覚は、表に自分の気持ちを発信させる時であり、保身で身構えている時ではない。しかし、実際に見えてくるのは、保身の時の攻撃的な態度で、犬同士が威嚇しあうかのようであり、本当は攻撃する気などまったくなかったのだ。
 そのことを看破した門倉刑事は、
――とにかくこの男は自分から何かを言いたいと思わせなければダメなんだろうな――
 ということで、彼が饒舌になる話題を探したところで、まずはラジオ放送について聞いてみようと思ったところでうまくヒットし、
「ビンゴ!」
 と、思わず叫びたかったくらいかも知れない。
「歴史というと、最近ではレキジョなどという言葉もあるらしく、テレビ番組などでも結構特集していることが多いですよね」
「そうですね。歴史というのは、ある意味ミステリーですからね。しかも犯人がいない、そして答えのないミステリーです。よくドラマや映画などを見ていて、クーデターに失敗した人たちが無念な気持ちの中で、『今は我々の負けだが、きっと歴史が答えを出してくれる』というシーンがあって、感動したのを覚えています」
「ええ、その言葉は感動を呼ぶ言葉の一つですよね。でもですね。歴史に答えなんかないんですよ。もし、今の時代のことが五十年後には否定されるような世の中が来て、その時に、これが歴史の答えだったのかと思った人がいたとしても、さらに歴史が進んで、またその時代が否定されると、否定した人は、同じことを思う。しかし、もっと面白いのは、五十年経ってまったく違う世の中になり、そしてさらに時代が進んで五十年経てばまたまったく違う世界が広がったとしても、百年前と同じだとは限らないんですよ。もっと捻くれた世界なのかも知れない。もっというと、百年前にはそんな時代なんて誰もが想像もしなかった時代かも知れない。未来のことは一秒後であっても、百年先のことであっても、予想することができたとしても分かる人なんかいないんですよね」
「私もそう思います。一秒後であればすぐに答えが分かるというだけで、一秒前に分かることはないんです。世の中は無数の可能性によって成り立っています。一瞬ごとにネズミ算式に増えていく。だから、一つ一つを予想するなんてできないんです。でも、なぜか人間は無意識にそれができている。本当に不思議ですよね」
 と、門倉刑事がいうと、福間恵三も調子に乗って、
「それはロボット工学で研究されていることですね。私は歴史の研究もしていますが。実はロボットという発想にも結構うるさいんですよ。アニメの世界のロボットというのは、元はそういう発想から出てきていますからね。いわゆる『ロボット工学三原則』というものに対する考え方ですよ」
「それはどういうものなんですか?」
「元々はロボットというものを人間が作り出した時、ロボットがおかしな行動に走ってしまい、人間を滅ぼすかも知れないという発想から来ています。いわゆる『フランケンシュタイン症候群』と呼ばれるものですね。だから人間がロボットが暴走しないように、最初から人間に都合のいい回路を組み込むというところから出た発想です。でも、これは実際にロボット工学の博士や研究者が提唱したものではないんですお。いわゆるSF作家と呼ばれる人が、今から六十年くらい前に提唱しているんですよね」
 と福間がいうと、
「それはすごいですね。でも、それとさっきの話とどう繋がるんですか?」
「さっき言ったように、一寸先は無限の可能性が広がっていますよね? 例えばロボットに、目の前にある箱の中に、ロボットを動かす燃料、つまり人間でいうと食料が入っている。その箱を取ってきて、燃料を補給しなさいと命令したとしますよね。ロボットはその命令にしたがって、箱を取ってこようとします。しかし、実際にはその下に爆弾が仕掛けてあって、箱を動かすと爆発するようになっています。あなたならどうしますか?」
 と聞かれて、
「普通に考えれば、爆弾の起爆を外してから、上の箱を動かします」
 というので、
「そうですよね? それをロボットにいいます。するとロボットは、迷ってしまうんですよ。単純な命令だけならいいのですが、そこに条件が付いた。するとロボットは考えるんですよ。いろいろなことをね。もし、起爆に失敗したらどうなるか? 起爆を恐れて、箱を持ってこずに、燃料は他から手に入れた方がいいのかな? とかですね。でも、そこまでは人間と同じなんですが、ロボットはまったく関係のないことも考え始めます。起爆を外そうとすると、壁が壊れてくるんじゃないかとか、起爆を外すと燃料が腐ってしまうんじゃないかとかですね。下手をすれば、壁の色が変わってしまうのではないかというまったく別のことも考え始めます。それは高性能なロボットほどそうなんだと思います。でも、ロボットが考えることは無理もないんです。人間であれば、この場合どこまで考えればいいかということは、ほぼ予想がつきますが、ロボットにはそれができません。したがって、ロボットは袋小路に入り込み、回路が堂々巡りを繰り返し、何もできないという状態に陥ります。ロボットによってはそのまま自爆してしまうものもいるかも知れませんね。一種のジレンマというやつです。でも、その問題を解決させる手段として、『フレーム』という考えがあります。つまり可能性を人間が考えているような枠に収めようという考えなのですが、その考えを進めていくと大きな壁にぶつかります。何が問題なのかと思うでしょう? それがさっき話したことなんです。無限の可能性の次にはまた無限の可能性が広がっている。したがって、可能性をフレームに押し込むこと自体がそもそも無理なことなんですよ。これがいわゆるロボット工学における『フレーム問題』と呼ばれるものになるんです」
 と、福間は熱弁をふるった。
「なるほど、よく分かりました。だから人間というのはすごい生き物なんでしょうね。そのフレーム問題をものともせず。しかも無意識に判断することができる。それこそ神秘なんでしょうね。神様が人間を作ることができたとしても、人間が人間を人工的に作るということはできないということなんでしょうね」
 と門倉刑事がいうと、
「それこそ宗教的な発想になり、我々歴史研究家の研究材料でもあるんですよね。そういう意味でいくと、一つの理論がたくさんの学問から成り立っているということも分かってきます。だから、学問って面白いものなんだと思います。ジャンル分けなんかする必要ないんじゃないかってほどですね」
 という福間の理論は理路整然としていた。
 さすがの門倉刑事も話についていくのがやっとであった。
「それにしても福間さんは、科学がお好きなんですね。歴史もお詳しいのに、すごいと思います。さすがにこれぞ大学生という気がしますね」
 と、門倉刑事はお世辞に見せかけた皮肉を言ったが、
「いやあ、それほどでもありませんよ。私は自分の興味のあることには結構勉強熱心な方ですが、興味のないことはこれでも結構まったくなんですよ。だから、高校までの頃の成績も興味のあることは満点に近かったのに、興味のなかったり嫌いな科目は赤点だったりしたものですよ」
 と答えた。
 門倉刑事は苦笑いをした。
作品名:心理の共鳴 作家名:森本晃次