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心理の共鳴

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「前にも見たことがあるような気がする」
 と感じたその夢。それはまさしく以前にも見た。
「自分で自分に話しかけようとして、相手がまったくこちらを意識していないという光景を見ているという夢」
 であった。
 考えてみれば、この夢は当たり前のことであった。
 自分が話しかけようとしている相手は、この世に存在しないはずのもう一人の自分。なぜそこにいるのかは分からないが、存在しないはずの人間に話しかけても何も返ってこないのは当たり前だ。
 その当たり前にことを今一度自分で納得するために、そんな夢を見たのではないかと思う。話しかけられた方も同じことで、存在しない相手が話しかけてくるはずもない。そう思っているから、返事をしないと思うと、そもそもどちらが本物でどちらが偽物なのかと考える。
 だが、どうしても結論を出すことができずにいると、
「両方とも本物ではないか」
 としか思えなくなる。
 そうなると自ずと見えてくる答えは、
「夢の中では別の時間なのか、別の次元なのか分からないが、本物の自分を二人、見ることができる世界なんだ」
 ということである。
 何人まで見ることができるのかなどという細かいことは分からないが、そういう理屈で考えると、現実世界では不可能なことも夢の世界では当たり前に起こると考えると、夢の世界への感覚がマヒしてくるのを感じるのだった。
 そんな福間が、自分を鬱病ではないかと感じたのは、
「閉所恐怖症ではないか」
 と感じた時だった。
 高所恐怖症は以前からかんじていたが、これは自分だけではなく、まわりの人にもたくさんいたので、それほど気にはならなかったが、閉所恐怖症だけは、意識してしまった。
 あれは、いつだったか、大学の授業が終わって、街に友達と出かけた時だった。夕方だったので、窓のブラインドを皆が下ろしていた。光が差し込む西側の扉は当然だったが、午前中に差し込んだ東側のブラインドもその時偶然すべてがしまっていて。奇しくも電車内のすべての窓のブラインドが下ろされたという結果になってしまった。
 それを意識してしまうと、急に息苦しくなった。意識したという感覚はあるのだが、意識したことで気分が悪くなったという意識はなかった。ただ、
「苦しい。息が苦しい」
 と言って、喉を掻くようにしていたようだ。
 その様子は、
「顔は真っ青だったけど、頬は真っ赤だったし、汗は額から水玉のように湧いて出てきているように見えて、普段とは様子が明らかに違っていたので、それだけでも気持ち悪かったよ」
 と言われた。
「そんなにひどかったのか」
 と思うと、その様子を想像することができた。
 まるで夢の中で、自分の夢を見ているかのような感覚だった。
「お前が閉所恐怖症だったとは思わなかったぞ」
 と友達に言われ。
「閉所恐怖症?」
 というと、友達は何をいまさらという顔で、
「それはそうだろう。ブラインドが全部降りた状態でお前はちょうど苦しみだしたんだからな。あれは併称恐怖症以外の何者でもない」
 と言われて、その時の心境を思い出していた。
「確かにそうだな。あの時、ブラインドが皆降りるのを見て、気持ち悪いと思ったんだった」
 というと、
「そんなにたくさんはいないかも知れないが、まわりが見えないことで急に自分の世界が狭まったように感じることで、それまで意識したことがなかった閉所恐怖症を感じることになるというんだ。でも、もうないだろうけどな」
 といわれた。
「どうしてなんだい?」
「だって、免疫ができただろう? そのための一回目に感じた時は、免疫を作るための反応だったからさ」
 と言われた。
「確かにそうかも知れないが、ただ、それを感じたことがないのは、それから同じシチュエーションがなかったからなんじゃないかって思うんだ。だから何とも言えないんだけどね」
 と福間は答えた。
「でもさ、免疫というのは確かにあるんだよ。人間には自己治癒の本能というのがあって、自分の病気を自分で治そうとしたり、一度なった病気にはならないようにしようという本能があるんだ。それを自己治癒能力というんだけど、それが免疫であり、身体の中にできる抗体でもあるんだ」
「抗体?」
「ああ、菌やウイルスから自分を守ろうとするために身体にできるものさ。だから、伝染病なんかでも、一度掛かると二度と掛からないというのがあるだろう? 幼児の頃によく書かるはしかや、お多福かぜなんかが、そうなんじゃないかな? もし抗体がなかったら、毎年のように罹っていたりして、病院はパニックになっているんじゃないか?」
「言われてみればそうだよな」
 と言うと、
「だから、お前だって恐怖症を少しでも緩和しようと無意識に身体が反応しているのさ。だから一度驚いたことは脳が覚えていて、もう一度同じ心境になったら。自分でそれが閉所恐怖症だって教えてくれるだけで、かなり恐怖が和らげられるんじゃないかな?」
 と話していた。
「なってみないと分からないけど、だんだんその気になってくるから不思議だよな」
 と言って、二人で笑ったものだった。
 そんな福間と、一緒に話をしていたサークルの仲間が、ある日、放送スタジオの中にいた時のことだった。
 スタジオは、メンバーで交替で毎日当番制を組み、掃除をしていた。スタジオの中でも、スタッフや機械のある部屋、そして放送ブース、さらに通路などを手分けして掃除をしていたのだ。
 その日はこの二人が放送ブースでの掃除を受け持っていたが、普段は結構話しながら、和気あいあいとした雰囲気なのだが、放送室関係の掃除の時は、二人に限らず皆が寡黙な状態で黙々と掃除をしている。
 最初に異変を感じたのは福間だった。
「何か気持ち悪いような気がするんだけど」
 と言って、少し息が絶え絶えになってきた。
 友達もいつもの彼を知っているので、閉所恐怖症の始まりかと思い、
「表の空気を吸ってくればいい」
 と言ってくれたので、福間が表に出ようとした時だった。
「うわっ」
 と言って、その横で友達が倒れかけた。
 まるで平衡感覚を失って、前を歩いているはずなのに、よろけながら歩いている夢遊病者のようだった。
「どうしたんだ?」
 と聞くと、
「何か、何か気持ち悪い」
 と言って、彼も息苦しそうだ。
 友達が息苦しそうにしているのを見ると、今度はさっきまで気持ち悪く感じていた自分の感覚がマヒしてしまったかのように、福間は自分がしゃっきりしてくるのを感じた。
「まず、表に出よう」
 と言って彼を抱えているところに、いきなりブースの扉が開いて、
「どうしたんだ?」
 と言って、スタッフルームにいた二人が飛び込んできた。
 ここで動いていなかったはずの空気が動き始めたので、少しは楽になるかと思いきや、逆に友達はきつそうだった。
 さらに、中に入ってきた二人まで、気持ち悪いようで、
「何だ、これ。気持ち悪い」
 と言って、まるで毒ガスでも漏れている場所に入ってしまったかのような錯覚に見舞われていた。
 もう一人もすでに床に倒れていて、耳を両手で塞ぐようにしていた。
「何か、音が聞こえる」
 と誰かが言った。
 するとそこに教授が入ってきて、
「どうしたんだ、皆?」
作品名:心理の共鳴 作家名:森本晃次