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心理の共鳴

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 出てきた自分が、誰かに話しかけているのだが、誰に話をしようとしているのか、よく分からなかった。
 その相手というのは、明らかにこちらを意識していない。見えていないのだ。
 そう思った時、ふとそれが夢だと感じた。
「そうか、これは夢なんだ」
 と思うと、先ほどまで自分が話しかけようとしている相手が誰だか分かった。
 それを見ると、福間は驚愕した。
「あれは自分ではないか。自分が自分に話しかけようとしている。しかも話しかけられた相手は、話しかけてくる自分の存在にすら気付いていない」
 それは当たり前のことであり、もう一人の自分の存在を信じろという方が無理であり、自分で自分に話しかけている方が、
「どうして疑問に感じないのか?」
 と思うほどである。
 夢の中というのは、そういう曖昧な世界であり、現実世界ではたくさんある縛りのない世界に思える。
 しかし常々福間は、
「夢というのは、潜在意識が見せるものなんだから、自分でできると思っていることがすべてであり、いくら夢の中とはいえ、できないと思っていることをすることは不可能なんだ」
 と言っていた。
 つまりは、
「いくら夢と言っても、現実世界が見る夢なんだから、限界があるのは当然というものではないだろうか」
 と思っていた。
 福間恵三は、大学時代を後悔していたわけではない、自分なりにしっかり勉強し、身に着けられるだけの知識も身に着けたと思っている。
 もちろん、上を望めばいくらでも上がいるのだろうが、そんなことに何の意味があるというのか、福間恵三も分かっている。
 大学時代に教授の背中ばかりを追いかけていたような気がした。好きになった女性もいなくはないが、付き合うということはなかった。しかし、細菌、梅崎綾乃から、
「福間君は、誰か好きな人いるの?」
 と聞かれた。
 綾乃とはDJを一緒にやっている関係で、他の部員たちとは少し違った目で見ていたことは確かだが、福間の方では、さほど意識はしていなかった。
 ただ、今まで好きになったことがなかったわけではないと言ったが、その相手が実は綾乃だったというのを自覚はしていたので、綾乃からのこの質問には、聞いた瞬間、ドキッとしてしまったことはいうまでもないだろう。
「いや、いないよ」
 と答えた時の綾乃の無邪気な表情、
「あら、そう。だったら私立候補しちゃおうかな?」
 といういつもの天真爛漫さに輪をかけた楽しそうあ表情に、福間は天使を見たような気がした。
 そして、悩んでいる自分がいささか救われたような気がしてきた。
「俺は一人じゃないんだ」
 という思いが頭にあった。
 元々、一人が嫌というわけではなく、逆に人と一緒の時の方が煩わしいとすら思っていたのだから、、そういう考えになった自分を不思議に感じたくらいだった。
 立候補してくれるのが嬉しくて。すぐに返事をしなかったが、
「私じゃあ嫌?」
 と言われると、
「そんなことはないよ」
 と必死に否定する。
 それを聞いて、
「よかった」
 という綾乃は本当に可愛く見えた。
 二人は付き合っていたのだと思う。まわりの人はあまり意識していないように見えたが、その様子は分かる人には分かるというもので、意識していないのは、逆に分かっているからだったのだろう。
 下手に弄っていい相手と悪い相手くらいなら、普通に分かる。この二人の場合は、神経質な福間と、天真爛漫で楽天的な綾乃との付き合いということで、
「極端に違う性格でも、実はうまくいく」
 という事例をあたかも記しているかのようである。
 そんな相手を下手に刺激すると、せっかくの二人の間に保たれている均衡が崩れ、バランスを失ってしあうことで、綻びが生まれるのではないかと思う。そう思うとさすがに誰も二人をいじることはないのだが、綾乃の方とすれば、
「本当は、もう少し弄ってくれてもいいのにな」
 とくらいには思っていたかも知れない。
 そんな二人だったが、お互いに好きだという気持ちはあるのだろうが、相手にハッキリとその言葉を発したことはない。それぞれに、
「言わなくても分かっている」
 という思いに駆られていたのだが、本当は口にしなければ安心できないということを分かっていただろう。
 それなにに気付かないふりをしているのか、どこまで我慢が続くのかというところであるが、やはり我慢というところでは、福間の方が早く切れたようだ。
 一見、女性の方が早く我慢の限界に達するものと思われがちだが、福間のように、神経質で、完璧なものを求めようとする人間は、なるべくなら中途半端でグレーな部分は自分のまわりに作りたくないと思っている。
 その思いはほとんどの人がそうなのだろうが、神経質な人には特に強く感じられることであろう。
 綾乃は、別に好きだという言葉を言われなくても平気なようだった。それが逆に福間を不安にさせる。
「彼女の方から俺にモーションを掛けてきたんだから、好きだという気持ちに間違いはないはずだ。それなのに、どうして言葉にすることをしないだ?」
 確かに、最初に言い寄ってきた彼女は、別に臆面もなく、彼女に立候補するなどという大胆なことが言えたのに、どうして好きだという言葉がいえないのか、疑問に感じるのも無理はない。
 だが、それは、彼女が告白のつもりで言った言葉で、
「決めなければいけない決めどころは、ちゃんと分かっている」
 ということなのであろう。
 告白するということは、
「決めどころを分かっていて、そこを決めた」
 ということであり、成功するに越したことはないが、もし成功しなくとも、本当は悲しむことではない。
 自分にできたという達成感も少なからず自分の中にあり、告白せずに結局心変わりするよりも、告白して玉砕してしまう方がいいと考える人もいるだろう。
 決して玉砕がいいと言っているわけではなく、その人の心の中の決めどころを自分で理解しているかということに掛かってくると言えるだろう。
 付き合い始めてから、どうしてもぎこちなさの消えない福間は、ある意味、デートの時もガチガチだった。何を話したのか、五分前のことすら覚えていないほどの緊張に、
「そんなに緊張しなくてもいいのに」
 と、声を掛けたくなるくらいの綾乃は、苦笑いするしかなかった。
 普段であれば、そんな苦笑いも気にしない福間だったが、どうかすると急に被害妄想的な気分になり、その苦笑いが、軽蔑の笑いに見えてしまい、いつもと同じ表情をしているはずの綾乃が、急に別人になってしまったかのように思えてくるのだった。
 そんな綾乃の態度に福間は少しずつ疑心暗鬼を感じるようになっていった。もちろん、その思いは綾乃にだけ向けられているのではなく、まわりすべてに感じられることだった。最初は綾乃を見ていて始まった感覚だったはずなのに、元々がどこから発するようになったのか、自分でもよく分からなくなっていった。そう思っているうちに、自然と自分のことを、
「鬱病ではないか?」
 と感じるようになった。
 神経質なだけに、一度考えてしまうと、その思いはどんどん深くなっていって、まるでアリ地獄のようだった。
 その思いを今一度感じさせたのが、またしても夢だった。
作品名:心理の共鳴 作家名:森本晃次