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心理の共鳴

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「うん、違うんだ。本当は、『モスキート』で切って、『音』つまり、音という言葉でしめるんだ。モスキートが蚊という意味らしいんだけどね、紛らわしいだろう? 今ここでも、私を含めて聞き違えていた人が何人もいたということなんだ。ひょっとすると世の中にはまだ聞き違えている人はいっぱいいるんだろうけどね」
 というと、別の一人が、
「その前に、モスキート音という言葉すら、そんなにたくさんの人が知っているとは思えないですけどね」
 と言って笑っていた。
「まさしくその通りだ。これと同じように、言葉を聞き違えるということは往々にしてあるのだろうから、気を付けた方がいいよね」
 と教授が言っていた。
 このことが、今後に起こった事件を暗示させることになろうなど、果たして神のみぞ知るというところであろうか。

                包装室での怪事件

 この「モスキート音」の話は、飲み会の中で、ちょっとした話題のつなぎ程度に話されたものだったので、それをずっと覚えている人もいなかったし、この話に興味を持って、後でこの言葉を調べてみようという人もいなかっただろうと教授は思った。
 教授自身もただのつなぎだという意識もあり、しかも、その話が、聞き違いは自分だけではなかったという想像していた異常な盛り上がりを見せたことで安心して、それ以上、自分でも調べるようなことはしなかった。
 歴史サークルでラジオ配信を始めてから数か月が経っていた。リスナーがどれほどいて、反響があるのかということも、今まではメール程度でしか分からなかったが、サークル内にパソコンに詳しい人がいて、その人がホームページを作ってくれたので、その反響がそろそろ出始めようとしていた。
 もちろん、プロのような高度なプログラミング知識があるわけではないので、ボルグやツイッターのような機能は、既存のサイトとリンクすることで、それなりのものを用意することができるようになった。
 部員の研究であったり、活動内容など、ネットでホームページに上げることで、これも一種の情報発信になった。
 ネットというオンライン上のものと、ラジオというアナログな情報発信とが、相乗謳歌となったのか、結構人気のようであった、
 SNSなどには、ホームページを見ている人だけではなく、ラジオのリスナーの人も意見や感想を載せてくれるようになり、実にありがたいことであった。
 ラジオ放送は、基本的に部員が毎回抗体でDJを務めている。スタッフは決まっているので、それ以外の部員が交替で勤めるので、実際には八人で回すことになった。
 しかも、男女の比率がちょうどいいので、下手にペアを変える必要もないということで、最初に組んだ相手といつも一緒というのが、今では当たり前のことになっていた。
 もし、誰か一人がちょうど自分の当番の時、体調を崩したり、どうしても抜けられない用事のためにこられない時は、毎回誰かは八人のうちの一人は見学に来ているので、ピンチヒッターをお願いしているので、放送に支障をきたすことはなかった。
 ただ、そのうちに、その状況を逆手にとって、別に用事があるわけではないのに、来ないというやつも出てくることになったが、それも一度、会議をしたことで、その人の考えを改めさせることに成功したのか、それ以降、ズル休みはなくなっていた。
 そんな状態の中でラジオ放送もうまく軌道に乗ってきたのだが、そのうちに新しい現象も生まれてきた。
 これを悪いことだと思う人はいないだろうが、何か一抹の不安のようなものを覚えた人はいたかも知れない。DJを交替で回すことで同じ人とずっとペアになるというのは、毎回同じ男女ということである。
 放送をうまく回すには呼吸を合わせなければいけないというのは、誰もが考えることであり、そのため感情的なところで思わぬ効果をもたらすこともあっただろう。そういう意味で、同じペア同士の人同士が付き合うようになったという話は、聞いたことがあった。
「別に俺たちがアイドルってわけでもないので、お互いにそれでいいのなら、別に問題視することはないんじゃないか」
 という意見が主流だった。
 問題視した人も、
「ああ、ちょっと考えすぎだったかな?」
 とは言ったが、本当に気にしすぎで済むことだったのかどうか、よく分かっていなかった。
 だが、その人も、
「まあ、歴史サークルという大学でのことなので、そんなに大げさなことはないだろう」
 という思いがあった。
 これが社会人で、ずっと付き合っていかなければならないまわりの人たちではなく、後一年とちょっとで、皆離れ離れになる人たちではないか。それに途中で就職活動などもあるだろうから、そうなると、歴サークルの活動どころではなくなり、その時は後輩に後を託すということになるのを分かっていた。
 その人は大学時代を社会人になるまでの一定の期間という意識が強かったので、あまり深くは考えなかったのだろう。
 だが、大学に意気込んで入学してきた人も三年生も押し詰まってくると、嫌でも就職活動、そして卒業と見たくないと思っても見えてくるもので、そのため、意識していなかったことを意識せざるおえなくなる。
 中にはこの三年間というものを、あまり大学生として真面目に勉強してこなかった人間には急激な焦りが走っていた。衝撃だと言ってもいいだろう。
 成績は大してよくもなく、何か目立つようなことをしたわけではない。就職活動で、
「歴史サークルで、ラジオ配信をしていました」
 と言ったところで、製作やスタッフとして携わっていたのであれば、少しは違うかも知れないが、DJというだけではいかばかりなものか。
 もちろん、営業職であれば、そういう言葉を使っての活動に興味を持ってくれる面接官もいるかも知れないが、どこまで興味を持ってくれるかということもよく分からない。
 社会人になるまでの間、自分がどれだけの技量を持っていなければいけないのかということを考えると焦らないわけにもいかないのだった。
 その思いは一人だけではなく、数名が持っていた。
 中には、大学生として十分な生活をしてきたと思える人もいるので、底辺だと自分を見ている人には、追いつける気はしなかった。そうなると、自分独自の考えで、いかに少しでも上を目指せるかしかないだろう。
 サークル活動に身が入らない人もいれば、逆にサークル活動に活路を見出そうとする人もいて、両極端であった。
 そんな中で、一人の部員が、どうの鬱状態に陥りかけていることを、すぐに理解できた人がそれほどいたであろうか?
  どちらかというと、あまり目立つタイプではなく、自分は、
「いつも隅の方にいるだけでいいんだ」
 と思っていた。
 それが福間恵三だったのだが、福間は自分がいつから鬱状態になったのか、自分でもよく分からなかった。鬱状態になった理由もよく分からず、気が付いたら、孤立していたのだった。
 そんな曖昧な精神状態の中で、どうして自分が鬱状態だということに気付いたのかというと、それは、鬱状態に陥ったという夢を見たからである。
 その夢の中には、自分が出てきた。
作品名:心理の共鳴 作家名:森本晃次