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心理の共鳴

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 と言われて、ハッと思い出した門倉氏は、
「そうそう、さっき鎌倉さんから聞かされた『モスキート音』という話、どこかで聞いた言葉だと思ったんですが、その中に投稿されている小説の中で見たような気がしたんですよ」
 というではないか。
「ほう、どんな話だったんだい?」
「今回の事件とはあまり似ているわけではないんですが、短いお話で、ミニコンとのような話になるんでしょうか。そこでは聞き違いということがテーマになっていて、モスキート音というのが、同じ音という意味で、『モスキートーン』に聞こえたというんですよね。この勘違いというのは結構な人がしているようで、『音』と『トーン』が似ているでしょう? しかも、モスキートというよりも、モスキーの方が耳に慣れているような気がしませんか? そのことをテーマにしたショートストーリーだったんです。私もなるほどと感心したので、きっとそれで覚えていたんでしょうね。でもまさかそれが特殊な音だとは思っていなかったので、その時はわざわざ調べて見ようとはしませんでした」
 と門倉刑事は言った。
「確かに間違いやすいと思う中でもトップクラスのような感じがするね。でもこれはおもしろい現象なんだけど、こういう間違いやすいことって結構あったりするんだよね。聞き違いもあれば、何かちょっとした矛盾があって、その矛盾がどこから来るのかすぐに分からないというようなね。例えばの話、以前どこかの駅で、広告と一緒に啓発の文句が書かれていたんだけど、そこには、
「『違法なスカウト行為は許しません』と書かれていて、その下にも似たような文章で、『違法なスカウト行為は取り締まりの対象です』って書かれていたんだ。この文章を見れば、門倉君はどう感じるかな?」
 と聞かれて、
「別に可笑しなところはないと思いますが?」
 というと、鎌倉氏は笑って、
「私も最初はそのままスルー思想になったんだけど、よくよく考えると、ものすごい矛盾があると思うんだ。どこだと思う?」
 と鎌倉氏が聞くと、
「さあ、どこなんでしょう?」
「そうだね、やはり君は警察官だからピンとこないのかもしれないけど、この文章にはすごい矛盾があるんだ。問題は二つ目の文章なんだけど、最初に『違法な』と書かれているだろう? ということは、何も書かれていないわけでもm@違法と思われる』という曖昧な書き方をしているわけではないので、違法という言葉は確定的なんだよ。それなのに、最後で、取り締まりの対象ですっていう文章になっているだろう? 対象ですということは対象ではないものもあるということになるんだよ。つまりその広告を出しているのは、県の警察署なので、警察が出しているわけだよね。警察って、違法なものを取り締まるのが警察なんだよね。逆にいえば、違法であれば取り締まらなければいけないんだ。職務怠慢とか、税金泥棒なんて市民から言われても仕方がないだろう。そういう意味で、最初に、違法なことだと確定して言っているのに、最後にトーンダウンして、対象になりますなんて言ったら、それこそ矛盾になるんじゃないかって私は思ったんだよね。揚げ足を取っているようだけど、さっきの聞き違いも似たような発想で考えれば、誰もが聞き違いをする、でもそれが似たような意味になるから面白い。だから話として成立するんだという理論になるだろう? それを見て、犯人が利用したという考えも成り立つんじゃないかな? 動機や何かよりも、そっちの方がはるかに興味をそそられる。何しろさっきの話で、あらかた犯人は予想できたけど、そこから先が分からない。犯人も分かっていて動機も何となく分かる。だけど、実際にどうして犯罪を犯すに至ったのかということまではまったく分からない。こういう事件というのは稀ではあるけど、ひょっとすると事件にならないだけで、水面下でたくさん蠢いていることなのかも知れない。それを思うと、私は怖い気がしてくるんだ」
 と、鎌倉氏は話した。
 せっかくの世間話だったが、また事件の話に戻ってくるのは、やはり二人にとっては避けることのできない宿命のようなものなのかも知れない。
 そんな会話をしながら、次第に夜は更けていくのだった……。

 翌日になると、さすがに尽きなかった話をしたせいか、なかなかお互いに話題が残っているわけでもなく、ほとんど寡黙な時間が過ぎ去り、朝食を気だるさの中でいただくと、そのうちにお互い仕事モードへと精神状態をシフトしていき、門倉はいったん警察署に出勤した。門倉が鎌倉探偵を訪れた時というのはいつもこんな感じなので、別に二日目が異常だったわけではない。最初の頃は二日目の倦怠感がぎこちなかった二人だったが、慣れてしまうとそれも悪くはないという感覚になるから不思議だった。
 いったん署に出社した時、まだ警察署では大きな事件が起こっているわけでもなかったので、比較的刑事課はリラックスムードだった。
 門倉刑事は、少し事務的な仕事をすると、さっそく山下教授の入院しているという病院に赴いた。少し早いかと思ったが、実際に行ってみると、午前中の診察やリハビリも終了していたので、ゆっくり話を聴くことができそうだ。昨日の鎌倉探偵との話の中でいろいろと分かったような気になっている部分もあったので、そのあたりを中心に話を聞いてみようと思った。
――教授は、きっと何かを知っているのではないか?
 と思うのは勝手な妄想であろうか。
 部屋に入ると、教授は窓の外を見ながら佇んでいた。訪問してくる見舞客もおらず、個室に一人でいる教授を見ると、まるで黄昏れているように見えるのは気のせいであろうか?
 門倉の中には、大学教授というイメージは孤独なものだという個人的な感覚があった。だから表を見ながら一人佇んでいる姿もまんざら想像できなかったものでもない。むしろ想像通りの姿に、しばし声を掛けることができなかったと言ってもいいくらいだった。それでも、すぐに意を決してこの場の雰囲気を断ち切る選択をするまで、それほど時間が掛かったわけではない。
「山下教授、体調の方がいかがですか?」
 と、挨拶がてらに、まずは体調を聞いてみた。
 体調次第によって、話を繰り上げなければいけないタイミングもあるというもので、そのことが最初に門倉の頭にあった。
「ええ、おかげさまで大丈夫です」
 という、教授はすっかり落ち着いているようだ。
 教授が密室に倒れこんだ時、泡を吹いていたという話を聴いていたので、気絶したのは確かであっただろう。何がそんなに今がおちつぃているが目の前にいる人を苦しめたというのか、門倉刑事は恐る恐る聞いていくことにした。
「大変だったですよね。すでに関係者のお話は聞いていますので、教授があの時どのような状態だったのかということは、客観的にですが分かっているつもりです。それを元に少しお話を伺いたいと思うのですが」
 と門倉がいうと、
「そうですか、ただ何分私はあの時、気絶してしまいましたので、記憶と言ってもほとんど何もないかも知れません」
作品名:心理の共鳴 作家名:森本晃次