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心理の共鳴

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「科学をバカにすると、自然に逆らうような気がするんですよ。科学と自然は決して正反対ではなく、自然があるから科学が育まれるということだと思うよ」
 と鎌倉探偵は言った。
「そうですね、なかなか難しいですね」
「社会というのは、文明があり、その上に成り立っていると言えます。文明というものがなければ、秩序を保つ意味もないし、ルールは本能によるものだけで十分です。つまり社会というのは、文明あってこそのものであって、保たなければいけない秩序があるということはその裏には必ず何かが潜んでいるということですね。社会のルールというのはそんな中で確立されてきたもの。文明という人間だけが持つものだからこそ、ルールを持った社会が存在する。その裏の世界とは、戦いであったり、陰謀や欲望、そんなものが渦巻いているからそれを統率するためのルールが必要になるんです。法律しかり、それを守らせるための警察組織、そしてさらには国家機能など、そういう機関だと言えますよね。そんな時代を生きているから、私利私欲のために人は殺人を犯す。自分が生きるために仕方なく殺人を犯すというわけではなく、ただ単に自分の欲望を満たしたいというだけで簡単に人を殺す輩が出てくる。これが文明の垢の部分なんだよ。そういう意味では文明というものはいい部分ばかりではないということ。世の中には表があれば少なくとも同じ大きさの裏があるということなんだろうね」
「犯罪では、自分が助かるためには仕方なくというのもあれば、本当に自分の欲望のためだけに人を殺す人もいる。小説の中だけなのかも知れないが、犯罪を芸術に模して、その芸術を達成するためと称して人を殺すやつもいる。もしそうであれば、何ともやり切れないですよね。頭で考えての殺人だと言わせたくはないですよね:
 と鎌倉探偵の話に門倉刑事も補足するかのように言った。
「ここに出てきたモスキート音などというのは、セキュリティーやあるいは戦争の道具として開発されたものなのかも知れないけど、小さなところでも些細なことに使われていますよね。ということは、犯罪に使われないと誰が言えるでしょうか? これほどいくらでも使えそうな道具もないものだ。どうやって使うか、そしていかに実用化したものを手に入れられるかというところもあるんでしょうが、そもそもいくらでも使い道があり、一見便利に見えるこのアイテムは、謎を巻き起こすには十分です。ある意味、悪戯に過ぎなければいいんですが、これが何かの犯罪の前兆であり、予告のようなものであれば、怖いですよね。動機が復讐のようなものであれば、特にそうでしょう。まだ何も起こっていないからと言って油断はできないと思いますよ。ただ少なくともいきなり誰かが殺されるわけではなく、この状態を引き起こしたことで、何かの前兆だと思わせるには十分なので、ちゃんとヒントは貰っているということでしょう」
 と鎌倉探偵は言った。
――鎌倉探偵は。今回の事件を、ゲームのように感じているのかも知れない――
 もっとも、死者が出ているわけではないので、事件というにほどのものではなく、捜査本部も置かれていないこの状態では、捜査させてもらうだけでもありがたいほどの事件なのだから、鎌倉探偵が事件というよりもゲームとして見ているのであれば、決して不謹慎でもなんでもない。
 逆にこんな時こそ、少し遊び心を出さないと、いつもいつも緊張して捜査に当たるというのも精神的にはきついものがある。
 門倉刑事も鎌倉探偵のところに相談に来たというよりも、息抜きに来たと言った方がいいような感じだった。久しぶりに呑んだ酒もうまかったし、鍋も味わって食べることができた。
 事件と言えば事件だが、事件解決のためというよりも、この怪奇現象を解明してほしいという意味で訪れたのであって、あらかたその目的は達せられた。そう思うとかなり肩の荷も下りた気がしたが、鎌倉探偵の中では、
「まだ事件は終わっていないのかも知れない」
 という含みがあり、今度のことがまさかただの前兆のようなものであるとすれば、この上場に誰か、怯えている人がいなければいけない。
 少なくとも今までに事情聴取した人の中には怯えを持っている人はいなかった。逆に挑戦的な感じがしたのが福間だった。
 鎌倉探偵の話によれば、犯人は福間ではないかという。なるほど彼には動機もあれば、話をしている間に出てきた犯人像も彼を指し示しているかのようだ。
――プロファイリングをでもすれば、彼の犯人の可能性は限りなく高いのではないだろうか――
 と思わせた。
 福間という男がどれほどこの事件に大きな存在を持っているのかは、誰もが分かっていることであるが、今の鎌倉探偵の話を聞くと、このまま黙っておくのは危険な気もした。最初は事件の真相さえ分かればそれで納得できると思っていたが、見逃せるものなのかどうか、真相を究明し、さらにそこで考えなければならない。そういう意味では凶悪犯よりも難しい相手だと言えるのではないだろうか。
 凶悪犯でないと思うと、そこまで強く相手を感じることができないのは、犯罪捜査に携わる人間の性のようなものなのかも知れない。

                 教授の危惧

「やはりこの事件には何か奥にあるんでしょうね。私はこの事件が分かってみれば、何とも簡単なものであったということが気になって仕方がないんですよ。科学的なことは私や他の捜査員も知らなかったから、今まで誰も分からなかったというだけで、ここまで大胆な犯罪もないとある意味では言えますよね。本当に何のためにやったんでしょう。大きな被害は出ていないとはいえ、教授は救急車で運ばれる羽目になり、また、その場にいた皆が苦しい思いをしたわけでしょう。それなりの理由がなければ、ただの人騒がせなだけではないですか。それにも何らかの人を納得させられるだけの理由が必要。動機としてはあるかも知れませんが、こんな訳の分からない人騒がせな事件を引き起こした、納得できる理由になんか、なっていないんですよ」
 と門倉刑事は言った。
「もし、この事件のカギを握っている人がいるとすれば、君が誰だと思う?」
 と鎌倉探偵が言った。
「まずは、梅崎綾乃なんでしょうが、彼女というよりも、教授の方が何かを握っているような気がします。明日教授と会う約束をしているので、病院に行って来ようと思っているんですよ」
「まだ入院中なんですね?」
「ええ、そうです。退院までには少し時間が掛かるということです」
「妙ですね。音による副作用くらいでこんなに長く入院するというのは」
 と鎌倉探偵が疑念を呈すると、
「その副作用がさらに副作用を呼んだのか、元々問題のあった心臓が少し弱っているようなんです。別に他の病気を誘発しているわけではないので、すぐに何かの問題があるというわけではないですが、きっと年なんだろうと、教授は言っていました」
 と門倉刑事は説明した。
「犯人が、この教授の心臓が弱ることを予期していたとすれば、これはやはりターゲットは教授だったということになるでしょうね」
 と鎌倉探偵は話をして、門倉刑事はまたも考えてしまった。
作品名:心理の共鳴 作家名:森本晃次