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心理の共鳴

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 と門倉刑事がいうと、
「そうなんだ。そこが分からないところではあるが、結果として教授を意識不明に陥れ、救急車で搬送させることになったんだよね。だから、もしこれが故意に行われたということであれば、殺害の意志まではないんだけど、苦しめるだけ苦しめたいという思いがあったのは確かなんでしょうね。でも、そのために自分はおろか、他の人まで巻き沿いにするというのは、感心はしないけどね」
 と鎌倉探偵は言った。
「でも、皆を巻き込んだことで、もし故意に誰かがやったとしても、その人の特定は難しいでしょう。だから、わざと皆を巻き込むことにしたという考えも成り立つ気がするんですよ」
 と門倉刑事がいうと、
「となると、犯人がいるとして、その犯人は自分さえよければまわりはどうでもいいというような利己主義的な人物の可能性は高いと思うんだけど、そういう人物は話を聞いてみていたかね?」
「いないわけではないです。心当たりはあります。もし教授が狙われたのであれば、かなり高い確率でその人が怪しいと言えると思います」
 と言って、門倉刑事は、鎌倉探偵に、昨日の事情聴取の話をした。
「なるほど、今の話を聞く限りでは、犯人がいるとすれば。それは福間恵三だろうね。でも、いくら彼でもここまでみえみえな犯行を犯すだろうか? そうなるとあの不快な音は自分の犯行をごまかそうなどという意思ではなく、その状況を作り出すためには必要不可欠な状態だったということだろうね。ところで、皆はその時の音をどんな音だと言っているんだね?」
 鎌倉探偵はある程度見切ったかのように話し始めたが、ただ首を傾げるところが何度かあったのを門倉刑事は見逃さなかった。
「私も鎌倉さんとほとんど意見は一緒なんですが、こうやって二人の意見が一致すれば、今までの経験から、それはほとんど事実に近いと思っているんだけど、でも実際にはどこまで事実に近づいているのか、今回は少し疑問なんです。どこかに何か忘れているものがありそうな気がして、そういう意味ですぐに回答できないものがあるんですよね」
 と門倉刑事がいうと、
「そうなんだよ。いきなり一つに意見がまとまりそうになるんだけど、その結論を見出すのが何か怖い気がするんだ。違っているわけではないんだけど、何かが足りない気がしてね。この違いが実は真実と事実の違いなんじゃないかと思うと、話がややこしくなるんだ。そういう意味で、謎解きと犯人捜しは別の次元でしなければいけないんじゃないかと思うんだよ。ひょっとすると、この謎が解かれた時、犯人が仕掛けた罠に陥ってしまうのではないかという思いがある。これは探偵としての勘なので、本当の意味での信憑性はないんだけど、科学的なことの解明は私にはできると思っている。とりあえず、その可能性について考えてみようじゃないか」
 と、鎌倉探偵は言った。
「というt、鎌倉さんには何かこの事件の科学的な部分に心当たりでもあるんですか?」
 と門倉刑事が聞くと、
「うん、あるんだよ。君の話では、途中から教授が入ってきて、その時には何も聞こえないという話だったんだろう?」
「ええ、そうです。これは皆の意見をそれぞれに聴いて共通した話だったので、ウソはないと思います。教授は入ってきて最初、皆が苦しんでいるのを見て、何があったのか分からずにきょとんとしているというような話でした。それなのに途中から苦しみ出したのが変だということでした」
 と門倉刑事がいうと、鎌倉探偵は、
「うんうん」
 と頷きながら話をした。
「門倉君は、その時の他の人が聴いた音がどんな音だったのか訊ねてみたかね?」
「ええ、もちろんです」
「じゃあ、その時の皆の意見が、超高周波で、まるで蚊が飛んでいるような嫌な音だったと言ってなかったかい?」
「ええ、確かにその通りです。よくお分かりになりましたね」
「教授が教えてくれたのさ。しかも、聞こえなかったのは教授だけで、他の学生には皆聞こえたということだろう? 何が違うのかな?」
 と鎌倉探偵がいうので、門倉刑事は素直に答えた。
「学生は皆若いけど、教授だけは五十歳近いというくらいですかね?」
 と門倉刑事がいうのを聞いて。
「そこまで分かっていて音の正体が分からないということは、本当に知らないんだね。この音は『モスキート音』というものなんだ。この音の特徴はさっきも言ったように、高周波で蚊が泣くような音で、すぐには認識できない音なんだよ。しかも、この音は聞こえる人と聞こえない人の差がハッキリしていて、特にある程度の年齢を超えると聞こえないという特徴があるんだ。元々はアメリカで開発されたものらしくて、今言った年齢によって聞こえないという特徴を生かして利用されるようになり、実験的に設置された例もある。セキュリティや、若者による施設破壊などの防止を目的にね。逆に、若者としては、教室で携帯電話の着信音をモスキートにしておけば、年配の先生には着信音が聞こえないということで、教室で使用しているという例もあるというんだ」
 という鎌倉探偵の熱弁を聞いていて、感心したように聴き入っていた門倉刑事だったが、
「そんなのがあったんですね。私も勉強不足でした。でも、こんなことは知っている人が考えればすぐに思いつきそうなことですよね。それなのに、よく計画したものだと思いますよ」
「それがあるから、故意なのか偶然なのかが分からないと言ったんですが、急にいきなりモスキート音が流れてきたり、しかもそれが放送室というのも、いかにもですよね。そこにかぶせるように非常ベルの音。これを偶然が重なったと考えるのは難しいですおね。特にモスキート音は何かの作為がなければ、聞こえてくるものではないですからね。特に今のような冬の時期に、蚊が飛んでいるとは思えないし、しかも放送室のような場所にいるとは思えないですよね」
 と鎌倉探偵はあくまでも故意を主張する。
 さすがにここまで音をモスキート音と確定してしまうと、その時点で偶然の可能性は皆無に近いと言ってもいいのではないだろうか。
「モスキート音というのは、すごい効果だったんですね。それだけ聞こえにくいものだったら、他の音と共鳴した時、余計に耳に残ってしまう可能性もないわけではないですよね。特に非常ベルなどは共鳴しやすいような気がします。ただ、この時の非常ベルが故意なのか偶然なのか、この部分は疑問が残る気がします。非常ベルはあくまでも苦しんでいる人が無意識に押しただけですからね」
 と門倉刑事がそういうと、
「果たしてそうだろうか? 犯人はそこまで予期していなかったと本当に言えるだろうか。自分も一緒に苦しんでいるんだから、その苦しみを思えば、非常ベルは想像できそうだ。それにしても、放送室というのは、本当にすごいんですね。そこまで皆が皆気持ち悪く感じるだけの防音設備なんだろうから、空気も相当薄いと考えてもいいかも知れないな」
 と鎌倉単体は腕組みをしながら考えていた。
「それにしても、共鳴和音というのは恐ろしいものですね。これは数学というよりも、やはり化学なんでしょうね。一足す一が、三にも四にもなる。それを思うと、科学的な話を簡単にバカにできなくなるような気がします」
 と門倉刑事がいうと、
作品名:心理の共鳴 作家名:森本晃次