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心理の共鳴

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 元々命に別状はないということだったので、医者からは、意識が戻って少しすれば、事情聴取もできるようになるだろうという話を聴いていたので、学生に一通りの事情聴取をすることができてから病院に確認してみると、
「明日の午後からならいいでしょう」
 ということであった。
 午前中にはだいたい大丈夫であったが、診察の時間もあるので、午後の方がゆっくりできるということで、午後になった。
 その間に門倉は別の事件の捜査をしていた。
 本当であれば、死者が出ているわけではないこの事件に、そんなに長い間、首を突っ込んでいるわけにもいかなかった。幸い他の事件が起きていないということと、事件が怪奇なままに終わってしまうと、謎だけが残ってしまう。せめて謎は解き明かしておかなければ、これが大きな事件への前触れであったりすれば、大きな事件を目の前にして、ヒントがありながら防げなかったということになると、悔やんでも悔やみきれないと考えたからだった。
 今のところは何も分かっていないので何とも言えないが、門倉刑事は、
「この事件には得体の知れないものを感じます。もう少し納得が行くまで捜査させてください」
 と、課長にお願いした。
「そうか、門倉君がそこまでいうのであれば、納得が行くように調べてみればいい。しかし、他に事件が起これば別なので、時間はないものだと思ってくれ」
 と言われた。
「ありがとうございます」
 と言って下げたが、その気持ちを今一度奮い起こすのにも課長のセリフはありがたかったのだ。
 ということで、事件に携わることができる人員は、自分ともう一人の刑事だけで、他の刑事を使ってはいけないとの言明があった。門倉刑事は昼過ぎより病院に行くことにして、その前日の夕方から、久しぶりに鎌倉探偵の下を訪れた。
 鎌倉探偵というのは、元作家をしていたという変わり種の探偵で、門倉刑事が刑事として頭角を現してきた時期とちょうど鎌倉探偵が、探偵として世間に知られるようになった時期が同じことだったのもあって、二人は実に気が合う仲間であった。
 鎌倉探偵は、警察署長や捜査課長とも昵懇なので、門倉刑事が、
「ちょっと鎌倉探偵のところに寄ってきます」
 というと、悪い顔をされることもなかった。
 今回も昼過ぎに事情聴取を終え、署に戻ってからその話を捜査課長に報告した後、鎌倉探偵にアポイントを取り、
「そうか、じゃあ、夕飯を用意して待っていよう」
 と言ってくれた。
 これは、鎌倉探偵事務所への招きではなく、鎌倉氏の家への招待だった。
 鎌倉探偵の家は、探偵事務所から歩いて十分ほどのマンションであり、一人暮らしをしているのに、部屋は三LDKという少し贅沢な部屋であったが、それは仕事関係の人を通すためのリビングと、自分の寝室。さらに来客用の部屋とが必要だったからだ。ダイニングキッチンと隣接したリビングは半分は鎌倉探偵の書斎となっていて、本がぎっしりと並べられていた。
 門倉刑事も今までに何度もこのマンションにやってきて、夜までずっと事件の話をしていて、そのまま来客用の部屋に泊まったことも何度もあった。門倉刑事にとって、仕事中ではありながら、まるで自分の部屋に帰ってきたかのように思えるその部屋は、憩いの場でもあったのだ。
 門倉刑事ほどの馴染みになると、仕事用のリビングだけではなく、書斎として使用している部屋で一緒に呑むということもあった。台所も近いこともちょうどよかったのだ。
 門倉刑事が訪ねた時、ちょうど鎌倉探偵も読書をしていたようで、それが一段落していたようだった。
「門倉君が来る時は、いつも何かをしていても、ちょうどキリがいいとこrに来てくれるからありがたいんだ」
 と鎌倉探偵は言ったが、
「そう言っていただけると幸いです。僕も必要以上に遠慮しなくてもいいですからね」
 と言って苦笑いをしていた。
 こんなことを平気で訪れた相手にいきなり言えるくらいに昵懇な二人はすでに気分はリラックスしていた。
 大きな事件が起こっているわけではないということは最初から分かっていたので、待っている方もそれなりに覚悟をする必要もない、ただ、何か気になることがあって、助言でも聞きたいということであろうから、そうであれば、鎌倉探偵にとっても刺激になってありがたかった。
 最近はあまり大きな事件も起こっていないので、少し頭がなまっている感じだった。謎の含まれた相談であれば、こちらからお願いしたいくらいだと思っていた鎌倉探偵は、門倉刑事の来訪も待ち望み、その分、潰していた時間のちょうどキリのいいところで彼がやってきてくれたことは、鎌倉探偵の望むところでもあったのだ。
 その日はすでに寒さも次第に増してきたこともあって、暖かい鍋などがちょうどいいと思い、カセットコンロに鍋を掛けて、用意はできていた。自分はすでに風呂に入り、ある程度準備は整っていたので、やってきた門倉刑事を風呂に招いて、リラックスしている自分に追いついてもらおうと目論んでいた。
 これも、鎌倉探偵にとっての至福の時間だった。仕事上の付き合いが多い中で、お互いにそれ以上の仲である相手と、仕事未満の話をしながら、それを肴に酒が飲めるというのは感無量な気がしていた。これこそ至福の時間と言えるのではないだろうか。
 さっそくお風呂から上がってきた門倉刑事を待ち構えていたのは、いい匂いの鍋がちょうど煮詰まりかかった時だったことを示していて、それまでの一日の疲れを一気に感じた瞬間で、喉の渇きを最初に感じた。
「さあ、まずはビールで一杯」
 実はあまりアルコールが得意ではない門倉は、この時はビール一杯がちょうどよかった。したがって、二人でコップ一杯飲めるくらいのビールを冷えた状態で冷蔵庫から今出してきたのだろう。鎌倉探偵が注いでくれた。
「とりあえず乾杯だ」
 と言って、二人は半分くらいまで一気に飲んで、
「ブファー」
 と息を吐いたのだった。
「それにしても久しぶりだね」
「ええ、あれは以前の事件を解決してからのことなので、半年ぶりくらいでしょうか?」
 普段は、鎌倉探偵の手を煩わせるほどの大事件がそんなにしょっちゅう起こってくれるのも困ると思っていたので、一年に数回くらいがある意味ちょうどいいのかも知れない。不謹慎ではあるが、あまり大事件が起きないということになると、鎌倉探偵も仕事がなく、干上がってしまうというものだ。
「もう、半年にもなるんだね」
 と言って、腕を組んで考えていたが、この半年の間というと、警察とかかわりがあるような事件を引き受けることもなく、探偵業も適当にはあったのだが、普通に作業的な捜査くらいのものであった。
 作業的というのは、頭を使って臨機応変に立ち回るのではなく、いわゆる探偵のマニュアルのようなものを守ってさえいれば、彼の探偵術だけで賄えることなかりであった。そういう意味では楽ではあるが、楽しくはない、そういう意味で、本当に作業的だと言ってもいいだろう。
作品名:心理の共鳴 作家名:森本晃次