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心理の共鳴

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 と言って、
――分かりすぎているくらいだ――
 と考えてもみた。
 まるで、捜査がこのように進むのを願ってでもいるかのように感じたが。それは考えすぎであろうか。少なくとも頭の切れるこの加倉井裕子という女性と話していると、下手をすると彼女の術中に嵌ってしまって。そのことに気付かないまま事件の捜査が進んでいくのが怖い気がした。
「私は、これでも放送作家を目指しているので、理論的に物事を考えるのは好きなんです。だから私は刑事さんの立場に立って考えてみたんですよ」
「なるほど、ますます恐れ入りますね。ところで加倉井さんは、科学的なところで何か思い当たるふしはありませんか?」
 と聞いてみたが、
「私は科学には疎いので、よく分かりませんが、科学の専門家は警察にいっぱいおられるでしょう。それに私よりも実際の経験が豊富ですからね。そちらの意見を伺った方が早いと思いますよ」
 と彼女はいったが、これを本音ととってもいいのだろうか?
 本音というべきなのか、それとも話したくない何かがあるのか、それとも、またどこかにミスリードを企んでいるのか、いろいろ考えてみたが、考えれば考えるほど、彼女がフィクサーに見えてきて仕方がない。
「まだ今の段階で彼女一人をフィクサーとして決めつけるのは実に危険である」
 そう思うと、門倉はこれ以上の質問に意味があるのかということを考えてしまった。
 本当は科学の話まで入ろうとは思っていなかったのに、結局彼女に誘導されて入ってしまった彼女の話。非の打ち所がないように見えるが、誘導されたという意識がある以上、すべてを鵜呑みにするわけにはいかない。彼女も一癖も二癖もある人物として考える必要があるようだった。
「いや、なかなかためになるお話ありがとうございました。またお伺いするかも知れませんが、その時はよろしく」
 と言って、席を立った。
 彼女は微笑みもせずに座っていたが、社交辞令など彼女には必要のないことなのだろう。それだけ自分の世界を作っているということになる。
 それにしても、このサークルには個性豊かな人が揃っているのがよく分かった。特に加倉井裕子などは、どこに感情があるのかも分からず、
「誰か好きになったことなんかあるのだろうか?」
 ということすら考えてしまうほどだった。

               二人の憂鬱

 事情聴取の次の相手は梅崎綾乃であった。彼女は事件があった時、スタッフルームを掃除していたはずなのだが、ちょうど水を汲みに行っていて、その現場を見ていない。彼女が帰ってきた時、放送ブース内から数人が飛び出してきたところだった。何が何かよく分からなかったはずだった。
 それなのに、門倉刑事はそれを分かっていて、彼女を事情聴取しようというのだ。
「梅崎綾乃さんですね? 少しお話をお伺いしたいのですが」
 と門倉刑事が警察手帳を提示しながらいうと、
「いいですよ。でも私あまりよく分かっていませんけどいいんですか?」
 というので、
「ええ、それでもかまいません。その場におらずに、パニックになっている最中から顔を出したあなたの目に写ったものをお教えいただければと思ってですね」
 と、最初から彼女の立場が分かっているかのように聞いた。
「それならいいんですが」
 と綾乃も恐縮しながら言った。
「あなたは、実際にその場には入っていないんですよね?」
「ええ、だから皆が気持ち悪がって苦しんでいるのを見ていただけなんですが、何がどうなったのか、最後の方だけだったのでよく分からないんです。倒れこむように放送ブースから数人が飛び出してきて、皆、気持ち悪いと口々に言ってるんです。中には吐きそうにしている人もいたので、私が背中をさすってあげたんですが、すぐに楽になったようで、まわりを見ると、少しずつ顔色がよくなってきているようで、最初皆を見た時は。完全に土色をしていたようでした」
 と綾乃は思い出しながら話した。
「何か臭いのようなものはしましたか?」
「気のせいかも知れませんが、何か温泉のような臭いがしました。普段でも気持ち悪く感じられる臭いなので、私は思わずハンカチで鼻や口を押えました。でも、それだと皆を助けられないと思って、襲る襲るハンカチを外すと、もう臭いはしなくなっていたんです。きっと一瞬だけだったのかも知れないと思っています」
「それは錯覚だったということですか?」
「そうだったのかも知れません。でも咄嗟に鼻と口を塞いだのは今でも正解だったと思います。実際に私は気持ち悪いとは思いましたが、皆のように苦しいという状態には陥っていませんからね」
 と言った。
「表に飛び出してきたのは何人ですか?」
 と聞かれて。
「確か四人だったと思います。元々の放送ブースにいた人、そして、助けようとして中に入ったんでしょうね、スタッフブースで掃除をしていた人も飛び出してきているようでしかたら」
「でも、結局は教授が中に取り残された形になったんですよね?」
「ええ、そうです。どうして教授だけが中に取り残されたのか分からないんですが、一人残った教授の苦しみ用は見ていて、まるで喉を締められているような感じでした。こっちまで苦しさが感じられるようでしたね」
「梅崎さんは、人の身になって考える方なんですか? つまり肉体的に苦しんでいる人を見ると、自分も苦しく感じるようなですね。いわゆる感情が伝染してしまうようなところですね」
「たぶん、あると思います。私は神経質でも几帳面ではありませんので、自分を管理することはできないんです。だから、ついつい人に感化されてしまうことが多くて、その人が何を考えているかなど、しょっちゅう考えてます」
「それはあなたに限らずなのでは?」
「そうかも知れませんが、私の場合は特殊だって言われたこともあったんですよ」
「それは誰からですか? 最初は加倉井さんからで、途中から福間さんからも言われるようになって、二人から言われるようになると、そのうちにまわりの皆がそういう目で私を見ているような気がしてきて、それは不思議な感覚でした」
「人の身になって考えることができるというのは、まわりの人からはありがたいと思われるんでしょうが、当の本人は結構きついものがあったりするんじゃないですか? 私もそういう人を知っているのでよく分かりますが、結構後から後悔したりすることも少なくないと思うんですよ」
 と、綾乃は言った。
 人の身になって考えてしまう人は、人が苦しんでいるのを見ると、自分が本当は苦しくもないのに、その感情が移入してしまって、見ているだけで自分も呼吸困難に陥ってしまうこともえてしてあったりもする。そんな経験をしたことがある人は、読者の中にもいるのではないだろうか。
「人の苦しみが分かる」
 というと聞こえはいいが。要するに、自分も人が苦しんでいるのを見ると辛くなってくるだけで、それは本能によるものだったり、潜在意識がもたらすものだったり、場合によっては、
――夢で見たことがあったような気がする――
 という思いを抱くこともあるだろう。
作品名:心理の共鳴 作家名:森本晃次