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殺意の真相

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 坂口刑事はなぜ門倉刑事がそんなに奥さんにこだわっているのかよく分からなかった。彼も一緒に奥さんに遭ってみたが、奥さんというのは、やはり変わり者にしか見えず。それにいわゆる、
「世間知らず」
 に見えた。
 彼女の身の回りの世話をする連中が数人いて、それを取り仕切っている初老の男性が目を光らせている。どうやらこの男性は奥さんがまだ子供の頃からの養育係だったようで、奥さんが結婚してからも、いそいそと一緒についてきたというわけだ。
 奥さんの方は、独身の頃から人嫌いだったようで、大学時代も友達はほとんどおらず、何が一番問題だったのかも本人にはよく分かっていない。
 奥さんは大学時代に問題を起こして一度停学になっているが、どうやら誰かがうまく処理したようで、事なきを得たかのように復学できたが、さすがに事実を隠蔽することはできなかったが、実際に何があったのかは、後になって調べようとしても無理なようになっていた。
 残っている資料の要領を得ないものだし、ただそのせいもあってか、余計なウワサや誹謗中傷が起こったのも事実だった。ただ、事実を隠蔽できるくらいなので、警察沙汰になるほどの大きな問題ではなかった。
 後から巻き起こったいろいろなウワサの中にはえげつないものもあり、ただ、共通してのウワサは、
「どうやら、奥さんは大学時代に誰かの子供ができて、それをおろしたことがあるらしい」
 というものであった。
 もし、それがただのウワサであれば、誹謗中傷であり、許されるものではなかったが、どうやら事実のようだった。
 もっとも、そうでなければ、いくらウワサとはいえ彼女の家の方でもここまで必死になってなかったことにしようなどと感じないはずだ。ウワサでは父親に対してもいろいろなウワサがあった。
「学校の先生ではないか?」
 あるいは、
「家庭教師ではないか?」
 などとあらぬうわさがあったが、ひどいものの中には。
「使用人の誰かではないか?」
「強姦されたのではないか?」
「まさか、実の父親ではないか?」
 などと、ここまでくればさすがに許されるウワサでもなかった。
 しかし、このウワサの中には、あまりにも強引にウワサを打ち消そうとした彼女の家のやり方に不信を感じた連中が勝手に言っていることであった。そんな彼女のウワサを聞きつけたマスコミが煽ったという話もあった。
 彼女は本当に世間を怖くなったのはこの事件があってからだということは、紛れもない事実であろう。
 奥さんは、今でも世間知らずであるが、被害者がそんな奥さんを愛しているわけもなく、結婚生活は冷え切っていたことは分かっていた。奥さんも旦那が死んで最初は取り乱しそうになったが。すぐに冷静さを取り戻してからは、まるで何もなかったかのようにしていたという。
「奥様は旦那様を失って失意のどん底におられるんですよ。少しは遠慮というものをなさい」
 と、彼女の身の回りを一手に引き受けている老人がそう言って、警察を追い返そうとしたのを、
「爺や、私は大丈夫ですよ」
 と言って、落ち着いた様子を見せて坂口刑事たちの前に姿を現した奥さんは、弱弱しそうに見えたが、どこか芯がしっかりしているようにも見えた。
――この人は見た目だけで判断してはいけない人なのかも知れないわ――
 と感じたが。それでも、
「お嬢様」
 という雰囲気を払拭することができず、世間知らずであることは、百戦錬磨の刑事が見れば分かることだった。
――この奥さんは何かに怯えている――
 虚勢を張っているのは、あくまでも怯えを隠そうとするからだが。その怯えがどこから来るのか分からなかった。


              坂口刑事の過去

 その日の捜査会議では、それ以上の詳しい話は出なかった。その日の会議はそこで終了となったわけだが、翌日になり、いよいよ容疑者の一人として浮上してきた川崎晶子の証言を得るため、坂口刑事はもう一人の刑事を連れて、署を出た。
 今のところ、明確な殺意を抱いている人間がいるとすれば、川崎晶子だけなのだが、それも本人に聞いたわけでもなく、まわりのウワサによるもので、
「明確な」
 という表現は、
「ハッキリしている」
 という意味ではなく、
「他の人に殺意らしい殺意が見つからない中で、一番表に現れている殺意を持っているのが川崎晶子だ」
 というだけのことだった。
 彼女が付き合っていた彼が、被害者の行っていた詐欺に引っかかって自殺をしたということが事実であれば、それは明らかに殺意となりうるだろう。しかし、川崎晶子と彼がどれほどの関係にあり、さらに、どうして誰も知らないはずの詐欺行為を彼女が知り得たのかということも不思議だった。
 いくら二人が付き合っていたとしても、まわりの誰にも水面下で動いていることを知らない様子だったのに、彼女だけが知ったというのは、彼から何か渡されていたからなのか、それとも、彼の遺品の中に何か自分にしか分からないものでもあったのか。
 自殺とはいえ、警察も家宅捜索はしたはずなので、その時に詐欺に関しての記述があったのだとすれば、分かったはずである。それがどこからも発見されず、調書としても残っていないということは、彼女にしか分からない何かを彼は残していたということなのだろうか。
 それを感じた彼女が、彼のことを気の毒に感じ、しかも自分を信じてくれたことで、彼の復讐を図ったとしても、それは無理もないことだ。
 だが、何と言っても、女性一人で何ができるというのか。
 相手は詐欺を働いている人間である。まさか一人でやっているわけでもないだろうし、できっこない。
 犯罪というのは、人数が増えれば増えるほど、発覚という意味では危ないものだ。人数が増えるのは、強固になっているという意味合いもあれば、危険に晒されるという意味の両面があることから、一長一短あると言ってもいいだろう。
 だが、それだけに、相手の警戒はかなりのもののはずだ。下手に一人で飛び込んでいけば、闇から闇に葬られるのも当たり前かも知れず、身元不明の女性の遺体が海から上がるか、それとも誰にも知られることもなく、東南アジアなどに金で売られてしまうか、そんな恐ろしい結末が待っているに違いない。
 いくら相手の男を愛していたとしても、そこまで思い切るのであれば、自分だけが犬死をするようなことはしないだろう。彼の自殺の瞬間、逆上してナイフを手に襲い掛かるなどという衝動的な行動なら分からなくもないが、計画を持ってやることなら、少なくとも仲間がいないと成り立たない。
 坂口刑事は、今までにそんな犯罪を腐るほど見てきた。そのたびに、苦虫を噛み潰したような気持ちにさせられ、嫌な気持ちになってきたものだ。
「詐欺なんて、どうしてやろうとするんだろうな」
 と、考えたことがあった。
 自分たちが私腹を肥やすために人を騙して。その人生を壊してしまう。たとえ殺害するわけではなくとも、悲観した人たちは、自らで命を落とす。客観的とはいえ、殺害に関与している詐欺連中にはまったくのお咎めなしだ。
作品名:殺意の真相 作家名:森本晃次