小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

殺意の真相

INDEX|5ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

「ええ、実は昨日の被害現場を家宅捜索したところ、被害者の机の郵便物の中から、その脅迫状が見つかったんです。別に隠す意図はなかったようでしたが、さすがにすぐに見えるような場所に保管はできなかったんでしょうね。それに本人も気になったからなのか、机の中に隠していました。その内容というのが、どうやら被害者が行った詐欺に対しての証拠を持っているということでしたが、脅迫しているわりには、具体的に何をしろという内容は書かれていませんでした。どうやら、また送るという内容のようです」
「それは郵送されてきたのかね?」
「ええ、消印は一週間くらい前のものでした。今の時代に脅迫状を郵送でというのもとはおもったんですが、何か意味でもあるんでしょうかね」
「なんともいえないが、それで、その川崎晶子という女性は何者なんだね?」
「どうやら、この詐欺の被害者の知り合いのようです。実際には詐欺事件は表には出ていませんので、警察にもその被害届のようなものはありませんでした。それというのも、彼女の知り合いの実際に被害にあったと目される人は、数日前に自殺を遂げているんです」
「それは脅迫状よりも後だということかな?」
「ええ、そのようですね。だから、脅迫状を送った時はそれほどの憎しみがあったわけではなく、怒りから送ったと思われます。でも本人に自殺をされて、一気に殺意が芽生えたとも考えられなくもないですよね」
「その脅迫状には送り主の名前は?」
「ありませんでした」
「どうして彼女が脅迫状を送ったと思ったのかね?」
「指紋を照合した時に彼女のものがでてきたんです。文面からは女性だということは分かりましたし、彼女の知り合いが最近自殺をしたというのも分かっているので、そこで結び付いたというわけですね」
「よく彼女の指紋だって分かったな」
「ええ、川崎晶子は以前、万引きで捕まったことがあって、指紋が残っていました。常習犯とまでは行かなかったんですが、その時の指紋との照合ですね」
「盗癖があったということか、彼女と自殺をした人との関係は?」
「自殺をしたのは、ある店のオーナーをしていた人で、どうも彼女が窃盗をした時に、その店長さんが許してくれたようですね。そこから店長を慕うようになったということです。それで今回の詐欺事件ということなので、彼女はかなり立腹していたということでしか」
「そういう事情なら、分かる気がするが、脅迫状というのは、思い切ったことをしたものだね」
「ええ、その通りですね。どうも、彼女は時々思い切ったことをする癖があるんじゃないでしょうか? 盗癖というのもその一つなのかも知れませんね」
「その自殺をした男というのは?」
「はい、ブティックを経営していて、経営方針は真面目で、決して詐欺にひっかかるようなタイプではなかったというのが、近所の彼を知っている人からの話でしたので、詐欺の内容がどういうものだったのかはわかりませんが、さぞやうまくやっていたんでしょうね」
「最近は、新手の詐欺がどんどん出てきているので、警察も手に負えなくなってきている。そんな状況なので、詐欺のアイデアを売って商売にしている輩もいるという話だが、本当に詐欺というものは卑劣な犯罪なんだと思うよ。人の人生を簡単に壊すことができる。殺人だって、人を殺すことに感覚がマヒした状態で、怨恨という意識だけで殺してしまう。そんな人だっているんだろうよ」
 と言って、門倉刑事は大きくため息をついた。
「川崎晶子という女性からは事情が聴けたのかな?」
「いえ、ちょうどその日は休みだったようで、まだ事情は聞けていません。この後自宅に行ってみようと思っています。ただ、彼女の評判については、会社で聞くことができました。元々彼女が入社してきたのは、そのブティックの店長からの紹介だったようで、入社してまだ数か月のようなんですが、勤務態度は実に真面目だということでした。もちろん、同僚の人は彼女に盗癖があったということは知らないようですが、彼女の方でも真面目に職について仕事をするようになって、やりがいができたことで、盗癖がなくなってきたということなのかも知れませんね」
「そうですね。元々がそんなに悪い人ではないので、きっと彼女も何かのきっかけが自分を変えるということを自覚しているのかも知れません」
「でも、それだけに、恩人でもあるブティックの社長が詐欺に遭って苦しんだ挙句に、自殺を遂げたということを知れば、一途なだけに、何をするか分からないんだろうね。だから脅迫状を送り付けるというやり方をしたのかも知れないし。もしそういう性格だったとすれば、彼女はこの事件で重要参考人の一人として考える必要は十分にあるということだ」
「ええ、その通りです」
「ところで、もう一人女が浮かんだんだって?」
 と聞かれて、今度はもう一人の刑事がメモを見ながら挙手をして、今まで話をしていた刑事と入れ替わりに立ち上がった。
「はい、そちらは私の方で調べてきました。今出てきた被害者が行っていた詐欺行為を裏付けることになるのかも知れないと思うのですが、被害者は表の会社以外に、自分の名前でもう一つ会社を設立しています。ここはどうやら幽霊会社のようで、どこかのマンションの一室を借りて、そこを事務所のようにしていたようです。事務所にはいつも一人の女性が常駐していて、代わりの人はいなかったようです。彼女が週に一度休む時はその日がその事務所も定休日というわけですね」
「本当に幽霊会社のようだね。その会社が彼が行っていたという詐欺行為に関係していたという事実はあるのかね?」
「そこまでは立証出来ていません。何しろ事務所にはほとんど使用らしきものは何もないようで、顧客リストのようなものもなかったんです」
「そこの事務所はいつから開設されたんだ?」
「実際に運用し始めたのは、本当につい最近のようです。まだ一か月も経っていないようでした。そしてこの会社の名義は被害者の名義にはなっていますが、実際に被害者がここに来たことはほとんどないそうです。代理としてきていたのが、各務原氏だということでした」
「その事務所にいた女というのは?」
「ええ、如月祥子という女性で、彼女は元々社長とは面識があったようです」
「ということは、引き抜かれたような感じなのかな?」
「ええ、元々はクラブでホステスをしていたようですが、そこを社長から、昼間のアルバイトをしないかと言われたそうです。電話番をするだけでいいということで、掛かってきた電話に対しても、一定のマニュアルにそって答えるだけでいいので、それができなければ、後から掛け直すと言って、連絡先をメモってくれているだけでいいということらしいんです。実に楽なアルバイトなんですが、結構いい給料をくれるということで、二つ返事で引き受けたそうです」
「なるほど、それが幽霊会社というゆえんなのかな? 幽霊会社というのは出羽がかかってきても、そこで即決するわけではなく、連絡のための中継でしかないという意味だね。そういうことであれば、事務所にほとんど何もなくとも分かる気がするね」
「そうですね。顧客リストなど必要ありませんからね。下手にあるのもおかしな話ですしね」
 と、捜査本部でも皆がそう感じたことだろう。
作品名:殺意の真相 作家名:森本晃次