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殺意の真相

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 という感覚があったのかも知れない。
 発想が少し突飛な感じがすることを、この言葉で例えてしまったのか、静かに坂口は考えていた。
――そうだ、アナフィラキシーショックというのは、この事件の中でも似たようなものがあるではないか。被害者が二度注射をして、一度目では死ななかったが、二度目で死ぬことになった。一度刺されても死なないけど、二度目に刺されるとショックを起こして死んでしまう。その死因は決してハチの毒によるものではなく、人間の中でできた抗体によるものだったはず。何と皮肉なことだろうか。この事件においても、二度目の死というものは薬物によるものというよりもショック死だったのかも知れない。それは解剖しても分からないもので、そもそもこんな形の殺害方法など今までに例もないだろうから、過去の事例も存在しないと言ってもいいだろう。だから鑑識や監察医が分からなかったとしてもしょうがない。となると、やはり犯人として裏で色を引いている人物がいる。その人物は事件に直接自分の手を下しているわけではないので、事件として真犯人を探そうとすると堂々巡りを繰り返してしまう可能性があるんじゃないかな?
 と考えた。
 そうなると、実行犯とは違う黒悪である主犯を責めるには、正攻法ではなく、もっと単純に、
「被害者が死んで得をする人間、あるいは被害者に恨みを持っている人間。そして、実行犯を操ることのできる立場にいる人間――
 を探すことであろう。
 最後の実行犯を操ることができるかどうかは、すでに事件が遂行され、実行犯も主犯も自分たちの「守り」に入ったのだから、そのボロを出すというのは、そう簡単なことではない。
 つまりは、犯人において自分と実行犯との関係が立証されなければ、真犯人は絶対に安全なのだ。
 しかし、犯罪においてリスクを伴うものの中に、
「共犯者を作ること」
 というのがある。
 それは共犯者がおじけづいたりして、警察に自首するなどと、計画にない行動をするようになると、実に困ったことになる。
 共犯を伴う場合は、まず最初から最後までの犯罪計画を練りに練って、推敲に推敲を重ねて完璧なものにして。さらに、それを完璧にやり遂げる必要がある。少しでも綻びが生じれば、そこから導き出される結果は、最初の計画をまったく逸脱したものとなるに違いない。
 そんなことになってしまうと、先が思いやられ、犯人同士、まったく違った方向をみてしまうことで、相手の心変わりを見逃してしまうだろう。
 犯罪を犯してしまった後であれば、もうそこは完全に受け身状態である。自分からの攻撃はタブーであり、いかに事実を隠蔽するかということに掛かってしまう。
 犯人にその意識があるだろうか。あったとしても、この心境の変化に果たしてついていけるだろうか。それを思うと、自分の考えが完璧でなければいけないことを示している。
 完璧であるものというのは、融通が利かなかったりする。そうなると、犯人が二人とも明後日の方向を見ていたりすると、その先は想像するだけでもおぞましい。自己防衛のために最初の計画は完全に瓦解し、人間の本能のままに突き進むようになれば、これは警察の思うつぼに嵌ってしまう。
 それにしても、アナフィラキシーショックを使った殺害事件というのは、あまりにも突飛な発想だが、如月祥子の部屋で見たハチミツからここまでの発想ができたのは、如月祥子の、
「そういえば」
 という言葉からであった。
 如月祥子が実行犯の片棒を担いでいるとすれば、真犯人にとって、予期せぬ綻びが、今生まれた瞬間なのかも知れない。
 ただ、その綻びが事件を一変させてくれるとは、さすがの坂口刑事も思っていなかっただろう。
 アナフィラキシーショックというのは、アレルギー。しかも毒には致死量が入っていなかった。
 しかも使用したのは麻薬である。社長が麻薬を摂取している人はそんなにたくさんはいないだろう。
 いくら被害者がなくなってしまったからと言って、その入手ルートはなかなか分かるものではない。下手をすると、社長への入手ルートというものは、社長が死んだことで、決して表には出ないように、影も形もなくなってしまっているかも知れない。麻薬の入手ルートに関しては、捜査としては絶望的ではないかと思うのだった。
 麻薬というのは、そのもの自体が、
「人をショック状態に貶めて、感覚をマヒさせることで、快楽を与えられ、次第に身体の奥からその人を蝕んでいくのだ。
 一時期、団地の奥さんが嵌っているという社会問題があったという話を聞いたことがあったが、急速に庶民に広がった時期があったはずだ。その分、入手がそれほど困難ではない軽めの麻薬によって、
「広く浅く」
 麻薬というものが蔓延した時期があったことだろう。
 今回の麻薬もそんな安価なものだろうか。社長とのあろうひとがまわりに黙ってやっているのだから、それなりの麻薬であることに違いはないだろう。
 となると、他の人が用意した麻薬? そもそも誰にも知られずにやっていたはずなので、麻薬の種類など分かるはずもないだろう。それなのに、鑑識に怪しまれないほどのものを用意できたのだから、真犯人は本当に社長に近くなければいけない。
 社長の女であれば、社長の裸を見るわけだから、注射の痕でもあれば、それが薬をやっていると分かるだろう。麻薬注射というのは、いつも同じところに針を打つと。当然のことながら、内出血のような黒い斑点ができているはずだからである。
 容疑者となっていた川崎晶子や如月祥子には、社長と関係があったような気はしない。二人が容疑者になったのは、社長に恨みを感じているタイプの二人なので、身体を重ねるようなことはしないと思う。確かに恨みが強く殺意を抱くほどの相手であれば、自分の身体を許すくらいのことはあってもいいのかも知れないが、少なくとも二人にそこまでの殺意があったとは思えない。しかも、川崎晶子のように彼氏に自殺された女が、好きでもない相手に身体を許すとは思えないのだ。あくまでも坂口刑事の建艦というだけなので、個人的な意見でしかないが、二人を主犯から外すとなると、社長とはそこまでの関係だったということはない気がする。社長の方が女にだらしないというわけでもなさそうなので、そうなってくると、社長とこの女たちとの関係は、さほどのものではないのかも知れない。
 ただ気になるのは、二人が社長に薬を渡した二人に思えてならないのはなぜだろう。ひょっとすると、麻薬は社長相手に使おうと思っていたわけではないのではないか。その相手がそのたくらみを知り、逆に社長相手に利用したと思うのは、それも突飛な発想なのかも知れない。
 そんなことを考えていると、如月祥子が何かを思い出したようだ、
「今、またふと思い出したことがあったんだけど」
 と口火を切った。
 どうやら、この女性は話をしているうちにいろいろ考えていくと、思い出すというよりも思い出すことが事件に関係しているということを理解したうえで、話をしてくれているようだ。
「どういうお話なのかな?」
 と坂口刑事が聞くと、
「実は、東雲社長という人は、おかしな性癖をお持ちだというのを、誰だったかから伝え聞いた気がするんです」
作品名:殺意の真相 作家名:森本晃次