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殺意の真相

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 麻薬が着れると本当に苦しいという。社長もその苦しみから逃れようと二本目を差したのだろうが、一本目は致死量に達していなかったというではないか。それなのに、そんなに苦しむものなのか、確か麻薬誘発のような毒のようなものを摂取していると言っていたが、そんな話は聞いたことがないような気がした。
 しかし、監察医の話なのだから、なまじウソでもあるまい。クスリを打つことでそれまでなかった身体の変調が起きていたのかも知れない。
「そうか、それこそいつであってもよかったんだ。このいつであってもいいというのが、死亡する時だと最初に思ってしまったことで、このことに気付かなかった。社長の身体にまず最初、毒気を回すだけの効果が得られればよかっただけなのかも知れない。そう考えると、二発目の注射は偶然が重なっただけで、毒を摂取する必要などない。つまりは、致死量以下に毒を仕込んだ人にとって、必ずしも殺意があったわけではない。そういう意味で社長が死んで一番驚いているのは、一回目のアンプルと、二回目のアンプルを作った人たちだと思う。なぜかというと、同じ人間であれば、一緒に混入しておく必要はない。一本の注射で様子を見て、その状態で二本目をゆっくりと渡せばいいだけなのだ。殺意があったのだとすれば、一人で行ったことなのだろうが、そこに二つ用意しなければいけない必然性はどこにあるというのか、それを思うと、アンプルを作った人間は別々にいて、それぞれに殺意があったわけではないと言えるだろう」
 と、坂口は考えた。
「アルコールが入っている時の方が、いいアイデアが浮かんだ李するものなのかも知れないな」
 とほくそ笑んだが、明日このことを門倉刑事に進言することで、少し事件の様相が変化してくるのではないかと思えた。
 この事件にターニングポイントがあったとすれば、この発見だったのではないかと後になって思うのではないかと感じた坂口刑事だった。

                 欺瞞の正体

 さすがに酔いつぶれる寸前まで来ていた坂口刑事であったが、自分の閃きに感動したのか、頭が冴えてきた気がした。たださすがに体力的にはまだ指が痺れていたりと、自分の思うようにならないことを自覚していたので、その日は家に帰ってまずはゆっくりと寝ることにした。
 そういえば、久しぶりのゆっくりした時間である。本当なら飲まずに帰ればよかったのだが、思わぬ発見ができたと思うと、、
「世の中何が幸いするか分からんあ」
 と感じた。
 確かに、坂口刑事の感じた通り、最初の薬の摂取がいつでもよかったのだとすると、一番今恐怖を感じているのは、最初の薬を作った人だろう。その人は、もう一つの薬を作った人間でないことは明白なので、そんな薬が存在するなど思ってもいなかった。それなのに、致死量にも達していないはずの薬で死んでしまうなんて想像もできなかった。本当は短い時間で再度摂取することを実験してみて、これがうまくいけば、被害者を徐々においつめることができると思っていただけで、本当の殺意はその時になって生まれるかどうかということで、まだ殺意などこの世に存在すらしていなかったことだ。
 当然、何がどうなって社長が死んでしまったのか。事実関係だけを積み重ねると、殺したのは自分ということになる。死ぬはずのない薬で死んだという恐怖も手伝って、自分が追い詰められることになる。そんな恐ろしい状態に自分がその身を置かなければならない運命を呪ったことだろう。
 もちろん、二つ目の薬を用意した人間もビックリしたことだろう。どうして社長が死んでしまったのか、不思議でしょうがないはずだ。
 坂口は、翌日、もう一度、如月祥子を訪ねた。彼女を訪ねて何かあるというわけではないが、何か聞き忘れていることがあるかも知れないという思いと、もう一度会おうと思たのは、各務原と話をした上で、さらに何か気付かなかったことに気付くかも知れないという、一緒に、
「一縷の望」
 に過ぎなかった。
 彼女もさすがに昼間の仕事がなくなったので、アポイントも取りやすかった。
「すみません、もう一度お話を伺いたいのですが、お邪魔しても構いませんか?」
 と電話を入れると、
「ええ、大丈夫ですよ」
 と軽やかな返事が返ってきた。
 警察がもう一度事情を聴きたいというと、普通なら、
――疑われているのではないか――
 と思い、委縮するのだろうが、今までの捜査が進んでいなかったのだとすれば。自分も容疑者の一人であることに違いはないのだから、二度目の事情聴取も分からないでもない。   しかも、本当に疑わしいのであれば、出頭を求めるか、直接やってきて、家宅捜索令状を見せて家を家探ししたりするものではないだろうか。あるいは、
「署までご同行を」
 などと、重要参考人にされてしまうのがオチである。
 それがないということは、警察も捜査が停滞しているということか、それとも容疑者を絞り込めていないということだろう。それなら、今のうちにこちらの容疑が晴れるような事実がなかったかを思い出す方がいい。それも一人で考えているより、むしろ刑事さんがしてくれた室温で、ふっと思いつくこともあるだろう。それくらい尋問される方としても、刑事を利用したとしてもバチは当たらないと如月祥子は思った。彼女は実に聡明な女性である。
 そろそろ刑事が来るだろうと思って待ち構えていると、果たして呼び鈴が鳴った。約束の時間とほぼ狂いはなく、誤差の範囲も踏襲していた。
「いらっしゃい。お待ちしていましたわ」
 と、まるで恋人でも来たかのような雰囲気に少し驚いた坂口だったが、
「忙しい仲をお伺いして申し訳ありません」
 と言って頭を下げると、
「いいえ、どうぞ中にお入りください」
 と言って招き入れてくれた。
 明らかに最初の時の緊張感は消えていた。本当に自分が彼女の恋人で、部屋に遊びにきたかのような錯覚を覚えるほどだった。
 すでに紅茶が用意されていて、いい匂いが部屋の中に充満していた。いかにも英国風をイメージさせる雰囲気にすっかり温まっている部屋で、すでに自分がリラックスしてくるのを感じた。
「アールグレイを入れてみました。最近私紅茶に凝ってるんですよ」
 と言って、こちらにも勧めてくれる。
「刑事さんは甘いのお好きかしら?」
 と言って、砂糖とその横にハチミツのようなものが置かれていた。
「これは?」
 と坂口刑事が指差すと、
「これはうちの田舎から送ってきてくれたハチミツなんです。私は健康に気を遣っていることもあって、実家から時々送ってきてくれるものをこうやって使うんですが、こちらを使用されるといいと思いますよ。甘いですが、佐藤よりも健康にはとてもいいですからね」
 と言って、勧めてくれる。
「では、お言葉に甘えて」
 と言って、スプーンですくって、紅茶に垂らした。
「いや、なかなかおいしいですよね。ご実家では養蜂場もされているんですか?」
「ええ、ミツバチを飼っています。ハチと言っても、ちゃんとしていれば刺したりしないですし、優しいものですよ」
「そうなんでしょうね。それにミツバチだったら、そんなに毒も強くなさそうだし」
 というと、ふと彼女が思い出したように、
作品名:殺意の真相 作家名:森本晃次