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殺意の真相

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「そう言えると思います。そのことはさすがに本人が死んでしまっているので、ハッキリとは立証できませんが、ここ三日間で調べたことを総合すると、そういうことになるのではないかと我々は考えました。今、警察の方でどのような捜査が進んでいるのかはわかりませんが、今我々が調べてきたことで、捜査に進展があったり、逆に捜査の妨げになるかも知れませんが、今の報告を考慮に入れて、今後の捜査を行ってほしいというのが我々の希望になります」
 と、観察主任は結んだ。
「いや、ありがとうございます。ご忠告いただいた通りに、少し考えを改めながら、捜査を続けてまいることにいたします。今日はどうもありがとうございました」
 と言ってm門倉刑事は頭を下げた。
 観察主任も、普段から気心の知れた門倉刑事だったので、それほど怒られることはないと思っていたが、ここまで丁寧にされるとさすがに恐縮してしまったのか、深々と頭を下げて、捜査本部を後にしていった。
「いやか、坂口君、聞いての通りだよ」
 と、門倉刑事も頭を掻いていた。
「するとどういうことになるんでしょうか? 東雲社長に恨みを持っていた人が偶然薬を使って同じタイミングで社長を苦しめようとした。しかし、それは致死量に至っていないので、殺すまでには至っていない。そんなことってあるんでしょうか?」
 と坂口刑事が言うと、
「普通に考えると何とも言えない話だよな。こんな偶然は普通なら考えられない。そうなると、二人の実行犯を裏から操っている人物でもいるということでしょうか? さっきの観察主任のお話を聞く限り、実行犯が二人いて、その後ろに主犯がいるということになるんでしょうか?」
「そういうことになるね」
 と言われたので、坂口刑事は先ほどまで自分が抱いていた疑念を門倉刑事にぶつけてみることにした。
 すると門倉刑事は、
「なるほど、君の意見がそれなりに信憑性はあるような気もするけど、今の観察主任の話を聞くと少し変わってくる気もするね。君の意見からは、川崎晶子と如月祥子の二人は完全に犯人ではないということも考えられたのだけど、ひょっとするとやはり何らかの関係を持っていると思わないわけにはいかないよな。そして、その後ろには黒幕のような存在も見え隠れしているということだ。そうなると、まず洗ってみるのは今までそれぞれを単独で考えていた川崎晶子と、如月祥子がどこかで繋がっているというところからになるのではないかな? そのうちに黒幕もあぶり出せればいいんだけどな」
 と言った。
「私もそう思います。それともう一つ重要な点ですが、被害者の東雲研三が本当に詐欺を行っていて、被害者の中に川崎晶子の彼氏がいたかどうかというのも調べる必要がありますね。まずは最初はそこから捜査が始まっているのですから、根本から調査をし直す必要もあると思います」
「そうだな。間違ったままの捜査をするわけにはいかないからな」
 と言って、門倉刑事は坂口刑事の意見に全面的に賛成だった。
「では、私はまず川崎晶子と如月祥子の関係について捜査してみます」
 と坂口刑事がいうと、
「よし、じゃあ、こっちでは東雲社長の詐欺行為につぃて、捜査してみよう。一緒に川崎晶子の彼氏が自殺した事件というのも並行して調べることにするよ」
 と、門倉刑事が言った。
「よろしくお願いいたします。その後の捜査として、第一発見者である各務原という男も何か胡散臭い気がするんですよ。あいつ、やたらと社長に近い存在じゃないですか。しかも会社内でもベールに包まれた存在なので、何を考えているのか分からないところもある。化けの皮を剥がす必要はあるような気がするんですよ」
「それは言えるかも知れないな。私も各務原という男は、ただの第一発見者なだけではないような気がしているんだ。何しろ、第一発見者を疑うというのも、事件の鉄則でもあるからね」
 と門倉刑事は言って、少し笑った。
「そうですね。普通の殺人事件でもそうなんだから、今回のようにいつ被害者が死ぬか分からない状態だったので、彼は第一発見者としてその立場を犯人から隔絶することもできたんですが、逆に被害者の様子を見に行ったとも言えなくもないですよね。死んでいれば自分が第一発見者、まだ生きていれば、社長のご機嫌を伺いに来たなどと、何とでも言えるでしょうからね」
「そうだね。それともう一つ気になったのは、東雲社長がやっていたクスリの出所なんだ。会社の社長がクスリに簡単に手を出すとはなかなか思えない。それに彼は几帳面な性格だというではないか。そんな社長という職にある彼が、きっと魔が差したか何かなのだろうが、薬に手を出すようになったのはどうしてなのか、そのあたりを調べる必要もあるのではないだろうか」
 と、門倉刑事も言った。
「そうですね。そのあたりは麻薬捜査課にも話を聞いてみないといけないですよね。彼らの方で内偵をしているかも知れないし。ひょっとすると意外な人物の名前が出てくるかも知れない。そう思うと、事件に進展が出てくるとすれば。案外そのあたりからかも知れませんね」
 と、坂口刑事が言った。
「事件というものを最初にいくつか切り離して、それぞれに信憑性を積み重ねていくか、あるいは減算法で、矛盾を消していくかによって精査された内容と、一つに結び付けた時、さらにそこに矛盾があると、改めて矛盾を解決する。そして細部にわたるまで検証してみて問題なければ、それが真実だというのが、捜査なんじゃないかな? ただし、一つ気を付けておかないといけないのは、真実がすべて事実だとは言えないということ、そして逆に事実が真実を網羅しているわけでもないということ。それを踏まえたうえで層をすることが必要なんじゃないかな?」
 と、門倉刑事は言った。
「分かりました。そのことを再度肝に銘じて、捜査するようにします」
 坂口刑事は、門倉刑事の話したことは自分の捜査方針と何ら狂いのないことを分かっていた。
 門倉刑事も、坂口刑事が同じことを考えているのを分かったうえで、敢えて口にした言葉だった。
「重要なことであれば、何度でも念を押すくらいの方がいいんだ。重要なことほどマンネリ化してしまうと、意識が薄れてきて、肝心な時に忘れてしまうことになりかねないからな」
 と、門倉刑事が言っていたのを、坂口も思い出していた。
――やはりこの人は尊敬するに値する立派な刑事さんだ――
 と感じた。
「それでは、明日から今の方針に沿って、捜査に当たります」
 時間的に、もう表も夜のとばりが降りてくる時間だった。
 街中は繁華街などネオンがチカチカしていて、眩しいくらいだ。ただ、昨今は繁華街を練り歩く人はめっきりと減ってきていて、防犯という意味ではいいのかも知れないが、以前の繁華街を見てきた人間には若干の寂しさが残っていた。
――こんな街の中にも、まだ顔を出していない殺意であったり、すでに計画は出来上がっていて、後は実行するだけの犯罪もあるかも知れない。もしやこう思っている瞬間に、誰かが殺されているかも知れない――
 などと思うと、自分が刑事であることの因果を思い知らされた気がした。
作品名:殺意の真相 作家名:森本晃次