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殺意の真相

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 ということは、それから十五分もしないうちに分かったことだ。朝の通勤時間を過ぎて、静けさを取り戻しかけていたこのあたりがいきなり型魂騒音が鳴り響いたのだ。
 その音は、パトランプの音だった。
 次第に音が大きくなってきて、その音が一台が発するものではなく、数台の発する音だと分かっただけで、ただ事ではないことは明らかだった。このあたりは元々閑静な住宅街というイメージがあっただけに、パトカーのサイレンが鳴り響くなど、あまり考えられないことだった。それだけでも異様な雰囲気なのだろうが、パトカーがやってきたのが、この山間に面したマンションで何かが起こるなど誰も想像もしていなかったので、さぞや近隣の住民がビックリしたことだろう。
 しかし、肝心のマンションの住人は、元々少ないということや、半分近くは会社の事務所であるということ、そもそもそれほど部屋もいうほど埋まっていないということもあり、それほど騒いでいるということはない。
 相変わらず、扉を開けて通路を覗く人もおらず、通報を受けた警官が急いで駆けつけた時、
「こちらです」
 と、問題の部屋の扉から顔を出している男がいるだけだった。
 警察官が数人走って中に入っていったが、次の瞬間、
「ワッ」
 という声が聞こえてきた。
 玄関を入って通路側の部屋の扉や、バストイレへの扉を抜けていくと、その奥に、リビングが広がっていて。その手前がダイニングキッチンのようだった。
 部屋は、二LDKの部屋で、リビングが少し広くなっているようだった。
 リビングの左側にもう一部屋あり、和室になっていた。その部屋をこの部屋の住人は寝室にしていたようで、畳の部屋になっていて。その上にはまだ寝床が敷かれたままになっていた。
 その上にうつぶせになって、いかにも倒れているという感じの男性が両方の腕を前に突き出し、左右は対称ではなく、右腕の方が少し先に延びているようだった。横を向いているその表情は険しく、断末魔の形相を呈していたのである。
 目はカッと見開いて、瞬きをまったくしない。どこを見つめているのか分からないが、その形相の激しさは、もう息がないことは明らかであった。
 その様子を見ながら、すぐ横に男が一人立ち竦んでいる。時間が少し経っているからだろうか、顔を見るとすでに落ち着きを取り戻しているかのように見えただ、さすがに警察が入ってきて、沈黙の中で黙々と作業が行われているのを見ると、事の重大さをいまさらながらのように思い知らされているようだった。
 黙々と作業は行われていたが、実際には喧騒とした雰囲気であることに違いはなかった。そのうちに部屋の前に、立入禁止のテープが張られ、刑事ドラマなどでよく見られる、
「事件現場」
 としての様相を呈してきた。
 警官がその男に事情聴取を行っているうちに、鑑識と思しき人たちが、県警の腕章をつけて、指紋最初のための、先にタンポポの綿毛のようなものが付いた棒で、至るところをポンポンと叩いていた。
 首から下げられたカメラを使って現場写真を入念に撮影し、部屋の至るところを探ることで、
「決して証拠品や重要な部分を見逃さないぞ」
 という信念の下、捜査が黙々と続けられていた。
「あなたが、第一発見者の方ですか?」
 と聞かれて、今まで死体のそばで立ちすくんでいた男が、一人の警官に呼ばれた。
「ええ、そうです」
 と言うと、
「じゃあ、ちょっとこちらに」
 ということで、作業の邪魔にならないように奥のダイニングのテーブルに腰を掛けるように言われた。
「もう少しすると、捜査課の刑事さんが来られるので、その時に詳しい話を聞かれると思いますが、その時はよろしくお願いします。でも、その前に基本的なことだけ、私の方で訊ねらせていただきますが、そのおつもりで」
 ということで、警官が二、三の質問をしていた時であろうか、扉の方からドタドタと数人の人が入り込んできたようで、いよいよ広いと思っていた部屋が狭く感じられるほどになってきて、臨戦態勢になってきたことを感じた。
 入ってきた人たちはパリッと下スーツといういで立ちで、警官たちに敬礼をすると、彼らから、
「ご苦労様です」
 と、あまり大きくない声で挨拶をされていた。
 挨拶をされた方は、無言で敬礼をして、次に発した言葉は、
「状況はどうなっている?」
 ということであった。
 彼らは明らかに刑事であり、これが先ほど言われた、
「捜査課の刑事」
 ということであろう。
「被害者は、東雲研三という人物で、この部屋の住人だろうです。この部屋は被害者が個人で借りている部屋ですが、基本的には被害者の一人暮らしだったようです」
「基本的にというと?」
「この部屋は被害者の、一種の別宅であり、自宅は別にあるそうです。被害者は会社社長をしていて、ここで一人になりたい時に利用しているそうなんですが、たまに今回の発見者である方が宿泊することもあったそうです」
「発見者というのはどういう男なんだ?」
 と刑事が聞くと、
「名前は各務原正孝というそうですが、秘書というか、参謀のような仕事をしているようで、基本的には本当のプライベート以外では社長と一緒にいる時間が多いようです」
「なるほど分かった。それでは発見者に話を訊こうか」
 と言って、ダイニングで控えている男のところに向かった。
「今回は大変なことでしたね。お察しいたします」
 と刑事がいうと、
「いいえ、でもビックリしました。本日は社長から朝出勤前にこちらに伺うようにということを言われていたので、普段と変わらないくらいの時間に来たんですが、まさか殺されているなどと思ってもいませんでした」
「それはさぞかしビックリされたことでしょう」
「ええ、。普段の社長は寝ていることもあるので、気配がなくても、不思議には思わなかったんです。だから最初この状況を見た時も正直何が起こったのかまったく分からない状況で、金縛りに遭っていたという感じですね」
「さきほど、普段と変わらぬと言われましたが、こうやって朝から社長を起こしにくるようなことも結構あるんですか?」
「ええ、私は基本的に社長のそばに仕えているのが仕事のようなものですから、頻繁と言ってもいいでしょうね」
 と、各務原は言った。
 各務原という男は、警察の事情聴取を受けているというのに、実に落ち着いている。その落ち着きは刑事の中に、何か疑惑を感じさせるほどであり、百戦錬磨は刑事の方だけではなく、この男にも同じものを感じているようだった。
「社長から、朝来てほしいというのは、前の日の仕事が終わる前から決まっている感じなんですか?」
「ええ、そうですね。たまに携帯に連絡があって、明日の朝は来てくれと言われることもありますが、それは本当に稀ですね。仕事上の問題が大きいでしょうか」
「じゃあ、今日は前の日から分かっていたことだと思っていいわけですね?」
「ええ、それで差し支えありません」
「社長は夜遊びや何かをしていて、夜で歩いたりするので、朝は起こしてほしいというような感じなんでしょうか?」
作品名:殺意の真相 作家名:森本晃次