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殺意の真相

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 と手短に答えたが、本当は彼の言う通り、刑事の聞き込みは二人が基本だ。
 ただ、決まっているわけではないので、坂口のような相手を見る目の鋭い刑事は、えてして一人で事情聴取をすることもある。相手が一人だと、聴取される方も緊張してしまうということもあるが、一つの一貫した話題に終始できるということもあるので、そういう時は一人が多い。
 ただし、一人で事情聴取できる刑事は決まっている。坂口のような刑事になるのだが、いくら刑事と言えどもここまでのことができる人は、そうたくさんはいないだろう。県警内でも数人いればいい方ではないだろうか。
 昨今の犯罪も多様化しているということもあり、旧態依然たる聞き込みではなかなか解決への糸口をつかぬは難しい。犯罪のプロファイリングというのも以前から試されているが、なかなか科学捜査においついてこないのも無理もないのかも知れない。
 精神的なことは科学で解明できないものも多いので、そのあたりも難しいところではあるが、坂口刑事のような刑事には、昔のような堅物のようなところがないので、科学捜査と精神的な捜査との間に大きな結界が存在していることも分かっているので、微妙な部分に抵触しないように気を付けながら、捜査に望んでいる。
「ところで、各務原さんは、社長がなくなってからはお仕事も大変なんじゃありませんか?」
「いえ、実はそうでもないんですよ。基本的には総務が形式的な手続きや、葬祭などはすべてを取り仕切るので、私の出る幕はありません。何と言っても彼らはプロですから、手配から手続きまで、事務的にこなしていますよ。私の場合はその事務的な部分以外の思考能力を問われるところで社長と接していましたので、会社組織とは別扱いなんです。だからそういう意味では、社長が亡くなった今、私歩運命も風前の灯火のような感じですね。もっとも次期社長になられるかたが、私を再雇用してくれるというのであれば、話は別なんですけどね」
 と言って、各務原が笑った。
「まるで顧問弁護士のような感じですね」
「そうですね。弁護士とは違いますが、一種の顧問に近い形でしょうか。会社にいながら、会社の業務とはまったく切り離したところで私が存在していますからね。ただ私の形式的な経費だったり給料は、総務部を通していただいていますけどね」
 と各務原は説明した。
「なるほど、ちょっと変わっていますね」
「ええ、それがどうも社長のやり方のようで、これは先代の現会長の時からだったようですよ」
「ほう、ということは世襲会社だということですね?」
 と、坂口は知っていながら聞いてみた。
「ええ、うちの会社は現会長が一台で築いた会社で、現在は亡くなった社長が二代目だったわけです」
「ということは、会社の方も大変じゃないですか? 社長が不在の場合はどうなるんですか? 副社長か誰かがいて、とりあえず社長代理か代行という形になるんでしょうか?」
「そのあたりは僕も分からないんですよ」
「ちょっと待ってください。あなたは相談役というか、参謀のような役目ですよね? 普通なら社長代理であってもおかしくないような立場にいるんじゃないんですか?」
「普通ならそうかも知れません。でも私は、あくまでも社長にとっての相談役であり、参謀なんです。それは、会社の中の社長という意味ではなく、東雲社長個人のという意味です。だから東雲社長が亡くなった今、私はもう用済みなんですよ。一種のお払い箱になってもしょうがない。そういう契約だったんです」
 と、各務原は言ってのけた。
「そんな会社が今も存在しているんですね。そもそも世襲会社だったり、同族会社というのは、なかなか続かなかったりしそうなものだという認識しかなかったので、少しビックリです」
「そうですよね。今の企業は、どこかの傘下に入ったり、吸収合併されて、同党の立場のグループ会社を設立でもしないかぎり、業界トップでもない限り、まずは倒産の憂き目にあう。そういう意味ではよく生き残っていられますよね。私は少々呆れているくらいなんですよ。そういう意味で、社長という人間を観察するということでのこの会社での参謀としての立場は実に面白いものだった。そう思わなければ、正直やってられないですよ。個人相手の参謀というのは名ばかりで、社長のある意味、尻ぬぐい的な仕事はですね」
「そんな仕事もしていたんですか?」
「何と言っても一企業の社長ですからね。それだけの何かはありますよ。さっきもあなたが言ったように私は顧問弁護士のような感じなんですよ。さっきはうまいことをいうと思いましたけどね。そう、顧問弁護士って、何でも裏のことをするじゃないですか、例えば社長のドラ息子がどこかで悪さをすると、その尻ぬぐいをしたりですね・この会社にも顧問弁護士は存在しますが、それはあくまでも会社として社長を守るというものなんです。だから、会社あっての社長なんですが、私の場合はまず社長なんです。社長合っての会社なんですよ」
 と言ってのけた。
「じゃあ、極端な話になりますが、社長が助かるのなら、会社を犠牲にしてもいいとでもいう感じですか?」
「そうですね。だから、もしそんなことになれば、私と顧問弁護士は完全な敵になるわけです。似た立場ではあるけど、事情が変わればまったく違う、正反対の立場になるわけです。他の会社では考えられないことでしょう?」
 という各務原に対して、
「ええ、そうですね。なるほど、だから如月祥子さんが事務をしているような風変わりな会社も存在するわけですね。社長直属という意味でいけば、参謀としてのあなたと、会社とはまったく別組織というべき如月祥子さんのような会社も存在する。そもそもこの会社を普通の会社と思ってみてはいけないわけだ」
 と坂口は答えた。
「いいえ、そうではありません」
「というと?」
「この会社は、先ほども申しましたように、社長個人とはある意味無関係なんです。社長は世襲で本体の会社の社長に就任しているというだけで、個人的にはまったく違う人なんです。そのあたりを理解しておかないと、この会社の実質も、社長本人という人もどちらも理解できないでしょう。だから、この会社はそういう意味で、他の会社とは一線を画しているので、他が食指を伸ばさないんです。下手に吸収合併などをすると、共倒れしてしまうのではないかと思うんでしょうね。実際にそういうウワサもあって、どの会社もここを攻撃もしません。だから続けられるのかも知れません。生きるために動物はいろいろな身を守るための持って生まれた特徴を持っていますが、この会社は存在自体がその身を守るために持って生まれた特徴とでもいえばいいのか、お分かりにならないでしょうね」
 と各務原は熱弁する。
――あの冷静な各務原も熱弁したりするんだ――
 と、坂口は感心した。
――それにしても、この会社は、何とおかしな経営方針なのだろう? 会社がおかしいというよりも、先代がおかしいのか、それとも現社長がおかしいのか、それとも、別の意味でそれぞれの社長がそれぞれにおかしいのか――
 と、そんな何とも言えないような気持ちに、坂口はなってくるのを感じた。
作品名:殺意の真相 作家名:森本晃次