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殺意の真相

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 かといって、先輩をないがしろにしているわけではなく、他の先輩の中にある、今まで培ってきた悪い意味での伝統のようなものに自分も巻き込まれないかという意識があったからだ。彼が自分の意見をしっかり持てるのは、まわりに対してのそういう気持ちがハッキリしていることが大きな要因になっているのかも知れない。
 坂口刑事はそう思いながら、報告していた。
 二人の女の事情聴取は坂口刑事が行ったが、他にも事情を聴く人はいただろう。その最たる例が、死体の第一発見者である各務原ではないだろうか。
「ところで、各務原氏の事情聴取はどうでした?」
 と坂口刑事は聞いた。
「うん、彼への聴取は村上刑事が行ったんだけど、どうも要領を得ないようなんだ」
「どういうことですか?」
「何か、のらりくらりとしていて、その日の行動にしても、社長のことにしても、表に出てきていることはそれなりに答えるんだけど、少しでも裏に入りそうなことに関しては、一貫して、よく分からないと言ったり、逆にこちらの質問をはぐらかせるような言い方をするんだ」
「もし、その境界線のようなものが絶妙なところで使われているのであれば、彼は海千山千ということになるんでしょうね。それだけ大胆であれば、全体的によく分からない男としてのレッテルが貼られて、終始中途半端なところに位置していることになるので、まるで容疑から外れてしまったかのような錯覚に陥る。それが最初からの計算だったとすれば、恐ろしいやつだと思いますが。本当にそこまでのやつなのか、疑問には思いますね」
「坂口君もそう思うかね? 私も最初そういう思いを持ってもいたんだが、つかみどころがないという意味で何とも言えない存在からどうしても脱却できない気がするんだ」
「とにかく、やつに対しても、あまり刺激をしない方がいいかも知れないですね。もし彼が海千山千なら、彼の目論んだとおりに、こっちも載ってやればいい。あまりにも向こうの計算通りにいけば、却って相手も図に乗ってくれるかも知れない。海千山千の連中には我々をバカにしている傾向があると思うので、そこが狙い目かも知れませんね」
 と、坂口刑事が言った。
――本当に部下でありながら、末恐ろしい――
 とまで感じた門倉刑事だったが、とにかく、坂口刑事の言葉はもっともであった。
「今度、じっくり話をしてみてくれないかな?」
 と門倉刑事は言った。
「ええ、分かりました」
「それまでに、少しやつについての予備知識を与えておこうと思うのだが、いいかな?」
 と門倉刑事がいうと、
「ええ、ありがたいです」
 と言って、坂口刑事はメモを取るのに手帳を出した。
「そもそも各務原という男は、それほど学歴があるわけでもないのに、死んだ社長がどこかから引き抜いてきて、参謀のような仕事をさせているようだ。その前出については、謎のようで、誰も知らないという。彼の履歴書も総務には残っておらず、社長が持っているという。ある意味、彼は社長枠という形での入社で、会社のどこにも所属せずに、社長の直属ということになっている。これは。先代の頃から同じような体制だったようで、それを踏襲したという意味では、この会社では特別という意味ではないようだ。先代の方も、息子が自分と同じように優秀な片腕を自分で見つけてきてくれたことに大いに感動して、各務原は先代からも可愛がられているようなんだ。そういう意味でも彼の存在というのは絶対的なものであり、誰もこの二人の関係性について何かを進言することもできず、その分、誰に聞いても謎だという答えしか返ってこなかったんだ」
 というのが、彼に対しての会社での地位で会ったり立場のようだった。
「それでは、プライベートに関しても、各務原がどれだけ社長の中に入り込んでいるかを知っている人は誰もいないということでしょうか?」
「ああ、会社の中ではな。でも、社長が彼を引き抜いたのは事実だし、引き抜くにはそれなりの確証がなければいけないはずだ。しかし、謎に包まれている彼を一体社長がどこで見つけてきたのかということだよな、思い付きで彼を参謀にするはずもないし、裏で糸を引いているやつがいるのかも知れない」
「それは言えるかも知れませんね。でも、社長が各務原から何かの秘密でも握られているということはないんですかね?」
「あるかも知れないが、それだったら、お金だけを要求すればいいだろう。何も会社に入り込んで社長の下で燻っているようなこともない。よほど各務原に会社を裏から自分で動かすということに生きがいを感じていて、どんな手段を使っても、そういう立場になりたいと思っていれば別だが、そこまで考えているとはなかなか思えなくてな。どうにもつかみどころのない人間であることは間違いないようだ」
 と、門倉刑事は言った。
 坂口刑事は黙って聞いていたが、それも一理あると思った。しかし、本当にそれだけのことなのかという疑問があったのも事実だ。この事件を解決するには、どうしてもこの二人の関係性を調べる必要があると思った坂口は、やはり、
――もう一度、各務原に遭ってみないわけにはいかないようだな――
 と感じていた。
 坂口刑事は、各務原と翌日会うということにした。社長の葬儀も終わり、会社が大変な時だけに、あまり時間を取るのも悪いと思ったので、表で話を聞くことにした。会社の応接してでも本当はよかったのだろうが、彼のような会社での立場が微妙な人は会社よりも表がいいと考えたのだ。
 しかもあまり会社の近くでは、誰に見られるかということもあり、表で会う意味がなくなってしまう。そう思うと彼の自宅の近くの方がいいと思い、その話をすると、
「じゃあ、近くに喫茶店がありますので、そこで落ち合いましょう」
 ということになり、葬儀の翌日の昼頃、彼の自宅近くの喫茶店で待ち合わせた。
 その喫茶店というのは、何ともレトロな感じのする佇まいで、まだ昭和の色を残しているような雰囲気だったが、
――夜になると、スナックにでもなるんじゃないか――
 と思うような店だった。
 なるほど、カウンターの奥は食器棚のようになっていて、そこにはお酒の瓶が所せましと並んでいた。
 中に入るとすでに各務原は来ていて、手で誘っていた。彼が座っているのは、窓際に接しているテーブル席だった。
「これはこれは、わざわざ自宅近くまで来ていただいてありがとうございます」
 と、先に各務原の方から言われた。
 事情聴取なのだから、本当は刑事の方からいうのが当たり前なのに、先に言われてしまうと事情聴取という名目が薄れてしまいそうで、
――これもひょっとすると、この男の作戦なんじゃないか――
 と思うと、どれだけ彼の頭の中を探ればいいのか、分からなくなる坂口だった。
「いえいえ、こちらこそお時間を割いていただいてあるがとうございます」
 と坂口がいうと、
「おや、今日は刑事さんお一人ですか?」
 と各務原がいうと、
「ええ、それがどうかしましたか?」
「いえね。テレビドラマなどで見ていると、刑事さんは基本的に二人ペアで行動するものなんじゃないかって思っていたので、ちょっと意外だったんですよ」
「一人の時もありますよ」
作品名:殺意の真相 作家名:森本晃次