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短編集105(過去作品)

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 寂しさは女性的な自分を表している、男性的な部分と女性的な部分が一つの身体の中で同居しているという意識を持つことで、少し自分が分からなくなってきた。男性と恋愛をしていても、
――相手は私のことをどのように思っているのかしら――
 という考えがどうしても最初に来てしまう。
 身体だけを求めているのではないかという思いが強い時期があった。あまりにも強く感じてしまったため、実際に男性と愛し合っている時、次第に蕩けるような快感の中で、急に我に返って、相手を突き飛ばしたことがあるくらいだ。
「何をするんだい」
 当然相手はビックリする。怒っているというよりも何が起こったのか理解できずにただその場に佇んでいた。
 男があっけに取られているのを見ると、自分が我に返ったことを一気に後悔してしまう。せっかくの雰囲気を自分で壊してしまったのだ。激しい自己嫌悪に陥ってしまう。
 一旦壊れてしまった雰囲気を元に戻す術をお互いに知らない。お互いに気持ちを一つにすることで盛り上げてきた雰囲気だったので、どちらかが雰囲気を壊してしまえば、もう後はない。
 男女の関係に身体の関係は切っても切り離せないものだという考え方が、美紀を苦しめているのかも知れない。だが、そんな美紀も最初から相手の男と身体の関係になることを望んでいるわけではない。男性的なところのある美紀は、なるべく最初は相手を分かってあげようと考えるのだ。相手も同じように分かってあげようと考えるところから、お互いにすれ違いもあるが、分かり合えると、まぜ相手を立てる考えになるので、結びつきは深いものに感じられる。
 数人の男性と付き合って感じたことは、自分が男性っぽい性格であることと、それでいて、恋愛とはいつ崩れるか分からない両刃の剣のようなところがあるということだった。
――恋愛はしばらくの間こりごりだわ――
 さすがに三年近く同じことを繰り返していては嫌にもなってくる。潔い性格であるにも関わらず、同じパターンを繰り返すのは、自分に強情なところがあるからではないかと思っている。
――やっぱり私って男性っぽい性格なのかしらね――
 と結局、最後はそこに行き着くのだった。
 三年近くの間、ずっと悩み続けてはいたが、男性と自分が一緒にいる姿しか想像していなかった美紀だったので、なかなか生活を変えるところまでは行かなかった。三年の間、長く続いても数ヶ月だったのに、トータルで考えれば男性がそばにいなかった時期というのは、それほど長いものではない。
――それでも長く感じるのは、寂しがり屋だからかしら――
 それだけではないようにも思えるが、いつも何かを捜し求めているように思うのは、男性の幻影だけではないだろう。
 男性と女性には超えられない平行線があるように思える。
――超えられない平行線――
 それは年齢にも言えることだろう。
 男性っぽいところがあると感じる美紀だが、本当の男性っぽさとは違っている。
 男性のようにいよいよとなって未練がましく振舞うのは許せない性格だった。
「男っていうのは、いよいよとなると、楽しかった時のことだけしか見えてこないらしいのよ」
 と友達から聞いていた。彼女も男性と付き合って長続きしない方だが、以前から長続きしないのは女性に問題があるのではと話していた人だった。
 だが、最近では、お互いに問題があると思うようになっていた。付き合って長続きしないパターンが続くと自己嫌悪に陥るのも仕方のないことで美紀もそんな時期を過ごしていた。
――時間を無駄に使っているのでは――
 というのが一番の懸念だった。だが、考える時期は絶対に必要だと思っているのも事実で、無駄な時期だとなるべく思わないようにしていた。おかげで自己嫌悪の時期はそれほど永くはなく、そこから開き直りが生まれた。
――無駄な時間なんてないんだ――
 考えてみればまだ二十歳代前半、まだまだこれからという思いである。若い頃は、少しでも年上の人は、かなり考え方に開きがあるように思っていたが、それが自分の被害妄想から来ていることに気付いてきたのは、自分がかなり年上だと思っていた年齢に達してからのことだったのは、何とも皮肉なことか。
――年齢は平行線である――
 というのを感じた時期でもあった。
 最近はあまり男性と付き合うこともなくなってきた。人と一緒にいるのが煩わしいというわけではないが、男性のわがままなところが分かってくると、一緒にいても疲れるばかりである。
――一人の時間を大切にすること――
 これが気持ちに余裕を持つことに繋がるのだ。
 馴染みの喫茶店を見つけたいと思うのもそのせいだった。
 今までは駅まで歩いても、途中に何があるかなどあまり気にもしなかった。ビルの谷間にある公園などは目に付くのだが、喫茶店など気にすることもなかった。喫茶店に一人で入るという感覚がなかったからに違いない。
 友達と行くことが多く、店の雰囲気を味わうというよりも、店の中で自分たちの世界を作ってしまって、その中ではしゃいでいる。しかし、美紀は自分からはしゃぐことはなく、はしゃいでいる友達を見ることが楽しいのだった。
 夏の終わりに見つけた喫茶店、そこはすでに秋の気配を感じさせる雰囲気作りをしているところが気に入ったのだ。
 最初は友達と入ったのがきっかけだったが、いつの間にか一人でも入るようになった。オープンテラスには木で出来た机と椅子が置かれていて、銀杏並木の道沿いは、まるで外国映画を見ているような感じだった。
 あまり客も多くなく、ほとんどが常連客であることは、二回目に来た時には分かっていた。バーテンの服装が似合うマスターの趣味なのか、壁にはアルプスの山々の壮大な景色のパネルが飾られている。どこか山小屋を思わせる店内に、実にマッチしていた。
 店の中まで聞こえてくるセミの声を感じながら、万年雪の風景画を眺めていると、クーラーが寒く感じられるから不思議だった。
 その店には二階があって、二階はベランダ形式になっている。大通りに面しているので景色はあまりよくないかと思いきや、遠くに見える電気屋のネオンサインが妙に懐かしさを誘うのだった。
――そういえば田舎から出てきた時に最初に見た看板だったな――
 地場としては大手の電気ビルを本社に持つ家電センター、就職活動の時、花形企業として紹介されていたものだ。
――あんな会社に就職できればな――
 と思った時期もあったが、接客業に向かないことは最初から分かっていたので、今の事務職がささやかな幸せを奏でているのではないだろうか。
 平凡な生活ほど難しいと言われるが、美紀にはピンと来なかった。今まで波乱万丈の人生を送ってきたと思っていたが、実際に男と付き合わなくなって女性の友達が増えたことでいろいろな男性についての話を聞くようになった。
 中にはかなり露骨な表現が出て、こちらが赤面するほどであったが、話している本人はあっけらかんとしたものだ。
――恥じらいというものがないのかしら――
作品名:短編集105(過去作品) 作家名:森本晃次