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短編集105(過去作品)

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パズルのピース



                パズルのピース


 真希が夫の達男と結婚して、そろそろ七年が経とうとしていた。七年といえば、一度自分たちの生活を思い直すちょうどいい時期ではないかと真希は感じていた。
 この七年という期間、長かったようで短かった。最初七年と聞くと、
――短いようで長かった――
 と思うに違いないと思っていたのだが、逆だったということは、それまでの人生が実につまらないものだったことの裏返しのように思えた。
 真希は性格的にハッキリしていた。物事を二つに分けて考えられる性格である。
――皆無か、すべてか――
 結論をそこに求めないと気がすまない性格だとも言える。
「でも、もう三十歳に近くなるんだから、そんなんじゃダメよ」
 学生時代の友達と話をした時に聞かされた。真希の友達も結構同じような性格の人が多い。
――竹を割ったような性格はあっさりしていて気持ちいい――
 それが真希の考え方だった。
 そういう意味でいけば、夫の達男は実にだらしない男性であった。
 元々無口で、自分からハッキリと気持ちを口にするのが苦手で、結局は相手に何でも決めさせて、自分は後から賛成するという性格で、本当なら真希はあまり好きになれない性格だった。だが、学生時代に散々遊んできた真希が遊び疲れていたのも事実かも知れない。
 ちょうどその頃親戚が、たくさんの見合い話を持って来ていた。世間によくある「おせっかいおばさん」の類が親戚にいたのだ。
「真希ちゃんも年頃なんだから、そろそろ結婚を考えてもいい頃じゃないかと思って」
「おせっかいおばさん」がリビングで写真を広げて母に話している。おばさんは父方の親戚に当たるので、母としても無下に断ることもできない。しかも母親としても、
「そうねえ、あの娘を貰ってくれるような男性がいれば嬉しいんですけどね」
 とまるで娘のことを安売りしているようだ。
 本当だったら、
「何安売りしてるのよ。私の結婚相手くらい自分で決めるわよ」
 とそれまでのように叫べばいいのだが、実際に短大を卒業し、就職してからの真希は、どちらかというと、遊び疲れていたのだった。
 遊び疲れていた状態で就職したものだから、最初は自分の立場がハッキリと把握できなかったが、次第に仕事に慣れてくると、自分から仕事に対する情熱が芽生えてきた。
 白黒ハッキリとつける性格は、意外と事務職には向いているのかも知れない。営業ほど融通を利かせる必要もないし、男性社員の事務を一人で引き受けていると思うとやりがいもあった。
――そうそう、やりがいさえあれば自分の立場は自然と分かってくるものなのよ――
 真希は水を得た魚のように仕事が好きになった。
 学生時代からやりがいを求めていたのかも知れない。男性とも何人かと付き合ったが、それぞれに性格の違う人たちであった。
 最初はあまりハッキリとしない男性が多く、主導権は真希の側にあった。デートコースもすべて真希にお任せ、相手はどんなコースを選んでも、文句一つ言わなかった。ちょっとした女王様気分であった。
 かといって、表では、「男性を慕う控えめな女性」を演じていた。表と裏を使い分けることに抵抗感はなく、却って密かな楽しみもあった。
 そのことに一時自分への迷いが生じたことがあった。
「お前は二重人格なところがあるからな」
 中学時代の同級生に言われたことがあった。それも相手は男性、その時は聞き流したが、時間が経つにつれて、意識し始めたのだ。
 彼とは付き合っていたわけではないが、気になる男性であった。男性に対して自分からアプローチを掛けることにあまり抵抗を感じない真希だったが、彼に対しては決して自分からアプローチを掛けたわけではない。気がつけばそばにいつもいるような存在だった。
 かといって、彼の方からアプローチを掛けてくるわけではない。
 彼は真希に似ているところがあった。相手の出方を冷静に見る目を持っていることは最初から分かっている。だが、それだからこそ、深いところを見ることができるのかも知れない。一歩下がったところから見ているのだろう。
 気持ちの余裕とはそんなところに見え隠れしているのだろう。
 彼が初恋だった。付き合うことにならず、しばらくして気付いたというのは、何とも皮肉なことであるが、それにしても今から思い返しても、男性を意識するのが遅かったように思える。それだけ純情だったのだろう。
 だが、遅かっただけに、それ以降は男性を必要以上に意識していたように思える。
 彼氏ができるまでに、それからあまり時間は掛からなかった。どうやら真希はクラスの中でも男生徒から注目されていたようで、どこがいいのか分かっていないのは本人だけのようだった。
 できた彼氏はそれほどいい男ではなかった。成績がいいわけではなく、スポーツができるわけではない。どちらかというとだらしないタイプで、クラスでも目立たないタイプだった。
 中学の修学旅行で、同じ班になった。ほとんどが団体行動なのだが、班で自由にまわっていいという時間が半日ほど設けられたが、その時に偶然二人きりになる時間ができ、彼から告白されたのだ。
 彼氏がほしいとは思っていたが、どんなタイプの男性が好みなのか、自分でもハッキリ分かっていなかった頃である。しかも、あまり普段から意識したこともない人と二人きりになるというだけでも緊張したのに、
「誰か好きな人がいなければ、よかったら付き合ってください」
 いきなりだったのだ。もっとも、告白に時間を掛けるものでないということを知ったのはそれからしばらくしてからで、後から思えば、潔くて恰好のいい告白だったと思えるが、その時はあまりにも唐突で、どう返事してよいか分からなかった。
 考えてみれば、それから今までに何度か男性から告白をされたが、これほどストレートなものはなかった。状況が違っていたというのも事実だが、心に残っていたのは事実である。
 彼氏になってからというもの、彼の性格はさらに大人しいものになった。よく言えば気を遣ってくれているのだろうが、悪く言えば物足りない。気がつけばお互いに会話もなく、自然消滅していた。
 別れたとハッキリ言える言葉は一切なかったのは、告白にかなりのインスピレーションを感じていただけに皮肉なものである。しばらくは彼氏がほしいとは思えなかった。
 しかし、成長していくにつれ日増しに綺麗になっていく真希を、他の男性が見逃すはずはない。
 高校生になってから、いろいろなサークルに顔を出すようになった真希は、すっかりクラスの人気者になっていた。女生徒からも人気があり、なによりも明るい性格が人から疎まれることがなかったのである。中には心ない感情を抱いていた人もいるかも知れないが、表には一切出てこない。それも真希の性格の成せる業だったに違いない。
 それから短大を卒業するまでの真希には、絶えず彼氏がいた。
 告白してくれる男性もいたが、最初の彼のイメージがあるのか、それとも言葉の裏を読めるようになったからなのか、告白をしてくる人と付き合うことはあまりなかった。
「あなたは、いつも彼氏がいていいわね」
作品名:短編集105(過去作品) 作家名:森本晃次