短編集105(過去作品)
鬱状態であれば、いつかは晴れることが分かっている。だが、悪い虫が巣食っていると思った瞬間から、晴れることがないと自覚したものだった。だが、気がつけばいつの間にか悪い虫の存在に気付かなくなった。その時にそれが自殺菌を持った虫であることに気付いたのだ。
それでは川は三途の川ということになる。では、断崖絶壁は何になるのだろう?
自殺の名所と言われてピンと来るのは断崖絶壁、そのイメージが強いからであろうか。
――断崖絶壁――
それを感じるようになってから、自殺菌に関して意識をし始めた。追いつくことのできない妻と姉。聡はどちらに追いつきたいと思っているのだろう。
人生の始まりにいた女性が姉。存在を知らなかったとはいえ、確実に姉がいて、聡自信がいるのだ。
そして妻の人生の最後にいたのは、聡自身である。聡自身の人生の最後には誰がいるのか想像もつかないが、ずっと追いつくはずのない妻を追いかけているように思えてならない。
すっと後姿を追い続けなければいけない呪縛に耐えられなくなった時、初めて悪い虫が表に出てくる。聡には逆らえないだろう。それが運命であるならば……。
( 完 )
作品名:短編集105(過去作品) 作家名:森本晃次