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音楽による連作試行

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 だが、結婚する時はどうしても相手に甘えてしまうところがあるのか、それとも一度失敗しているから、自分がしっかりと考えていると思い込んでしまっていて、結果として自分のことばかりしか考えていないことになり、相手をおろそかにしてしまい、最初の離婚と同じことを繰り返してしまうのかも知れない。
 二度目の場合は、それこそ理由に気付くのは難しいかも知れない。二度も失敗すれば、少々図太い人であっても、ショックを隠し切れないだろうし、
――もう二度と自分に合う人は現れないんじゃないか――
 と思うことだろう。
 それよりも、
「もう女なんてこりごりだ」
 と思うことだろう。
 そうなってしまうと、ある程度の年齢になってくると、独身者が増えてくる。それは男女ともに同じなのかも知れない。再婚者同士のお見合いパーティ専用のところもあるくらいなので、それも当然のことであろう。
 そんな川島は、離婚して一人になると、女性に対しての不信感は大きくなってきた。
 それはそうであろう。いきなり離婚を切り出されて、訳の分からないうちに、まわりから離婚促すような話をされれば、結婚に対しても怖いと思うというものだ。
 まわりに対して、彼の相談に乗ってあげるという名目で、離婚について承諾するように匂わせているのは、明らかに女房なのだ。そんなあからさまなことをしてまで離婚したいというのであれば、さすがに男の方も身体のすべてから力が抜けていくというものだ。
 何しろ、相手が離婚を口にした時には、すでに相手の頭の中には離婚しかない。どうすれば波風立てずに離婚できるかということしか考えていないのだ。別に離婚に対しての表立った理由があるわけではないので、女房の側からすれば、別れらればそれでいいのだ。
 理由は、
「性格の不一致でも何でもいい」
 と思っていたことだろう。
 旦那の方からすれば、どんなことをしてでも離婚したいと思っている相手に対して、いまさら理由を聴いても同じなのだろう。旦那の方としても、身体の力がすべて抜けてしまった時に、ある程度覚悟はできたのだろう。
 ただ、あまりにもいきなりだったことが気に入らない。完全な不意打ちであり、卑怯だとしか思わないからだ。
 女性の側からすれば、
「あなたが気付いてくれなかったから悪いんでしょう」
 とでも言いたいのだろう。
 だが、離婚する夫婦の間に立った人が言う言葉が必ずある。
 それは、会話の問題で、
「会話がなくなれば、それは危険信号であって、相手が何も言わなくても分かってくれるなんて思っていたら、もうその時点でその二人はすれ違いが見えることになるから、よほどのことがなければ修復は不可能だね。しかも、一度修復できたとしても、すぐにほころびてしまって、今度は本当にダメになる。問題を根本から解決しないとダメなんだよ。その問題というのは、会話を少しでおできるようになることであって、それができないと、根本的な解決にはならないから、また同じことを繰り返す。そうなると傷口はさらに広がるし、子供ができていたりすると、取り返しのつかないことになる可能性だってあるんだ。まだ子供もおらず、年齢的にも若いということで、ある意味よかったと思わないとね」
 と言われたものだった。
「そんなものなのかな?」
 と川島は漠然として聴いていたが、時間が経つにつれて、その言葉の意味が分かってくるようになった。
「それはそうだよな」
 と、今でもたまに独り言ちるのである。
 二十六歳で離婚してから、
「まだまだ若いんだから」
 ということで、自分の中では三十歳くらいまでに結婚相手となりそうな人が見つかるという意識を川島は持っていた。
 しかし、ここからの四年というのは、後から考えると長かったように実に短い四年間であり、気が付けば三十歳など、あっという間に過ぎていた。もっとももっと短かったのは四十歳までであったのだが、それは、誰にでも言えることだったようであった。
 三十歳になっても、なかなか彼女もできず、自分ではまだ余裕のつもりであったが、精神と身体のバランスが次第に崩れてくるのを感じていた。
 精神的にはまだまだだと思っていても、身体の寂しさは如何ともしがたく、その身体の寂しさが、今度は精神面に影響してくるのではないかと思うと、彼女ができないことよりも、身体の我慢が焦りに繋がるのではないかと思うようになった。
 もう一つ気になってきたのが、年齢を重ねるごとに、自分の女性の好みというのが曖昧な感じがしてきて、定まっていないのではないかと思えてきたことだ。
「だから、彼女ができないんだ」
 という当たり前のことに、三十歳を超えてやっと分かった。
「ひょっとすると、前の女房も好みだと思っていたが、実は違っていたのかも知れない」
 と感じたが、あの時点では最高の女だと思っていたのは間違いない。
 では、
「別れたことで恐怖を感じ、それまでは理想の女性だと思っていたものが、急転直下し、一番苦手なタイプとなってしまったのではないか」
 と考えたことだった。
 そんな相手のことを思い出すだけで恐ろしいくらいだが、今では、
「あの頃の自分とは違う」
 と思うようにもなっていた。
 ただ、いい方に違うというわけではなく、むしろ後退してしまっているのではないかと思うようにもなっていた。
 三十歳になってから、ますます性欲の方は強くなってきたような気がする。セックスをする相手がいるわけでもない。それまでは夜の街に繰り出すこともなく、いわゆる
「遊び」
 というものをまったく知らなかった。
 思い出すのは大学時代に穿破緒から連れていってもらい、一時期嵌った風俗のことだった。
「久しぶりに行ってみるか」
 と、学生時代ぶりということになるので、約十年ぶりということになる、
 そもそも風俗も最初は先輩から連れて行ってもらったが、それ以降は必ず一人で行っていた。誰かと一緒に行くのは、何か恥ずかしいという思いもあったが、一人の方が自由だと思うことからだった。
 実際に、風俗の待合室などでは、ほとんど皆一人で黙々と待っている人が多かったが、中には数人の団体でやってくる連中もいて、楽しそうにしてはいるが、見ている方はあまり気持ちのいいものではない。そんな団体連中は、まずほとんどと言っていいほど飲んでいる。自分たちが恥ずかしいという思いを抱いているのか、やたらに声がでかい気がする。
 しかも、そんな連中は、フリーで、一番短いコースを選択している。
 川島は、どんなに短くても六十分は一緒にいることにしていた。フリーで来て、初めて当たる女の子であれば、当たり外れが分からないからだ。その時によくて、もう一度会ってみたいと思った時であれば、その時は九十分のコースを選ぶだろう。ただ、最初か写真で気に入って指名しようと思った女の子であれば、最初から九十分にすることもある。それなりに自分の目を信じている証拠なのかも知れない。
 正直六十分であれば、会話はほぼできないと思っていいかも知れない。もちろん、女の子のペースと男の相性にもよるのだろうが、川島の今までの経験から言って、そう感じるのであった。
作品名:音楽による連作試行 作家名:森本晃次