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音楽による連作試行

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 しかし、男女間で凍り付いた関係というものは、凍り付いていることが分かっているくせに、それでも強引に壊そうとどちらかはするものだ。相手がそれに気づいて止めてくれればいいのだが、相手がそれに気づかず、いや気付いてはいるが、わざと気付かぬふりをして止めさせないかで、修復ができるかできないかが決まってしまう。
 特に、お互いに温度差があれば、気持ちは完全にすれ違ってしまう。
「壊してしまえ」
 と、痺れを切らす人もいるだろう。
 男女間で特に夫婦間ともなると、
「今までは一番話しやすいと感じていた相手が、今では一番顔も見たくない相手に変わっている」
 という考えになることも得てしてあるもので、顔も見たくないという意味に二つが考えられる。
 一つは本当に顔を見たくないほど、相手を憎んでいる場合であり、もう一つは顔を見るのが怖い。つまり、今までに見たこともないような恐ろしい顔を見るのが怖いという考え方である。
 後者を感じた時、臆病風に吹かれてしまうと、本当は暖めてから解かさなければいけない状態なのに、思い余って壊してしまおうと思うかも知れない常態に陥りそうになる。
 いや、それよりも暖めるにしてもゆっくりと暖めなければいけないものを、急激に暖めてしまえば、壊すのと結果は同じである。要するに刺激が強すぎるのだ。
 どんなに硬いものでも、急激に冷やして、その後に急激に暖めれば、フニャフニャな状態に陥る。修復不可能な状態に陥るのは、凍らせた状態で叩き割るのを同じことである。物体には耐えられる限界点というものがある。刺激を与えすぎると、耐えきれなくなるのは当たり前というものだ。
 川島が離婚を言い出したわけではない。思い余って奥さんの方から言い出したのだが、後から考えると、
「女房は最初から離婚を考えていたのかも知れないな。その兆候が、話さなくなった時くらいからだったのだろうな」
 と感じていた。
 あの頃はまだ、何かあれば相談してくれるなどと、まるでお花畑にいるようなおめでたい精神状態だった自分を思い、顔から火が出るほどの恥ずかしさであったが、
「本当に離婚は、結婚の何倍もきついというが、経験してみないと分からないことだよな」
 と、感じていた。
 また、これは一般的な話として言われていることであるが、
「女性の方がギリギリまで我慢して、男性は女性が我慢していることに気付かない」
 ということを、この離婚の時に思い知らされた気がした。
 途中話さなくなったのは、どうやら夫の何かに我慢ができなくなって、話すのも嫌になったのだろう。ひょっとすると、夫が気付いてくれるのではないかと思っていたのかも知れない。
 それでも、夫の方は、
「何かあれば、女房の方から話をしてくるだろう」
 と思っていたのだから、もうこの時点で完全に平行線である。
 決して話をしてこない旦那に、妻はついに愛想を尽かし、旦那がいきなりと思ったタイミングで離婚を切り出してくる。
 旦那にしては、青天の霹靂だったに違いない。
「おいおい、何をいきなり言ってくれてるんだよ。順番が違うだろう」
 と言いたいが、あまりにもいきなりのことで言葉にも出ない。
 最初に言葉に出せなければ、次に言葉が出てくることはないのは分かり切っていることだった。今ここで言葉が出てくるくらいなら、最初から夫は話をしてくれていたはずだからである。
 女はそこまで分かっている。なぜなら自分一人で悩んで一人で勝手に結論を出したのだからだ。
 妻の方とすれば、
「どうして私が悩んでいるのに。無視するのよ」
 と思ったことだろう。
「妻の方でも自分が悩んでいる時にこそ、声を掛けてくれるのが旦那というものではないか?」
 と思っているからである。
 だが、こういう時の男性ほど、妻なら分かってくれると思っているし、妻の方も、旦那なら分かって当然だと思っている。お互いに相手に甘えているのだろうが、一緒に悩む機会があり話し合う機会があれば、また少しは違うのだろうが、最初からのスタートがそもそも違っているのだから、最初から、修復は不可能だったと言えるのではないだろうか。
「結婚なんて、人生の墓場だ」
 と言った人がいたが、結婚生活でこのような状況に陥ってしまうと、その時点で棺桶に足を半分突っ込んでいるのと同じことなのであろう。
 知り合ってから結婚するまでは、あまり問題はなかった。順風満帆に結婚にまでこぎつけた。反対する人もおらず、
「幸せな二人」
 として、皆に祝福された。
 だが、いざ離婚となると、その時に祝福してくれた人たちに合わせる顔がない。もっとも、その人たちのために結婚したわけではないので、そんな気を回す必要もないのだが、男はそうでもないとしても、女性の方ではどうなのだろう? いや、最初の時点で、完璧に離婚を考えてからの行動だったので、そのあたりの覚悟はできていたことだろう。
「それにしても女性というのは恐ろしいもので、どうして、何も言わずに話し合いもすることもなく、離婚に踏み切れるんだろう?」
 と、旦那の方は思う。
 まさか、女性の方から離婚を言い出した時にはすでに、その腹は決まっているなどということを考えもしないからだ。
 常に一緒にいて、一緒に考えて、何かあったら相談してくれるものだと思い込んでいるのは、旦那のエゴであろうか? だとすれば、相手に何も言わずに勝手に考えて勝手に結論を出すというのはどうなのだろう? あくまでも男性の立場からの話なので、女性側にも言い分があるのかも知れないが、スポーツであれば、
「フライング」
 であり、重大なルール違反なのではないだろうか。
 結婚生活をスポーツのルールに当て嵌めていいものかどうか分からないが、結婚というものが、ちょっとしたことで一気に破裂してしまう危険性を孕んでいるということに気付いていなかったどちらにも原因はあるのかも知れない。
 もちろん、不倫であるとか、DVのような離婚に値するれっきとした理由があり、それが慰謝料に結び付くような話であれば、また別である。第三者として弁護士や法律相談に掛け合うなどの問題があるからである。
 川島はそんな悲惨な離婚というものを経験した。それが二十六歳の時であり。本当であれば、
「まだまだ若いんだから、他にいい人が現れるさ」
 と言われて、その気になることができる年齢である。
 今の時代、
「バツイチ」
 などというのは、そんなに珍しいものではない。結婚する人が減っているのに、離婚率は上がっているというではないか。
 ひょっとすると離婚を経験しているくらいの相手の方が、お互いに一度失敗しているだけに、相手を考えられると言えるかも知れない。
 しかし、実際に自分のまわりに離婚した人は、一度でも離婚したことのある人が多いような気がする。
「離婚って、連鎖するのか、それとも言い方は悪いけど、癖になるのだろうか?」
 と考えたこともあった。
作品名:音楽による連作試行 作家名:森本晃次