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音楽による連作試行

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 時々今でもその言葉を思い出すことがある。
――忘れっぽいと思っている自分がこんなにもハッキリと覚えていることがあるなんて――
 と、自分でもビックリしている。
 その時の女の子は、いつの間にかお店を辞めてしまっていたので、ショックを感じ、川島も風俗通いがしばらくやんだ時期があった。
 そのうちに結婚して、新婚から仕事の面でも忙しくなったので、数年風俗から遠ざかっていた。
 それが離婚を機にまた通うようになったのだが。そこでついてくれた女の子が、まるで時代を遡ったかのように、数年前に贔屓にしていた女の子がまた自分の目の前に現れたのではないかと思ったのだ。
 もちろん、まったく違う女の子であることはハッキリしていた。その子を見ていると、
――やっぱり、自分の好みってこういう子なのかも知れないな――
 と思った。
 写真写りで選んだのだが、写真写りとは少しイメージが違っていた。だが、それはいい意味で違っていたのであって、その時、自分が終始ニコニコしていたのを、彼女も一緒になってニコニコしてくれていたのが印象的だった。
 その子とはいろいろ話をしたが、その子と話をした時も確か。何か「深い」話だったような気がする。
 この時のことは、結婚前の女の子の時と違ってなぜか会話の内容を覚えていない。ただ記憶にあるのは
「深い話だった」
 ということだけである。
 しかし、彼女とは、それから少しして会えなくなった。彼女もすぐに辞めてしまったのだ。
 またしても、風俗から遠ざかってしまっていたところに出会ったのが、この宇月さんだというわけだが、宇月さんもどこか、風俗で出会った二人に似ているような気がした。
 別に顔が似ているというわけではない。風俗にいた二人も顔が似ていたというわけではなく、共通点が多かったというイメージであろうか。
 特に二人とも、
「深い関係の話」
 をしてから急に会えなくなってしまったというのも、一種の共通点ではないだろうか。
――それにしても、まったく違ったところで、時間を飛び越えたような形で似た人に遭遇するというのも偶然というべきか――
 と考えた。
 確かに最初の二人は、風俗という環境は同じだったが、性格が似ていたとは思わない。そういう意味ではまったく違った場所で出会ったと言ってもいいくらいの二人だったので、三人が自分の中でそれぞれ延長線上にいるようで、三人が自分の中で平行線にいるのかどうか、想像してみたが分からなかった。
 今のところ、宇月さんは自分に対して、「深い」をテーマにしたような話をすることはなかったので、それほど気にしているわけではないが、どこかで三人を無理やりにでも結び付けようとしている自分がいるのだとすれば、その真意はどこにあるというのだろう。下手に突き詰めてしまうと、宇月さんとの別れを自分で演出してしまいかねないではないか。
 宇月さんに対して話をしたことで思い出すのは、モノを捨てられない話の時くらいであろうか。
――何か、僕に対して怒りをぶちまけていたような気がするな――
 と思うと、風俗嬢の二人も自分に対して何か言いたいことがあったような気がする。
 もちろん、客と風俗嬢という仲なので、客を怒らせるわけにはいかない。しかし、あの二人はその中でもいうべきことは言ってくれたような気がする。
――そうだ、共通点はそこにもあったんだ――
 何を言ってくれたのだろうか?
 そうだ、確か二人ともに、モノを捨てられないというような話をしたような気がする。最初の女の子は、
「私もモノを捨てられない性格なのよ」
 と同意してくれていたと思う、
 しかし、捨てられない理由が違った。彼女が捨てられないというのは、人からもらったものばかりなので、捨てるわけにはいかないという理由だっただろう。確かに彼女を見ていると差し入れの一つも持ってきたくなるタイプの女の子だ。どんどん皆が持ってくるので、彼女としては困っているという。
「私が、しっかり断れる性格だったらいいのに」
 と言った時、
「いや、それが君のいいところだから」
 と言ったような気がする。それをいうと、彼女はその言葉で急に寂しそうな顔になり、何かが冷めたような雰囲気だった。
 二人目の彼女の場合は、彼女は何でも捨ててしまって断捨離をしていると言っていた。その彼女との話の内容は、これまた覚えていないのだが。やはりこの時も相手を冷めさせてしまったのか、実に寂しそうな顔をしていたような気がする。
――二人が似ていると本当に感じたのは、その寂しそうな顔を見た時ではなかっただろうか――
 と感じた、
 その時感じたのが、
「二人目の女の子は自分と性格が違っていたので、無意識に忘れようとしているのではないだろうか」
 という思いだった。
 断捨離というのが信じられなかった。
「もし、捨ててしまった後で、それが大切なものだったと気付いた時は、もう遅いんだよ」
 というと、
「でも、それまでに気付かなかったんだから、その後も気づかないと思うのが私の考えなの。もしこの考えが違っているのだとすれば、私は、その後に気付いて、ショックを受けるということよね? でも、それというのはおかしなことなのよ。辻褄が合っていないとでもいえばいいのかしら? 私が気付くとするならば、断捨離をしていた時。すでに気付いていないといけないことよね。それならわざわざ断捨離なんてしようと最初から思わないと思うの。つまりは、何かを考えるということは突き詰めるということで、突き詰めはどんどん手前に考えていくものだとすれば、結局平行線を描いてしまって、交わることのない平行線であったり、自分の前後左右に鏡を置いた時に見える自分の姿を想像するのと同じなんはないかって思うの。それが私にとっての辻褄合わせじゃないかって思うのよね」
 と彼女は言った。
 川島はビックリして。
「どうして君はそこまで考えるだい? しかも今僕と話をしている間に、それだけのことを考えたというのかい?」
「ええ、そうよ。一つのことを真剣に考えると人はそれくらいのことは考えつくと思うの。でもそれを言わないのは、何を言われるか分からないという考えが頭をもたげるからで、言っても分からない人と論議をするだけ無駄だって思うんじゃないかしら? だから言っても分かる人ができれば、その人とずっと一緒に談義をしていたいと思うし、そうなることを心の隅で絶えず望んでいると思うの。私にとってはそれがあなたで、そして、あなたであってよかったと思っているのよ」
 と言ってくれた。
 それは非常に嬉しいことだった。お店以外で会って話をしたいと思うくらいだったが、それはルール違反だった。
 彼女はそのルールを無視してもいいとでも思ってくれたのだろうか? 少なくともその時の川島と考えが重なる部分が大いにあり、彼女が何かしら求めていた相手はなかったのかと思う。
 モノを簡単に捨てられると言った彼女の発想は、それだけ鋭い頭を持っているから成り立つことであって、自分とは正反対だと思った。
作品名:音楽による連作試行 作家名:森本晃次