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音楽による連作試行

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――そういうことだったのか。何となく分かってはいたけど、自分以外の誰かからその話を聞くと信憑性を感じる。特に相手は宇月さんであれば、余計にそう感じられて仕方がない――
 と感じた。
「僕の元女房も同じだったんでしょうね」
「きっとそうだと思います」
 と言って、少しだけ二人は無口になった。
 その沈黙を破ったのも宇月さんだった。
「私、趣味で小説を書いたりしているんですが、そういう趣味を持たれるというのもいいかも知れませんよ」
 と宇月さんが話してきた。
「小説ですか? 僕も学生時代に少しだけ書いてみたことがありましたね。あの時代はまだまだ小説を書いてみたいと思っていた人が多かったですから、僕もちょっと齧ったという感じでしょうか?」
「どんなジャンルだったんですか?」
「僕は、ホラーのようなオカルトのような感じですかね。都市伝説的な話から入って、ごく普通の生活をしている主人公が、ふとしたきっかけで、不思議な世界に入り込んでしまうという、そんなお話ですね」
 というと、
「いわゆる、最後の数行で、どんでん返しを起こしたいというようなお話ですね」
「ええ、そんな感じでしょうか」
「だとすると、きっと短編だったんでしょうね」
「ええ、よくお分かりですね」
「あの当時、そういう小説が流行っていたような気がするんです。私も読んだ小説の中には、そういう小説も多かったんですよ。でも、そのほとんどは短編でした。文庫本にすれば五十ページくらいまででしょうか? それくらいがしっくりとくる小説なんです。似たような作風の小説を長編で読んだことがあったんですが、なかなか理解するのが難しかったです」
 と言われた。
「でも、今は長編も多いような気がしますが」
 というと、
「確かにそうですね。流行りが変化してきたのか、それとも小説が進化してきたのか、私は前者だと思います」
「僕もそうじゃないかと思います。ただ、それは悪い方に変化していったわけではなく、バリエーションが増えてきたという意味で、いい方に変わってきたのではないかとも思えるんです」
 というと、
「確かにそれは言えますね。出版業界は冷え切っていますけど、小説を読みたいという人が減ってきているわけではないですからね」
「でも、活字離れの傾向はしょうがないところもありますね」
「日本にはマンガという文化がありますからね。でも、私はバーチャルに訴えるのではなく、文字によって想像させられる方が好きなんです。これが小説の基本なんじゃないでしょうか?」
 と、宇月さんは言った。
 そして、宇月さんがまた話を微妙に変えてきた。
「さっき、クラシックや、プログレの話をしたでしょう? 川島さんは音楽に関して造詣が深そうなので、私もちょっと音楽的な観点から、お話を分析できればいいと思っているんですよ」
 と言った。
「ええ、音楽は好きだし、そのジャンルについても、その時々でいろいろ考えることもあります。なんだか、音楽のジャンルが人生の縮図のような気がしてですね。一人の人が一度の人生の中で、その時々でいろいろなジャンルを感じながら生きている場合もあれば、逆に一つのジャンルを貫いている人間同士が仲良くなったり、夫婦になったりしていると思うと面白いものですよね」
「私の旦那だった人は、ずっと何かのジャンルだったような気がするんです。あの人との人生に疑問を感じ始めた時、何が合わないのかって一生懸命に考えました。私も自分の人生を顧みることにしないと、不公平ですからね。そしてそうじゃないと、結論など出るはずがない。そう思ってお互いの性格やこれまでの一緒にいた時間、そして出会う前の時間まで想像してみました。でも、どうしても堂々巡りを繰り返すんです。お互いに交わるところのない平行線を感じるんです。私はそこでふと感じたんです。『堂々巡りを繰り返すから結論が出ないのであって、そもそも堂々巡りを繰り返すということが、お互いの無理を押し通してきた証拠なんじゃないかな?』ってですね。それが結論であって、修復は不可能だって考えたんです。しかも、それを本当は最初から分かっていたって思うようになったんです。つまり結婚した時からですね。分かっていて強引に自分の気持ちにウソをついてきたと感じるようになると、もう後戻りはできませんでした。何があろうと離婚してしまわなければいけないと思ったんです。だから私は、鬼になりました。相手が私の顔を見るのも嫌と思うくらいにさせたんです。さっきの川島さんの話を聞いて、旦那も同じことを思ったんだろうなと思うと、川島さんに対して、もう一度結婚の意志があるのかどうかを聞いてみたくなったんですね」
 というではないか。
 宇月さんの話を聞くと、あの時自分の奥さんも同じようなことを考えていたのだと感じた。
 ただ、一つ大きなショックだったのは、
「結婚した時から、お互いが合わないのを無理していた」
 と言われたことだった。
 実はその感化右派川島の中にもあったのだ。もちろん、最初からあったわけではなく、もし、最初に感じたとすれば、それは女房が自分と距離を置こうとした時ではないだろうか、それまで自分は女房を見ながら、自分のことを考えたことはなかった。考えていると思っていただけだった。自分が悪いから女房が話さなくなったと思いたくないという一心があり、それを否定したくて、
「何かあれば相手から言ってくるだろう」
 として、すべてを相手にボールを与えることで、逃げていたような気がした。
 そのことを宇月さんが教えてくれたような気がした。
 少し今の宇月さんの話を聞いたうえで、何とも考えがまとまらないので、
「宇月さんは自分をどのジャンルだと思いますか?」
 と聞いてみた。
「私はたぶん、一生で一つのジャンルを生き抜くというタイプではないと思うんです。その時々で違うジャンルなんじゃないかってですね。だから今はどんなジャンルかと聞かれたと思うと、私は、『ヘビーメタル』と答えるんじゃないかと思うんです」
 という、少し意外な言葉が返ってきた。
「ヘビメタですか?」
 と思わず聞き返したが、
「ええ、ヘビメタですね。それは、きっと趣味で小説を書きたくなったという自分の意志がそう感じさせるじゃないかって思うんです。ヘビメタというのは、発想として、犯罪だったりオカルトだったりのものが多いんですが、私も小説のジャンルとしては、ミステリーやオカルトを考えることが多いんです。実際に今まで読んできた小説もそっちの分野が多いですからね」
 と言われたので、小説の分野ということで訊いてみたくなった。
「宇月さんは、嫌いな小説のジャンルというのはあるんですか?」
作品名:音楽による連作試行 作家名:森本晃次