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音楽による連作試行

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「私、結構音楽を聴くのが好きなんですけど、今までには流行りの曲から、ポップス、ロックといろいろ聴いてきたんですけどね。そのうちに小学生の頃に戻ったような感覚で、もちろん、教員をしているということもあって、クラシックに戻ったんです。私に限らず、たぶん結構な人は、最初に音楽らしい音楽のジャンルに触れたとすれば、クラシックじゃないかと思うんですよね。音楽の時間もそうだけど、私の通っていた小学校では、何かのタイミングで流れる音楽はすべてクラシックだったんですよ。授業の間だったり、昼休みの間だったりですね。だから、好きだったか嫌いだったかは別にしてクラシックてずっと残っているものだったんです」
 という話を聞いて。。
「なるほどそうですよね。僕も曲名は分からないけど、いつもクラシックが流れるたびに、これは知っているって感じていたものですからね。知っている曲が流れていると嬉しいおのです。しかも、大学時代にクラシックが好きな友達が何人かいて、そんな連中の会話に自分だけが入れないのは癪だったので、僕も結構教えてもらって聴いたものです。相手は得意げになって喜んで教えてくれますよ。こっちも高貴な気持ちになれて嬉しかったですけどね」
 というと、
「そうなんですよ。私も大学時代にクラシックの好きな友達がいて、よく名曲喫茶に連れて行ってもらってました。そこはいかにもクラシックを聴くにふさわしい場所で、席にそれぞれオーディオ設備があって、自分でカウンターの奥にあるCDを選んで、店内でヘッドホンをつけて聴けるようにしてくれていたんです。もちろん、ヘッドホンなしで普通のBGMを楽しんでいる人もいましたけど、今から思えば、ほとんどが情連さんばかりで、それも嬉しかったですね。話もしたことのない人ばっかりだったんですけどね」
「僕の大学の近くにもありましたよ。似たような喫茶店。マスターが凝り性なようで、CDだけでなく、昔のレコードも、しかも、蓄音機なんかも置いてあって、行かれたらビックリするかも知れませんね」
 と言ったが、それも自分が大学時代のことなので、果たして何年前のことなのか、まだ店があるかどうかも怪しいものだった。
 だが、似たようなクラシック喫茶があり、お互いに常連だったと思うと、まるで同じ店にいつもすれ違いでいた常連客のような気がして、おかしな感覚になっていた。
 宇月さんは続けた。
「それでですね。私はクラシックが気に入っているんですけど、そのうちに最近、少し変わった音楽を聴きたいと思うようになってですね。凝っているジャンルがあるんです」
「というと?」
「もう半世紀も前に流行った音楽なんですが、今ではその存在すら知っている人は少ないかも知れませんね」
 というではないか。
 川島はビックリして、
「それって、『プログレッシブロック』のことですか?」
 と聞くと、
「ええ、その通りです。ご存じですか?」
 と言われて、
「ええ、僕は今でもよく聞きますよ。僕もクラシックと平行して聴いているんですけど、まったく違う音楽なんだけど、共通点は多いんですよ。クラシックは数百年も続いたのに、プログレは十年と持たなかったという事実もあるのにですね。面白いですよね」
 と言うと、
「でも、プログレには勢いがありましたよね。全世界にその人気は波及して、ほとんどの国でプログレのバンドができたんじゃないですか?」
「ええ、そうですよね」
 とお互いにプログレの話題に火が付いたようだ。
「プログレは、ジャズやクラシックの要素を踏まえて、高度な演奏能力で、実現させた芸術的な音楽というイメージがあります。だから、クラシックとはそのあたりが似ていると思うんです。クラシックは宗教的なイメージが濃いですが、宗教と人間の生活とは昔は切っても切り離せない関係にありましたからね。宗教が戦争を引き起こしたりという本末転倒な話もあったけど、、戦争のほとんどは、宗教が絡んでいるというのもおかしなもので、私はクラシックの壮大さはそのあたりにあるのではないかと思うんですよ」
 と、哲学的な話になってきた。
「そうかも知れないけど、クラシックにはルネッサンスのような中世の芸術が感じられます。もっとも、その芸術も宗教が絡んでいるので、結局そこに行き着いてしまうんですけどね」
 と川島がいうと、
「ところで、川島さんは、再婚をしたいとお考えですか?」
 とまたしても、宇月は話を変えた。
 何か思いついたことがあると言わなければ忘れてしまうと思うのか、話を変えるのもそのあたりに原因があるのではないかと思った。
 そもそも物忘れが激しいと感じるのも、川島の性格であり、思いついたことがすぐにメモできるようにポケットに手帳を忍ばしているくらいだった。
「物忘れの激しさ」
 これも、川島の性格の一つだった。

               ヘビーメタル

 川島の場合は、
「物忘れの激しさ」
 というよりも、自分の中にある意識として、
「モノを覚えられない性格」
 というのが、ピッタリと当て嵌まるだろう。
 どちらが重症かというと、後者の方だと思うからだ。
 物忘れするのは、忘れないようにメモを取ったりして頭で覚えておけるようにすればいいが、モノを覚えられないのは、最初から覚えようという意識がないのか、覚えられないという気持ちが頭の中にこびりついてしまって、その呪縛から逃れられない感覚なのかのどちらかに感じる。
 そうなると、忘れることよりも覚えられない方が、かなりの重症に思えてくるのであった。
「再婚ですか? そうですね、あまり考えたことはなかったですね」
 というと、
「どうしてですか?」
 と聞かれたので、
「僕の場合は別れた時が最悪だったんですよ。それまでいろいろ話をしてきたつもりだったのに、急に無口になられて、気が付けば別れようなんて言い出すんですよね。僕にとっては青天の霹靂で、理由を訊いてもハッキリとは言わない。しかも、もう話すことはないなんて言われれば、どうすればいいのか分からないでしょう? それってもう地獄ですよ。信じていた相手に裏切られるというのってこういうことなのかと感じました」
 というと、
「なるほど、そういうことだったんですね。きっと、一番接しやすかった相手が一番接しにくい相手になって、どうしていいか分からずに、孤独感が焦りに繋がっていったんでしょうね」
 と、宇月さんは冷静に分析していた。
「宇月さんの場合はどうだったんですか?」
「私の場合も似たようなところはありましたね。私も急に無口になって考え込んだりしました。旦那がそれに気づいて、話しかけてくれるかなと思ったんですが、結局話しかけてくれることはありませんでした。その時、私は一番孤独を感じましたね。焦りもしました。でも表に出すことはしませんでした。そして堂々巡りを繰り返しながら出した結論は、離婚だったんです。つまり、初めて旦那に離婚を切り出したその時には、すでに腹は決まっていたということですね」
 という宇月さんの話を聞いて、
作品名:音楽による連作試行 作家名:森本晃次